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「僕は不倫なんてしておりません! エリザベスは嘘をついている!」
周囲の痛々しい視線を吹き飛ばすように、婚約者のリックは大声を出した。
しかし顔色は相変わらず悪く、額には大量の汗が浮かんでいた。
このまま放っておいても結果は変わらないが、念のため私は口を開くことにした。
「嘘をついているのはあなたの方ですよねリック様。まあ私の言葉と彼の怪しい態度があっても確固たる証拠にはなりません」
リックが私の言葉を受けて、安心したように口角を挙げる。
「なので皆様には特別に彼の不倫現場をとらえた写真をお見せ致します」
「え……」
真っ青になるリックを横目に、私は近くにいた執事のライトに顔を向ける。
彼は私の意図を察したように頷くと、手に持っていた封筒から数枚の写真を取り出した。
「彼が手に持っているのは、リック様の不倫現場の写真でございます。今からお配りするので、ご堪能した後に他の方へ回してください」
ライトが壇上を降りて、貴族たちに写真を配る。
途端に驚いたような声が次々上がり、会場が嫌な熱気に包まれた。
私もおもむろに壇上を降りると、リックの前まで歩を運ぶ。
彼は記憶を失ったように茫然と立ち尽くしていた。
「リック様。私と婚約破棄してくださいますね?」
「悪魔だ……」
ぼそりとリックが呟いた。
次の瞬間、彼は怒りに顔を染めて、私を指差した。
「お前は悪魔だ! ここまでする必要なんてないだろ! 俺の人生台無しだぁ!!!」
「それはこちらのセリフですよ。限りある大切な私の人生が無駄になってしまいました。それに悪いのはリック様です。バレたら後悔することくらい考えればわかるでしょうに」
「黙れ黙れ!!!」
リックは大袈裟に咆哮を上げると、私に掴みかかろうとする。
しかし咄嗟に横からライトが飛び出して、あっという間にリックを制圧した。
会場の端に控えていた兵士たちが、遅れて到着して、リックを拘束する。
「くそ……離せ! くそぉ!」
リックは尚も叫びをあげていたが、無残にも連れていかれてしまう。
そんな情けない元婚約者には、同情すらも湧かなかった。
「皆様。お騒がせして申し訳ありませんでした。これにて私の話は終わりたいと思います。どうぞパーティーをお愉しみください」
私はそれだけ告げると、会場の扉へと足を進める。
ここに入ってきた時とは違う周囲からの視線に、胸がキリっと痛みを上げる。
「大丈夫ですか、エリザベス様」
隣を歩くライトが心配そうな声で言った。
「ええ」と私は平静を装うが、心臓は激しく脈打っていた。
きっと今日のことはすぐに貴族中に広まることだろう。
今まで、聖人のような王女を演じていた私にとって、それは決して良い広まり方はしないかもしれない。
しかしこれは私が自分で決めた道なのだ。
落ち込むことはあっても、後悔するなんてするわけがない。
最後に内を向いて一礼をすると、私はパーティー会場を後にした。
……パーティーから数日が経ち、異例の速さで私とリックの婚約破棄が決定した。
既にリックの不倫が貴族中に知れ渡っていたことと、リックの不倫相手が自分の身かわいさに告発をしたことが原因だった。
リックには多額の慰謝料が課せられて、王宮を出禁になった。
次王宮内で姿を見かけた時には、即刻地下牢へ幽閉されるらしい。
「これもいらないわね」
そんな顛末を頭の中で回想しながら、私は自室の写真を処分していた。
リックと撮った思い出の写真だったが、もうその価値は地に落ちている。
持っているだけで不幸になりそうなので、即刻燃やしてしまうのが賢明な判断だろう。
コンコン。
扉がノックされて、私は一旦手を止めた。
壁の時計にちらっと目を移し、まだ朝の十時であることを確認すると、私は扉へと急ぐ。
この時間帯に訪ねてくるのは、私の知る限りたった一人しかいない。
