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【完】夢魔アイドルは支配されたい④
しおりを挟むブラウスにタイトスカートの満月を見て、零斗は眉間に皺を寄せる。
スカートの裾を軽く引っ張ると、満月が小首を傾げた。
「どうしたの?」
零斗は少し逡巡する。
「仕事...辞めないの?」
ベッドに座っている零斗は立っている満月を見上げる形になっている。
隠すようなことは全てなくなった零斗は、もう自分の表情を作ったりはしていないのだが、年齢より幼く見える彼に、満月は心臓を鷲掴みされる。
そんな彼女をウルウルと見つめる。
「くっ...。...辛いししんどいから、私だって辞めたいけど...収入源を失うわけには」
「俺が養うから!それが嫌ならせめて転職しよ。今すぐ」
Dr.BACはそれなりに売れていて、生活費くらいでしかお金を使わない零斗には潤沢な資金がある。
懇願するように、満月の両手を握りしめた。
満月は苦悩するように唸る。
「零斗くんが一緒に住んでくれるなら...。でもさすがにヒモにはなりたくないので転職活動はします」
ぱあっと明るくなる零斗は、嬉しさで出てしまっている尻尾を振って、満月に抱きつく。
満月はその日のうちに職場へ退職する旨を伝え、零斗は収録の合間で新居探しに勤しんだ。
1ヶ月後には、ブラックな会社を吸血鬼の能力も駆使して早々に退職した満月と、同棲先へ引っ越し作業を進めていた。
遥希にはもし週刊誌に撮られたらと反対されたが、満月が吸血鬼であることを伝えると、すぐに了承してくれた。
曰く、吸血鬼の能力があれば、情報操作などどうとでもなるということらしい。
それを聞いた零斗は、満月に疑問をぶつけた。
「安達からのセクハラを受け入れてたの、なんで?」
ジトっと睨むと、満月は苦笑する。
「必要な血は少量で済むけど、やっぱりお腹減るから。向こうから来てくれるの、都合が良かったんだよね」
零斗は自分でも身に覚えがあるが故に、何も言えない。
黙り込んでいたら、よしよしされてしまった。
「これからは零斗くんだけだよ」
(俺だけ...)
2人だけの時には隠さなくなった零斗の尻尾が、床をパシパシと叩く。
「お、俺も満月ちゃんだけ」
外していた視線をそろりと満月に戻すと、にっこり笑っていた。
そこにはヒヤリとした冷たさが含まれていて、零斗の背に悪寒が走る。
「前みたいなことがあったら...次は零斗くんのこと壊しちゃうかも」
プロデューサーのことを出され、頬が引き攣る。
はい...と、震えながら答えることしかできなかった。
「私は零斗くんが料理してくれるようになってからは、零斗くんの血だけをこっそりもらってたのに」
頬を膨らませる満月に、ぎゅうっと抱きつく。
「ごめんなさい」
「ん。良い子」
背中を撫でてくれる暖かさに、胸がいっぱいになる。
満月の赤い瞳に、思考が奪われていくような気がした。
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