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「はい?」

本当に意味が不明で仕方なかった。
私の婚約者で、あんなに私に愛を囁いたライトは、今私ではなく病弱だというマリーという女性を擁護していた。

「ライト、あなたは何を言っているの?」

見たくもない現実を見させられ、怒りがふっと湧くも、それ以上に困惑が湧いてきた。
私の唖然とした調子を見て、ライトは呆れたように言う。

「聞こえなかったのか。彼女……マリーは生まれつき病弱なんだ。君が刺激するからこんなに怯えてしまったじゃないか……可哀そうに……大丈夫かい、マリー?」

マリーと呼ばれた彼女は、青白い顔をライトに向けた。
そしてどこか意味ありげな視線と共に口を開く。

「ライト様がお傍にいてくだされば大丈夫です。ミーシャ様のことあまり責めないでください」

「ああ……何と優しい子なんだ君は。聞いたかミーシャ、お前にも見習ってほしいよ」

「いや、ちょっと待ってもらえるかしら?」

ダメだ、頭の整理がつきそうもない。
私は呼吸を整えると、ずっと抱えていた疑問を口にする。

「ライト、そもそもなんで彼女はここにいるの?あなたとはどういう関係なの?今日は出かけたんじゃなかったの?」

質問攻めにライトは苦い顔をした。
私から目を逸らすと、それに不機嫌そうに答える。

「彼女は僕の友人だ。いや、友人以上の存在だ。自分よりも誰よりも大切な存在だ。今日だって彼女と出かけていたが、途中で体調が悪くなって、僕の部屋で休んでいたんだ」

引っかかることはたくさんあるが、現実的な疑問を口にする。

「なぜ部屋で休んでいたの。医務室なら一階にあるでしょう」

「それは……」

口ごもったライトに変わり、マリーが私に言う。

「それは私が悪いのです!私がライト様と一緒にいたいと我がままを言ったから……全部私のせいなのです!」

どこか演技っぽいものを感じるが、その目にはしっかりと涙が溜まっているよう。
それを目にしたライトは唖然とした表情になり、後ろからマリーをぎゅっと抱きしめた。

「マリー……そんなに自分を悪く言わないでくれ。君のせいじゃない。誰も悪くない」

「ライト様……どうしてそんなにお優しいのですか……本当にありがとうございます……心が温まります」

逆に私の心は冷え切っていますけれど。
そう言いたいのを何とか堪えながら、私は目を細めた。

二人の様子からして、男女の仲になっているのは確実。
ライトの衣服が乱れていたのも、きっと行為に及んでいたから。

そこまで考えて、ここでやっと心に悲しみが浮かんできた。
私が愛したライトは、私ではなく、自称病弱の彼女に夢中みたいだ。
彼女を優先し、きっとこれからも彼女のために生きるのだろう。
私と結婚することも、考えていないのかもしれない。

激しい悲しみと怒りが胸の中で渦を巻いていた。
しかしそれは臆病な私に、冷静な狡猾さを与えてくれた。
頭がすっと晴れていく妙な感覚に襲われる。

「……マリーさん。失礼だけど、あなたの爵位を聞いてもよろしいかしら?」

自分でも分かった。
声がいつもと違うのだと。
マリーは思い出したように体を震わせると、小さな声で呟く。

「……子爵家です。ミーシャ様のような身分はありませんが……」

「もう結構よ」

マリーが怯えたように俯くと、再び泣き始めた。

「おいミーシャ!マリーをいじめるなと何度も言わせるな!彼女は病弱なんだ、彼女の身に何かあったらタダじゃ……」

「おかない?でもそれは私のセリフよライト」

私はそこまで言うと、愛する……いや、ついさっきまで愛していた婚約者に冷徹な声で告げる。

「あなたとは婚約破棄させてもらうわね」
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