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五
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約束の時間を二分過ぎた。
僕は苛立ち、貧乏ゆすりをした。
「オーフェン様ぁ、遅いですね」
そんな僕に賛同するように、隣に座るリリアが口を尖らせる。
応接間のソファに僕達は腰を下ろしていた。
エレノアから突然呼び出されたのだ。
「ふん、あいつのことだし、どうせ支度に時間がかかっているのだろう。もしかしたら厚化粧でもして僕を誘惑する気かもしれないなぁ」
「そんなの嫌ですぅ!」
リリアが僕の腕にぎゅっと抱き着く。
ふわっと良い香りが鼻をつき、情欲が滾ってきた。
思わずリリアの太ももに手を置いた時、応接間の扉が勢いよく開いた。
「お待たせいたしました」
すっと太ももから手を離し扉の方を見ると、エレノアと、なぜか兄のラングトンが立っていた。
「エレノア……お兄様まで……これはどういうことでしょうか?」
神妙な口調で訊いてみると、エレノアがそれに答えた。
「ラングトン様に同席して頂いたのはリリアのことを調べるためです。彼女が本当に魔法を使えるのかどうかを」
「は?」
この女は何を言っているのか。
リリアが嘘を言っているとでも言いたいのか。
僕は眉間にしわを寄せるも、それに対抗するように今度は兄が口を開いた。
「僕が雷の魔法を使えるのは知っているな。もし魔法使いではないことが判明したらお前たちに電撃をくらわせる。僕だってそんなことはしたくないから、魔法が使えないのなら今すぐに申し出ろ」
「お兄様!」
僕はたまらず立ち上がると、兄に叫ぶ。
「リリアは正真正銘の魔法使いです。僕の前で屈強な男たちを気絶させてみせたのですから。なあリリア!?」
リリアに顔を向けると、彼女はどこか青い顔で「は、はい」と頷いた。
嫌な予感が一瞬したが気にせず言葉を続ける。
「リリアもこう言っていることですしさっさと調べてください。彼女が魔法を使えないなんて事実はあり得ませんがね」
「うむ、ならば早速」
兄は微かに口角をあげると、リリアに右手を向けた。
そして息を吸い込み、呪文を詠唱する。
「魔力の根元、姿を現わせ!!!」
この呪文の効果は魔法使いではない僕でも知っている。
手を向けた者の魔力の大きさを、空気中に球体として出現させるのだ。
魔力が強いものは人よりも大きな球体となり、少ないものは手の平サイズの球体になる。
この目で球体が生まれるのを何度も見てきた。
「さて、リリアはどうかな」
僕は兄の手の先を辿り、リリアの前に視線を向けた。
しかしそこには球体は微塵も見られなかった。
リリアは顔面蒼白になり、俯いている。
「……え?」
は?なんだこれ?
意味が分からず再び兄へと顔を向ける。
「オーフェン。お前は騙されていたんだよ。彼女は魔法使いではなかった。そもそも王族の血筋でもない男爵令嬢が魔法を使える可能性は限りなく低い。知らなかったか?」
「い、いや知っていましたが……しかし……」
まさか本当にリリアは魔法が使えない。
僕を騙していたのか?
「リリア、嘘だよな? これは何かの間違いなんだよな?」
縋るように言うも、彼女は力なく首を横に振る。
「も、申し訳ありませんでした……お、王子の妻になりたくて……う、嘘をつきました……」
「なんだと……そんな……」
視界がゆらいで足の力が抜けた。
その場に膝をつくと、頭上からエレノアの声が聞こえてくる。
「オーフェン様。どうかリリアとお幸せに」
「……い、いや違う! 違うんだ!」
魔法が使えない男爵令嬢になど価値はない。
それならば伯爵令嬢であるエレノアの方がまだマシだ。
僕は立ち上がると、精いっぱいの笑顔を浮かべる。
「エレノア。僕が本当に愛しているのは君なんだ。どうかもう一度僕とやり直そう。二人で幸せな未来を築いていこう」
「……」
エレノアは沈黙した後、小さく息をはいた。
そして氷のように冷たい声で僕に言い放つ。
「もうあなたに興味はありません。さっさと離婚してください」
「え……」
全身に恐怖が伝い、パチンと指を鳴らす音がした。
さっと兄へ視線を向けると、彼は指を胸の前に掲げて笑っていた。
「約束だからな」
次の瞬間、雷に打たれたように全身に電流が走った。
「うっ……うぎゃぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ぎゃぁぁ!!!!」
リリアも同じように叫んでいるみたいで、バチバチという電気の音と悲痛な叫びが鼓膜を震わせた。
