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「なに? 離婚だと?」
僕がパーティーでの一件を告げると、父は露骨に嫌な顔をした。
応接間の空気が一層重たくなり、足がすくんでくる。
目の前のソファに座る父は腕を組むと、眉間にしわを寄せた。
「この馬鹿が……不倫など低俗な真似をしおって……」
「ごめんなさい」
弁明の余地などない。
僕が不倫をしたのは事実だし、エルをぞんざいに扱ったのも事実だ。
客観的に見れば、僕の有責となるだろう。
「くそっ……公爵令息が理性に溺れて離婚とは……ふざけるなよ!!!」
父がソファから立ち上がる。
そして僕の方に歩いてくると、思い切りビンタをしてきた。
鋭い音が響き渡り、頬にじんとした痛みが広がっていく。
「ジーク……お前は勘当する」
「え?」
冗談だろ?
たったこれだけのことで勘当?
心の中で叫んだ。
「異論は許さない。話は以上だ」
「い、いや……待ってくださ……」
しかし父は止まることなく、静かに応接間を出て行った。
……自分の屋敷に戻ると、僕はアイラの元へ急いだ。
この時間なら部屋でくつろいでいるだろう。
扉の前まで到着すると、僕はノックもせずに開ける。
そして後悔した。
「ああ、好きよエドワード……」
「僕もですアイラさん」
「は?」
部屋の中央で抱き合う男女。
女はアイラで、男はこの家に仕える庭師の青年だった。
「おい」
低い声を出すと、二人の動きがピタリと止まる。
そしてこちらを向いて顔を真っ青にした。
「ジーク様! これは違うのです!」
途端にアイラはエドワードの元を離れると、僕の前に駆けてくる。
そのままつらつらと言い訳を並べていたが、さっき見た光景が消えるわけでもない。
怒りが全身を支配して、気づいた時には手を出していた。
アイラの頬に強烈なビンタを浴びせ、大きく口を開く。
「この尻軽女! お前はクビだ! お前もだエドワード! 二人そろって僕の前から消えろ! 二度と顔を見せるなぁ!!!」
「「ひっ!」」
二人は同時に悲鳴を上げると、一目散に部屋を飛び出していく。
その様子を睨みつけながら、僕は拳を堅く握りしめた。
二人が完全に消えると、壁に拳をドンと打ち付ける。
「どうして……どうしてこうなるんだ……くそっ!」
一体何が間違っていたというのか。
両親から勘当され、恋人には裏切られ、本当に散々な末路だ。
「どうして……」
次第に心には絶望が広がり、足の力が消えていく。
僕はガクリと項垂れると、その場に崩れ落ちた。
その後、勘当された僕が貴族の暮らしを続けられるはずもなく、早々に屋敷を手放すことになった。
使用人たちは皆僕の元を去り、僕は一人で街を出た……
僕がパーティーでの一件を告げると、父は露骨に嫌な顔をした。
応接間の空気が一層重たくなり、足がすくんでくる。
目の前のソファに座る父は腕を組むと、眉間にしわを寄せた。
「この馬鹿が……不倫など低俗な真似をしおって……」
「ごめんなさい」
弁明の余地などない。
僕が不倫をしたのは事実だし、エルをぞんざいに扱ったのも事実だ。
客観的に見れば、僕の有責となるだろう。
「くそっ……公爵令息が理性に溺れて離婚とは……ふざけるなよ!!!」
父がソファから立ち上がる。
そして僕の方に歩いてくると、思い切りビンタをしてきた。
鋭い音が響き渡り、頬にじんとした痛みが広がっていく。
「ジーク……お前は勘当する」
「え?」
冗談だろ?
たったこれだけのことで勘当?
心の中で叫んだ。
「異論は許さない。話は以上だ」
「い、いや……待ってくださ……」
しかし父は止まることなく、静かに応接間を出て行った。
……自分の屋敷に戻ると、僕はアイラの元へ急いだ。
この時間なら部屋でくつろいでいるだろう。
扉の前まで到着すると、僕はノックもせずに開ける。
そして後悔した。
「ああ、好きよエドワード……」
「僕もですアイラさん」
「は?」
部屋の中央で抱き合う男女。
女はアイラで、男はこの家に仕える庭師の青年だった。
「おい」
低い声を出すと、二人の動きがピタリと止まる。
そしてこちらを向いて顔を真っ青にした。
「ジーク様! これは違うのです!」
途端にアイラはエドワードの元を離れると、僕の前に駆けてくる。
そのままつらつらと言い訳を並べていたが、さっき見た光景が消えるわけでもない。
怒りが全身を支配して、気づいた時には手を出していた。
アイラの頬に強烈なビンタを浴びせ、大きく口を開く。
「この尻軽女! お前はクビだ! お前もだエドワード! 二人そろって僕の前から消えろ! 二度と顔を見せるなぁ!!!」
「「ひっ!」」
二人は同時に悲鳴を上げると、一目散に部屋を飛び出していく。
その様子を睨みつけながら、僕は拳を堅く握りしめた。
二人が完全に消えると、壁に拳をドンと打ち付ける。
「どうして……どうしてこうなるんだ……くそっ!」
一体何が間違っていたというのか。
両親から勘当され、恋人には裏切られ、本当に散々な末路だ。
「どうして……」
次第に心には絶望が広がり、足の力が消えていく。
僕はガクリと項垂れると、その場に崩れ落ちた。
その後、勘当された僕が貴族の暮らしを続けられるはずもなく、早々に屋敷を手放すことになった。
使用人たちは皆僕の元を去り、僕は一人で街を出た……
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