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「追放……婚約破棄……」

追放だけならばまだよかった。
婚約破棄だけならば、まだ立ち直れた。
だが、同時に失うには、この二つは私にとって重要すぎた。
輝かしい未来が崩れるように、目の前が真っ暗になる。

「あっ……」

そのままバランスを崩した私は、床に倒れこんだ。
呼吸が荒くなり、視界が霞んでいく。
脳に酸素が行きわたっていないのか、今にも倒れてしまいそうだった。

カツカツと背後に足音が聞こえた。
次いで父の冷徹な声。

「アリス。今までご苦労だった。この家はマークも含めた私だけで運営していく。もうお前は必要ない。せめてもの情けで国境まで馬車を出してやる。そこからはもう自分の力で生きろ。いいな」

振り返り、父の厳しい顔を見上げた。
きっと父から見たら、私は縋るような目をしているに違いない。
母が薄ら笑いを浮べながら続く。

「シェルのように愛想がよかったらこんなことしないのにね。まあ運命だと思って諦めてちょうだい」

今度はシェルが口を開いた。

「お姉ちゃん、私はいつまでもお姉ちゃんが幸せになれることを祈っているよ。マークと一緒に。ふふっ」

その目は未だに嬉々として輝いている。
最後にマークが言葉を紡ぐ。

「アリス。君は本当につまらなくて地味な女だった。これからは一人で生きるといい。君にはそれがお似合いだ。そもそも領地経営ができる女なんて誰も必要としていないのだからな。ははっ!」

四人の笑い声が応接間にこだまして、その中央にいる私を苦しめる。
未だに立ち上がることができない私は、最悪の気分に浸りながら、何とか心を立て直そうとした。

しかし、浮かんでくるのは嫌なイメージばかりで、幸せなんて微塵も感じられない。
彼等がいうように、私はこれから一人で生きていかなくてはいけない。
それが私の運命なんだ。

もう何もかもがどうでもよくなった時、私は立ちあがった。
四人の笑い声がピタリと止む。

「さようなら」

最後に出た言葉は、聞き取れるか怪しいほどに小さなものだった。
私は入ってきた時と同様に、重たい足取りで応接間の扉へと向かう。
一歩また一歩と進むごとに、体もどんどん重くなっていく。

やっとのこと扉をあけた時、そこにはメイドのキャサリンがいた。
彼女の瞳は、珍しく、燃え滾るような怒りを滲ませていた。

「アリス様。お疲れ様でした」

彼女はそれだけ言うと、応接間へと入ってきた。
私の後ろに回り、中にいる四人へと対峙する。

「なんだ、お前……?」

父が鋭い眼光をキャサリンへ向けるが、彼女は怯まずに堂々と告げる。

「アリス様を追放なさるのなら、私も追放してください!アリス様のいない家に留まる理由など、微塵もありません!」
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