上 下
13 / 57
一章 四人の配信者

13話 最強

しおりを挟む
「ちょっと待ったぁ!!」

 俺は注射を取り出した男にタックルをかまし女性に危害が及ぶことを未然に防ぐ。
 注射は地面に落ちてパリンと割れ中身の液体がぶち撒けられる。

「てめぇ何してんだ!!」

 男達は計画が破綻したことに頭に血を昇らせて俺の顔面を強く殴りつけ、俺はそのままゴミ箱に叩きつけられてしまう。

「おいお前は女押さえてろ」

 一方がもう片方に指示しその後こちらに迫ってくる。その巨体はとてもじゃないが自分では勝てそうにない。

 パティシーを使えば……いやだめだ。あれの使用はいかなる場合でも人間相手には禁じられている。いくら正当防衛でも下手したら傷害で捕まる。
 そうなったら霧子の進路に影響が……

 パティシーを出そうとしたその手を止め、俺はその男から繰り出される蹴りを腹にもらう。さっき霧子と食べたものが飛び出そうになり必死に口を手で押さえる。

「へっ……弱いくせにイキがりやがって。おいもうその女頭殴って連れてけ」

「へいへい」

 男は拳を振り上げてそれを女性の頭部に向かって振り下ろす。
 しかしその時俺が来た道から誰かが走って駆け込んでくる。黒いロングコートを来た男だ。
 彼は止まらず拳を振り上げた男に飛び蹴りを放ちその膝が頭にめり込む。それにより暴漢は完全に気を失いその場に伏す。

「なっ……何だお前!!」

 もう一方の男は突如として現れたヒーローに驚くものの即座にハンマーを取り出す。
 
「調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 ハンマーを勢いよく振り下ろすがそれはいとも容易く止められてしまう。持ち手のところを押さえられ振り下ろさせない。
 
「ハンマーってのはこう使うんだ」

 彼は暴漢からハンマーを取り上げて、クルクル回転させながら最短距離で男の右肩を強く打つ。男は絶叫した後にその場に膝を突き呻く。
 動きを繋げるようにして、隙なく男の顔面に膝を入れて意識を狩り取る。

「これに懲りたら自分の弱さを自覚することだな……と言っても聞こえてないか」

 彼はハンマーをゴミ箱に放り捨ててこちらには何も言わずに立ち去ろうとする。

「あっ……き、君はもう行って大丈夫だよお大事に。ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 女性に怪我がないことを確認してこの場から立ち去らせ、俺はお礼を言いに走って彼の背中を追いかける。

「何だ?」

「いやお礼言いたくてさ。ありがとう助けてくれて。あんたが来てくれなかったら危なかったよ」

 俺は敬意と感謝を込めて手を差し出す。しかしその手は彼に叩かれるようにして振り払われてしまう。

「弱者の礼などいらん。それにあの男達も気に入らなかったが、何より気に入らないのはお前だ」

「お、俺?」

 眼前に指を突き出され、あまりの勢いにその場に尻から転びそうになる。

「力もないくせに粋がるな。弱者は弱者の収まる所に収まっとけ」

 彼はそれだけ言うと俺を突き放し立ち去っていく。

「それでも言わせてもらうよ。ありがとう!」

「ふん……言いたいなら勝手に言っとけオレは聞かないからな」

 男は俺の礼など無視してどこかへ去って行ってしまう。俺は警察に暴漢二人を引き渡してからバイトの面接へと急ぐのだった。


☆☆☆


 バイトの面接の翌日。俺はランキング一位の男に会うべく駅の近くの料亭に寄る。店の中の雰囲気は幻想的で、昼だというのに中は薄暗くライトアップされている。
 そこの天井の低い部屋に案内される。その天井には星座が描かれている。

「三分遅刻だな。お前……ん? お前は……」

 そこに座っていた男性に俺は見覚えがあった。つい先日俺を助けてくれたあの男だ。
 今日は黒いコートの下に青い服を着ている。

「あんたがフォルティーだったのか……」

「それはこっちのセリフだ。まさかこんな弱そうで冴えなそうな奴がアレギィだったとはな」

「何だよ会って早々失礼な奴だな……」

 ともかく俺は席に着き相手の話を聞く姿勢を取る。

「まぁ別に特段今から話す内容もない。ただ最近ランキングを上げているお前の実力を測りたかっただけだ。名目上コラボとして連絡したが、お前と戦えれば配信なんてどうでもいい」

 フォルティーはずっと目つきを鋭くさせて、運ばれてきた枝豆を食べても表情一つ変えない。
 俺も運ばれてきた料理を食べるが空気感のせいであまり味を感じない。

「これを食い終わったら近くにある俺のチームのアジトに行く。そこからダンジョンに行って戦う……という感じでいいか?」

「俺は全然構わないけど……なぁ? もうちょっと楽しく食べないか?」

 今はハンバーグの溶岩焼きを食べていたが、そこへ運ばれるナイフとフォークが止まる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境の契約魔法師~スキルと知識で異世界改革~

