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二章 正義vs正義
36話 親なし子
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「なるほど。そちらの方々が今回の件に協力してくれる腕が立つ旅人さんですか。よろしくお願いしますね」
ディスティが大司祭様に俺達を紹介してくれて、この人も快く俺達を受け入れてくれる。特にトラブルなく作戦に参加できるようで助かった。
「大司祭様。ワタクシと彼らがいれば警備の件もなんとかなるのではないでしょうか?」
「ふむそうじゃな……それもそうだが、その前にこの人らはエムスのことをどの程度知っているのじゃ?」
「過去に人を殺したことくらいしか……」
シアから聞いた情報は奴が凶悪犯だということくらいだ。俺達三人は奴について大した情報は持っていない。
「ではわしから説明しましょう。
エムスという男はこの国で生まれた人間で、両親が魔族友好派の人間じゃったのだ」
この世界には少ないながらも人間と魔族が共存していくべきだと考えている人間もいる。ミーアもその一人だ。
「その両親はわしら反魔族教に対しても色々諭してきたが、段々と過激になっていきある日わしらの教会に火を点けたのじゃ」
人間は自分の信じた正義のためならどこまでも残酷になれる。俺は戦争を通じてそのことを痛いほど痛感している。
だからこの世界でもそのような事件があったことを知り呆れや諦めに似た感情を抱いてしまう。
「捕まえようとしたが狂った彼らはそのまま焼かれて死んでしまい、エムスは親に先立たれてしまいましたのじゃ」
小さくして親無しになってしまったのか……
奴が人を殺した極悪人とは知りつつも、その境遇には同情してしまう。親を、道を教えてくれる者を失った子供は大抵歪んでしまうことを知っているから。
「エムスは両親の死をわしらのせいだと激しく恨むようになり、反魔族教の人間を殺し回ったのです」
子供にそんなことができるのかと疑問を抱きかけたが、エムスの戦闘センスは今までに見たことがないほどだ。小さい頃でも大人を殺すことくらいはできたと言われても納得できる。
「やはり魔族は悪ですね。人間を誑かして凶行へと移らせてしまう。ワタクシ達の手で人間と切り離すべきです」
ディスティの口から美しい顔には似合わず毒が吐かれる。シアと大司祭様も頷き、その独特な思想に俺達はついていけない。
アキはポカンと口を開け、ミーアに至っては大変気まずそうにしている。共存を目指す彼女にとっては複雑な感情があるのだろう。
「魔族の件は今は置いておいて、問題は今日ある追悼式ですじゃ」
「追悼式? 何ですかそれは?」
生憎俺はここの宗教についてはあまり詳しくない。その追悼式と呼ばれる儀式については知識を持っていない。
「追悼式とは戦争で亡くなった人間達へ追悼をする儀式であり、毎年この時期にこの大聖堂でやっておりますのじゃ。
反魔族教の上の者は必ず出席する決まりとなっておりまして、エムスの脅威がある今どうするべきか困っていたのです。
当初は騎士団の者とディスティが率いるわしらの精鋭達でここを警備しようと思いましたが、あなた方も手伝ってくれるのでしたら心強いです」
それならこちらにも都合が良い。みんなでエムスを捕らえることができれば奪われたクリスタルも取り返せるだろう。
「ではディスティとシアでその人達に警備する場所などを案内してくれ」
「はいかしこまりました。シアはそっちの二人を任せてもいい?」
ディスティはシアの方を見て、ミーアとアキにも一瞬視線を送る。
「大丈夫ですが、二手に分かれる必要はありますか?」
「個人的にこのリュージさんと二人きりで話してみたくなりまして、それに二手に分かれても支障は出ませんので」
ディスティが俺の腕を掴み自分の元へと手繰り寄せる。華奢な体の割に力が強く、俺のガッシリとしている体でも簡単に動かす。
「では二人ともわたくしが案内するのでついてきてください」
二人はシアに外に連れていかれる。アキはもの寂しそうに何度もこちらを振り返るが、ミーアに手を引っ張られ渋々ついていく。
「リュージさんはワタクシとまず中を見て回りましょうか。適当な場所で少し話に付き合ってくれますか?」