扉を開けると、そこには私と同じ金色の髪をした幼女がいた。
周囲の痛々しい視線を吹き飛ばすように、婚約者のリックは大声を出した。
しかし顔色は相変わらず悪く、額には大量の汗が浮かんでいた。
このまま放っておいても結果は変わらないが、念のため私は口を開くことにした。
「嘘をついているのはあなたの方ですよねリック様。まあ私の言葉と彼の怪しい態度があっても確固たる証拠にはなりません」
リックが私の言葉を受けて、安心したように口角を挙げる。
「なので皆様には特別に彼の不倫現場をとらえた写真をお見せ致します」
「え……」
真っ青になるリックを横目に、私は近くにいた執事のライトに顔を向ける。
彼は私の意図を察したように頷くと、手に持っていた封筒から数枚の写真を取り出した。
「彼が手に持っているのは、リック様の不倫現場の写真でございます。今からお配りするので、ご堪能した後に他の方へ回してください」
ライトが壇上を降りて、貴族たちに写真を配る。
途端に驚いたような声が次々上がり、会場が嫌な熱気に包まれた。
私もおもむろに壇上を降りると、リックの前まで歩を運ぶ。
彼は記憶を失ったように茫然と立ち尽くしていた。
「リック様。私と婚約破棄してくださいますね?」
「悪魔だ……」
ぼそりとリックが呟いた。
次の瞬間、彼は怒りに顔を染めて、私を指差した。
「お前は悪魔だ! ここまでする必要なんてないだろ! 俺の人生台無しだぁ!!!」
「それはこちらのセリフですよ。限りある大切な私の人生が無駄になってしまいました。それに悪いのはリック様です。バレたら後悔することくらい考えればわかるでしょうに」
「黙れ黙れ!!!」
リックは大袈裟に咆哮を上げると、私に掴みかかろうとする。
しかし咄嗟に横からライトが飛び出して、あっという間にリックを制圧した。
会場の端に控えていた兵士たちが、遅れて到着して、リックを拘束する。
「くそ……離せ! くそぉ!」
リックは尚も叫びをあげていたが、無残にも連れていかれてしまう。
そんな情けない元婚約者には、同情すらも湧かなかった。
「皆様。お騒がせして申し訳ありませんでした。これにて私の話は終わりたいと思います。どうぞパーティーをお愉しみください」
私はそれだけ告げると、会場の扉へと足を進める。
ここに入ってきた時とは違う周囲からの視線に、胸がキリっと痛みを上げる。
「大丈夫ですか、エリザベス様」
隣を歩くライトが心配そうな声で言った。
「ええ」と私は平静を装うが、心臓は激しく脈打っていた。
きっと今日のことはすぐに貴族中に広まることだろう。
今まで、聖人のような王女を演じていた私にとって、それは決して良い広まり方はしないかもしれない。
しかしこれは私が自分で決めた道なのだ。
落ち込むことはあっても、後悔するなんてするわけがない。
最後に内を向いて一礼をすると、私はパーティー会場を後にした。
……パーティーから数日が経ち、異例の速さで私とリックの婚約破棄が決定した。
既にリックの不倫が貴族中に知れ渡っていたことと、リックの不倫相手が自分の身かわいさに告発をしたことが原因だった。
リックには多額の慰謝料が課せられて、王宮を出禁になった。
次王宮内で姿を見かけた時には、即刻地下牢へ幽閉されるらしい。
「これもいらないわね」
そんな顛末を頭の中で回想しながら、私は自室の写真を処分していた。
リックと撮った思い出の写真だったが、もうその価値は地に落ちている。
持っているだけで不幸になりそうなので、即刻燃やしてしまうのが賢明な判断だろう。
コンコン。
扉がノックされて、私は一旦手を止めた。
壁の時計にちらっと目を移し、まだ朝の十時であることを確認すると、私は扉へと急ぐ。
この時間帯に訪ねてくるのは、私の知る限りたった一人しかいない。
扉を開けると、そこには私と同じ金色の髪をした幼女がいた。
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