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二
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ああ、そういうことですか。
母の笑い声を聞いた私は、内心確信をした。
どうやらここに集まっている私の家族は、皆意見が一致しているらしい。
私の偽りの無能さを語り、私を否が応でも家から追い出したいのだ。
自分の無能さと向き合わないために。
「……アリス」
今度は父が口を開く。
「お前は今日から伯爵令嬢の肩書を失う。これからは平民アリスとして生を全うするのだ。私たちの意見に異論は認めない。お前はこの家の当主でもなんでもないのだからな。ははっ」
どこまで醜い人達なのだろうか。
こんな家族の元に生まれてきてしまった自分が急に恥ずかしくなる。
「お姉ちゃん」
シェルがふいにソファを立ち上がると、陽気な足取りで私の前まで歩を進める。
私は毅然とした態度でそれを迎え入れるが、シェルはそれすら払いのけるように、歪んだ笑みを浮かべた。
「昔から勉強できない私のことを馬鹿にしていたよね。私、気づいていたんだから。でも、もうそんなことできないよね。これからは私に平伏して敬語を使うの。追放なんてしないでくださいって。ね? そうでしょう?」
「シェル……」
私は大きなため息をはくと、身の程を知らない妹へ言葉を紡ぐ。
「あなたが勉強ができないのは事実でしょう。だって、努力を何にもしていないのだから。友人たちは皆毎日のように勉強しているわよ。私だってもちろんそう。周囲がそんな環境なのにあなただけ何もしていないのだから、勉強ができなくなるのも当たり前のこと。それに、私はあなたを馬鹿にしたことなんて一度もないわ。むしろそれはあなたの方……」
「うるさい!!!」
シェルは私の言葉が気にくわなかったのか、声を荒げた。
応接間ががくんと揺れたような感覚が全身に走る。
「お姉ちゃんはさぁ……ほんとに人をイラつかせる天才だよね。でもね、最終的にはお姉ちゃんみたいな真面目くさった人より、私みたいな愛教のある子が愛されるの。そうじゃなかったら、追放なんてされないでしょう?」
「……そうかもしれないわね。ただ、この家においては……だけど」
もうこれ以上付き合うのも、バカバカしく思えてきた。
私は妹の横を悠然と通り過ぎると、ソファに座る婚約者マークへと歩み寄る。
「マーク。この人たちは放っておいて、行きましょう」
「ああ、そうだね」
マークがすっと立ち上がると、私をしっかりと見つめる。
金色の髪から覗く瞳が、どこか影を帯びていた。
言いようもない不安が背中に走った時には、彼は私の横を通り過ぎ、妹の手を握っていた。
「僕は本当に愛する人の元へ行かなければならない」
「……は?」
マークとシェルが顔を見合わせて微笑む。
どうやら、妹は私の婚約者まで奪ったようです。
母の笑い声を聞いた私は、内心確信をした。
どうやらここに集まっている私の家族は、皆意見が一致しているらしい。
私の偽りの無能さを語り、私を否が応でも家から追い出したいのだ。
自分の無能さと向き合わないために。
「……アリス」
今度は父が口を開く。
「お前は今日から伯爵令嬢の肩書を失う。これからは平民アリスとして生を全うするのだ。私たちの意見に異論は認めない。お前はこの家の当主でもなんでもないのだからな。ははっ」
どこまで醜い人達なのだろうか。
こんな家族の元に生まれてきてしまった自分が急に恥ずかしくなる。
「お姉ちゃん」
シェルがふいにソファを立ち上がると、陽気な足取りで私の前まで歩を進める。
私は毅然とした態度でそれを迎え入れるが、シェルはそれすら払いのけるように、歪んだ笑みを浮かべた。
「昔から勉強できない私のことを馬鹿にしていたよね。私、気づいていたんだから。でも、もうそんなことできないよね。これからは私に平伏して敬語を使うの。追放なんてしないでくださいって。ね? そうでしょう?」
「シェル……」
私は大きなため息をはくと、身の程を知らない妹へ言葉を紡ぐ。
「あなたが勉強ができないのは事実でしょう。だって、努力を何にもしていないのだから。友人たちは皆毎日のように勉強しているわよ。私だってもちろんそう。周囲がそんな環境なのにあなただけ何もしていないのだから、勉強ができなくなるのも当たり前のこと。それに、私はあなたを馬鹿にしたことなんて一度もないわ。むしろそれはあなたの方……」
「うるさい!!!」
シェルは私の言葉が気にくわなかったのか、声を荒げた。
応接間ががくんと揺れたような感覚が全身に走る。
「お姉ちゃんはさぁ……ほんとに人をイラつかせる天才だよね。でもね、最終的にはお姉ちゃんみたいな真面目くさった人より、私みたいな愛教のある子が愛されるの。そうじゃなかったら、追放なんてされないでしょう?」
「……そうかもしれないわね。ただ、この家においては……だけど」
もうこれ以上付き合うのも、バカバカしく思えてきた。
私は妹の横を悠然と通り過ぎると、ソファに座る婚約者マークへと歩み寄る。
「マーク。この人たちは放っておいて、行きましょう」
「ああ、そうだね」
マークがすっと立ち上がると、私をしっかりと見つめる。
金色の髪から覗く瞳が、どこか影を帯びていた。
言いようもない不安が背中に走った時には、彼は私の横を通り過ぎ、妹の手を握っていた。
「僕は本当に愛する人の元へ行かなければならない」
「……は?」
マークとシェルが顔を見合わせて微笑む。
どうやら、妹は私の婚約者まで奪ったようです。
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