「構わないよ。行こうか」
そうして俺はディスティの後ろについてこの荘厳な室内を回るのだった。
ディスティが大司祭様に俺達を紹介してくれて、この人も快く俺達を受け入れてくれる。特にトラブルなく作戦に参加できるようで助かった。
「大司祭様。ワタクシと彼らがいれば警備の件もなんとかなるのではないでしょうか?」
「ふむそうじゃな……それもそうだが、その前にこの人らはエムスのことをどの程度知っているのじゃ?」
「過去に人を殺したことくらいしか……」
シアから聞いた情報は奴が凶悪犯だということくらいだ。俺達三人は奴について大した情報は持っていない。
「ではわしから説明しましょう。
エムスという男はこの国で生まれた人間で、両親が魔族友好派の人間じゃったのだ」
この世界には少ないながらも人間と魔族が共存していくべきだと考えている人間もいる。ミーアもその一人だ。
「その両親はわしら反魔族教に対しても色々諭してきたが、段々と過激になっていきある日わしらの教会に火を点けたのじゃ」
人間は自分の信じた正義のためならどこまでも残酷になれる。俺は戦争を通じてそのことを痛いほど痛感している。
だからこの世界でもそのような事件があったことを知り呆れや諦めに似た感情を抱いてしまう。
「捕まえようとしたが狂った彼らはそのまま焼かれて死んでしまい、エムスは親に先立たれてしまいましたのじゃ」
小さくして親無しになってしまったのか……
奴が人を殺した極悪人とは知りつつも、その境遇には同情してしまう。親を、道を教えてくれる者を失った子供は大抵歪んでしまうことを知っているから。
「エムスは両親の死をわしらのせいだと激しく恨むようになり、反魔族教の人間を殺し回ったのです」
子供にそんなことができるのかと疑問を抱きかけたが、エムスの戦闘センスは今までに見たことがないほどだ。小さい頃でも大人を殺すことくらいはできたと言われても納得できる。
「やはり魔族は悪ですね。人間を誑かして凶行へと移らせてしまう。ワタクシ達の手で人間と切り離すべきです」
ディスティの口から美しい顔には似合わず毒が吐かれる。シアと大司祭様も頷き、その独特な思想に俺達はついていけない。
アキはポカンと口を開け、ミーアに至っては大変気まずそうにしている。共存を目指す彼女にとっては複雑な感情があるのだろう。
「魔族の件は今は置いておいて、問題は今日ある追悼式ですじゃ」
「追悼式? 何ですかそれは?」
生憎俺はここの宗教についてはあまり詳しくない。その追悼式と呼ばれる儀式については知識を持っていない。
「追悼式とは戦争で亡くなった人間達へ追悼をする儀式であり、毎年この時期にこの大聖堂でやっておりますのじゃ。
反魔族教の上の者は必ず出席する決まりとなっておりまして、エムスの脅威がある今どうするべきか困っていたのです。
当初は騎士団の者とディスティが率いるわしらの精鋭達でここを警備しようと思いましたが、あなた方も手伝ってくれるのでしたら心強いです」
それならこちらにも都合が良い。みんなでエムスを捕らえることができれば奪われたクリスタルも取り返せるだろう。
「ではディスティとシアでその人達に警備する場所などを案内してくれ」
「はいかしこまりました。シアはそっちの二人を任せてもいい?」
ディスティはシアの方を見て、ミーアとアキにも一瞬視線を送る。
「大丈夫ですが、二手に分かれる必要はありますか?」
「個人的にこのリュージさんと二人きりで話してみたくなりまして、それに二手に分かれても支障は出ませんので」
ディスティが俺の腕を掴み自分の元へと手繰り寄せる。華奢な体の割に力が強く、俺のガッシリとしている体でも簡単に動かす。
「では二人ともわたくしが案内するのでついてきてください」
二人はシアに外に連れていかれる。アキはもの寂しそうに何度もこちらを振り返るが、ミーアに手を引っ張られ渋々ついていく。
「リュージさんはワタクシとまず中を見て回りましょうか。適当な場所で少し話に付き合ってくれますか?」
「構わないよ。行こうか」
そうして俺はディスティの後ろについてこの荘厳な室内を回るのだった。
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