啼いて僕らは息をする

白雪 鈴音

文字の大きさ
上 下
6 / 10
禿編

質疑応答

しおりを挟む
質問攻めから解放されたのは夜見世の始まる少し前だった。
ほとんどの花魁達は張見世へと降りていった。
張見世とは、位の低い男娼たちが赤い格子の中から外の客を誘惑する商売方法で、今日挨拶に行った霜月花魁や先程水無月に葉月と呼ばれた花魁は、どうやら太夫と呼ばれるこの花街最高峰の花魁らしい。
その為、張に出ることはなく客を自室へ通すのだ。
一方今僕ら二人を自身の部屋へと連れてきてくれた葵花魁はどうやら座敷持と言われる部屋を二つ持った花魁で、こちらも太夫同様指名制なのだという。

葵に部屋に通されて数分。
僕達三人は膝を突合せていた。
というのも布団を敷く位置をどうするか、と言う問題が浮上した為だ。
葵の今日の指名は二十五時から明け方まで。
そして現時刻は十八時だった。

「隣のお部屋は俺が客を通す部屋にしてるから二人がこの部屋を使うといい」

そう言い張る葵だが、朝霧はどうにもそれを良しとしない。
幾分か慣れてきた朝霧は俺の影に隠れながらもそれだと葵兄様の迷惑になる、と主張しているのだ。
兄様、というのはここに来て真っ先に葵に教わったことだ。
あまり関わりの無い花魁にも年上には敬意を払い、そしてもう同じ宿の下暮らす家族としてそう呼ぶように、と。
この部屋に来る途中教わったためまだ照れも混じっているも、僕以外に家族と思えるような相手がいなかったためかどこか嬉しそうだ。

「僕も、朝霧と同じ気持ちです。葵兄様がお仕事までは占領してしまうことになる。だから……」

「全く!君達二人はもう俺の弟なんだからそんな遠慮いらないんだよ?それに君ら、ちっちゃいから全然場所も取らないでしょ?」

葵は笑顔で僕らを抱きしめる。
葵の言った言葉と、ほんのりと香る柑橘系の香り、優しい温かさに包まれれば朝霧は肩を揺らした。
かくいう僕も目の奥が熱くなり目を閉じる。
それを感じとった葵はポンポンと背中を叩き、頭を撫でてくれた。
隣から朝霧の安定した寝息が聞こえてきた事で、僕も安心して思わず欠伸がこぼれた。

「眠っていいんだよ。ここにはもう君達に意地悪をする人はいないから」

着物の隙間から見え隠れする無数の青あざにここに連れてこられる前の生活を察した葵は優しく、まるで母のように告げる。
そのあまりの温もりに僕も自然と意識は落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

孤独を癒して

星屑
BL
運命の番として出会った2人。 「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、 デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。 *不定期更新。 *感想などいただけると励みになります。 *完結は絶対させます!

処理中です...