有雲相三
ファンタジー
前世の知識を保持したまま転生した主人公。彼はアルフォンス=テイルフィラーと名付けられ、辺境伯の孫として生まれる。彼の父フィリップは辺境伯家の長男ではあるものの、魔法の才に恵まれず、弟ガリウスに家督を奪われようとしていた。そんな時、アルフォンスに多彩なスキルが宿っていることが発覚し、事態が大きく揺れ動く。己の利権保守の為にガリウスを推す貴族達。逆境の中、果たして主人公は父を当主に押し上げることは出来るのか。 主人公、アルフォンス=テイルフィラー。この世界で唯一の契約魔法師として、後に世界に名を馳せる一人の男の物語である。

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

勇者パーティを追放されそうになった俺は、泣いて縋って何とか残り『元のDQNに戻る事にした』どうせ俺が生きている間には滅びんだろう!

石のやっさん
ファンタジー
今度の主人公はマジで腐っている。基本悪党、だけど自分のルールあり! パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のリヒトは、とうとう勇者でありパーティリーダーのドルマンにクビを宣告されてしまう。幼馴染も全員ドルマンの物で、全員から下に見られているのが解った。 だが、意外にも主人公は馬鹿にされながらも残る道を選んだ。 『もう友達じゃ無いんだな』そう心に誓った彼は…勇者達を骨の髄までしゃぶり尽くす事を決意した。 此処迄するのか…そう思う『ざまぁ』を貴方に 前世のDQNに戻る事を決意した、暗黒面に落ちた外道魔法戦士…このざまぁは知らないうちに世界を壊す。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

転生したら死にゲーの世界だったので、最初に出会ったNPCに全力で縋ることにしました。

黒蜜きな粉
ファンタジー
『世界を救うために王を目指せ? そんなの絶対にお断りだ!』  ある日めざめたら大好きなゲームの世界にいた。  しかし、転生したのはアクションRPGの中でも、死にゲーと分類されるゲームの世界だった。  死にゲーと呼ばれるほどの過酷な世界で生活していくなんて無理すぎる!  目の前にいた見覚えのあるノンプレイヤーキャラクター(NPC)に必死で縋りついた。 「あなたと一緒に、この世界で平和に暮らしたい!」  死にたくない一心で放った言葉を、NPCはあっさりと受け入れてくれた。  ただし、一緒に暮らす条件として婚約者のふりをしろという。  婚約者のふりをするだけで殺伐とした世界で衣食住の保障がされるならかまわない。  死にゲーが恋愛シミュレーションゲームに変わっただけだ!   ※第17回ファンタジー小説大賞にエントリー中です。  よろしければ投票をしていただけると嬉しいです。  感想、ハートもお待ちしております!

天才な妹と最強な元勇者

くらげさん
ファンタジー
 魔力が多い者が強いと言われる異世界で、魔力が無く魔法は使えなかったが最強になった剣の勇者。物語は魔王を倒して終わるはずだったのだが……また異世界?  反転召喚魔法陣の誤作動により生まれ変わった最強の勇者に可愛い双子の妹が出来た。 『可愛い妹様が学園に行く? 悪い虫が近寄らないように俺も学園行くわ!』  その学園は魔力無しでは入れないと言われるエリート学園だった。 この小説は、ファンタジーの世界観を舞台にした物語で、最弱の勇者が周りから煙たがられながらも、最後の戦いで世界を救う物語です。 物語は、最初は主人公である勇者がまったく期待されていない状況から始まります。彼は、歴代の勇者の中で最も弱いと言われ、周りから見捨てられていると感じています。彼は、なぜこんなにくだらない人々を助けなければならないのかと思い、戦いに疲れ果てています。 しかし、ある時、彼が現れるだけで人々の絶望的な状況に希望の光が差し込む様子を目にします。彼は、周りの人々の期待に応えようと、最強の存在になることを決意し、最後の戦いに挑むことになります。 魔王との戦いで、彼は自分の運命に向き合います。魔王は圧倒的な力を持っており、世界の終わりを象徴するような存在感を放っています。しかし、彼は黄金に輝くオーラを纏う黒剣を手にして、魔王に向かって立ち向かいます。 最弱と呼ばれた彼は、もはや最強の存在となっていました。彼は、ニヤリと笑い、魔王に「手加減してやるからかかってこいよ」と言い放ち、戦いに挑みます。 この小説は、最初は最弱であった勇者が、周りの人々の期待に応え、最強の存在になる姿を描いた物語です。彼が立ち向かう過酷な状況の中で、彼は自分自身に向き合い、自分の運命に向き合っています。そして、最後の戦いで彼は、世界を救うために魔王との戦いに挑み、自分自身を超える存在になっていく様子が描かれています。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

処理中です...