数秒それが続きやっと電気が止まると、僕は再び床に膝をついた。
意識が朦朧として視界が霞む。
最後に見たのはエレノアの背中だった。
僕は苛立ち、貧乏ゆすりをした。
「オーフェン様ぁ、遅いですね」
そんな僕に賛同するように、隣に座るリリアが口を尖らせる。
応接間のソファに僕達は腰を下ろしていた。
エレノアから突然呼び出されたのだ。
「ふん、あいつのことだし、どうせ支度に時間がかかっているのだろう。もしかしたら厚化粧でもして僕を誘惑する気かもしれないなぁ」
「そんなの嫌ですぅ!」
リリアが僕の腕にぎゅっと抱き着く。
ふわっと良い香りが鼻をつき、情欲が滾ってきた。
思わずリリアの太ももに手を置いた時、応接間の扉が勢いよく開いた。
「お待たせいたしました」
すっと太ももから手を離し扉の方を見ると、エレノアと、なぜか兄のラングトンが立っていた。
「エレノア……お兄様まで……これはどういうことでしょうか?」
神妙な口調で訊いてみると、エレノアがそれに答えた。
「ラングトン様に同席して頂いたのはリリアのことを調べるためです。彼女が本当に魔法を使えるのかどうかを」
「は?」
この女は何を言っているのか。
リリアが嘘を言っているとでも言いたいのか。
僕は眉間にしわを寄せるも、それに対抗するように今度は兄が口を開いた。
「僕が雷の魔法を使えるのは知っているな。もし魔法使いではないことが判明したらお前たちに電撃をくらわせる。僕だってそんなことはしたくないから、魔法が使えないのなら今すぐに申し出ろ」
「お兄様!」
僕はたまらず立ち上がると、兄に叫ぶ。
「リリアは正真正銘の魔法使いです。僕の前で屈強な男たちを気絶させてみせたのですから。なあリリア!?」
リリアに顔を向けると、彼女はどこか青い顔で「は、はい」と頷いた。
嫌な予感が一瞬したが気にせず言葉を続ける。
「リリアもこう言っていることですしさっさと調べてください。彼女が魔法を使えないなんて事実はあり得ませんがね」
「うむ、ならば早速」
兄は微かに口角をあげると、リリアに右手を向けた。
そして息を吸い込み、呪文を詠唱する。
「魔力の根元、姿を現わせ!!!」
この呪文の効果は魔法使いではない僕でも知っている。
手を向けた者の魔力の大きさを、空気中に球体として出現させるのだ。
魔力が強いものは人よりも大きな球体となり、少ないものは手の平サイズの球体になる。
この目で球体が生まれるのを何度も見てきた。
「さて、リリアはどうかな」
僕は兄の手の先を辿り、リリアの前に視線を向けた。
しかしそこには球体は微塵も見られなかった。
リリアは顔面蒼白になり、俯いている。
「……え?」
は?なんだこれ?
意味が分からず再び兄へと顔を向ける。
「オーフェン。お前は騙されていたんだよ。彼女は魔法使いではなかった。そもそも王族の血筋でもない男爵令嬢が魔法を使える可能性は限りなく低い。知らなかったか?」
「い、いや知っていましたが……しかし……」
まさか本当にリリアは魔法が使えない。
僕を騙していたのか?
「リリア、嘘だよな? これは何かの間違いなんだよな?」
縋るように言うも、彼女は力なく首を横に振る。
「も、申し訳ありませんでした……お、王子の妻になりたくて……う、嘘をつきました……」
「なんだと……そんな……」
視界がゆらいで足の力が抜けた。
その場に膝をつくと、頭上からエレノアの声が聞こえてくる。
「オーフェン様。どうかリリアとお幸せに」
「……い、いや違う! 違うんだ!」
魔法が使えない男爵令嬢になど価値はない。
それならば伯爵令嬢であるエレノアの方がまだマシだ。
僕は立ち上がると、精いっぱいの笑顔を浮かべる。
「エレノア。僕が本当に愛しているのは君なんだ。どうかもう一度僕とやり直そう。二人で幸せな未来を築いていこう」
「……」
エレノアは沈黙した後、小さく息をはいた。
そして氷のように冷たい声で僕に言い放つ。
「もうあなたに興味はありません。さっさと離婚してください」
「え……」
全身に恐怖が伝い、パチンと指を鳴らす音がした。
さっと兄へ視線を向けると、彼は指を胸の前に掲げて笑っていた。
「約束だからな」
次の瞬間、雷に打たれたように全身に電流が走った。
「うっ……うぎゃぁぁぁぁ!!!!!!!」
「ぎゃぁぁ!!!!」
リリアも同じように叫んでいるみたいで、バチバチという電気の音と悲痛な叫びが鼓膜を震わせた。
数秒それが続きやっと電気が止まると、僕は再び床に膝をついた。
意識が朦朧として視界が霞む。
最後に見たのはエレノアの背中だった。
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