上 下
1 / 53
一章 出会いとクリスタル

1話 魔法も使えない無能は追放だ!

しおりを挟む
「リュージ。お前もういらないわ」

 パーティーのリーダーであるバニスにみんな呼び出され、開口一番に俺は信じられない言葉を告げられた。
 今この部屋にいるのは俺含め五人。俺の他にバニス含めたパーティー全員がいる。

「いらない? 何だよ急に。どういうことだよ?」

 部屋に入って挨拶を交わすよりも先に真っ先に先程の言葉を告げられた。あまりにも唐突すぎることに理解が追いついていなかった。
 いや、頭が理解を拒んでいたのかもしれない。

「はっきり言わないと分からないか? クビだよクビ! 魔法も使えず魔物と戦うことすらできないお前なんて必要ねぇんだよ!」
「どうして!? 俺は任された仕事はしっかりやってたし、戦えないことだってバニスは了承してくれてたじゃないか!」

 このパーティーに入る際、俺は魔法が使えず戦闘面では活躍できないことはしっかり説明していた。その上で戦えないなりにもこの半年間必死に頑張ってきた。
 だからこそこの不当なクビの理由に納得できなかった。

「あぁ了承したさ。だがその時と今じゃ考えが変わったんだよ。戦えないお前をいつも視界の端に入れておくのがイライラしてしょうがねぇんだよ。
 まぁ端的に言えば情けないお前の姿を仕事中ずっと見続けるのに嫌気が刺したってところだな」
「そんな滅茶苦茶な……だ、大体他のみんなは、デポとデンリとシアもこれに賛成なのか?」

 俺は先程から黙ってバニスの話を聞いている他のメンバーの三人に助けを乞うように視線を向ける。
 その視線に真っ先に気づき最初に口を開いたのはこのパーティーのタンク兼アタッカーである大柄の男、デポだった。

「俺はバニスと一緒の意見だ。お前の戦えない姿は見ていて気分の良いものではない」

 本来無口でほとんど喋らない彼だったが、俺が初めて聞く彼の長文は俺に敵意を示すものだった。
 彼のいつも見せない一面を見たせいか、それとも俺の無様な様子を見たせいか、ピンク髪の魔法使いであるデンリがケタケタと嘲るように笑い声を上げる。

「あはは! 往生際悪すぎ。いっつもダサくて面白いなーとは思ってたけど、これだけは確信を持って言えるわ。あんた今過去一ダサい!」

 俺がパーティーをクビになることについては一言も口にしなかったが、この言動から彼女も賛成なのだろうということはすぐに分かった。

「シ、シア……? 君も俺がクビになることに賛成なのか?」

 俺は縋るような思いで、聖女であり珍しい治癒魔法の使い手であるシアに話しかける。

「正直言ってわたくしも戦闘は得意ではありません」
「だ、だよな。だから助け合って……」
「ですが」

 他の人と比べ優しい彼女だけは俺の味方をしてくれると思ったが、その淡い希望は俺の言葉を遮るかのように放たれた言葉によって掻き消される。

「いくら戦えないといっても、わたくしは回復ができますし、いざとなったら結界魔法である程度は身を守ることもできます。
 それに比べてリュージさんは何ですか? 攻撃も回復もできなければ数発攻撃をもらっただけで致命傷。正直情けないです」

 シアからも見放され、この場に俺の味方をしてくれる人はいないのだと思い知らされる。
 
「まぁそういうわけで、お前のクビは満場一致なんだわ。もちろんお前は数に入れてねぇけどな。
 だから今すぐに荷物を全部置いて出て行け」
「え? 荷物を?」
「あたりめぇだろうが!!」

 バニスは机を蹴り大きな音を立てながら怒鳴る。

「大体、半年前右も左も分からず無一文でそこら辺を彷徨っていたお前を拾ってやったんだぞ? それにこの世界について何も知らないお前に一から物事教えてやったのは誰だ? あ?」
「それは……」

 俺は言い返すことができなかった。半年前俺は通り魔に殺されて気づいたらこの異世界に来ていて、何も分からず困っていたところをバニスに拾ってもらったのだ。
 実際彼にはこの世界について色々教えてもらったし恩もある。

「分かったよ。もう本当にここで……お別れなんだな」

 俺は持っていたあまり多くない荷物を全て彼に差し出し、また半年前のように無一文になった状態で部屋の扉に手を掛ける。

「そのうち使えるようになるかと期待してたが、がっかりだぜ」

 部屋から出て行く際、バニスがわざと俺に聞こえるように大きな声でわざとらしく話し出す。それに続いて他メンバーの笑い声が響く。
 俺はそれを聞こえないふりをしてこの場から立ち去ることしかできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

処理中です...