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蠢く闇

優しく抱いてね

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診察室へ入って椅子に座ってもどちら口を開かない。
秋良は「缶、空なら捨てるぞ」と言ってくれたのでありがとう~と雪成はへら、と笑って見せた。
缶は部屋の隅にあったゴミ箱にカランという音を立てて捨てられた。
その音が今はとても大きく聞こえ、しっかりしろ、と言っているかのように思えたのだ。

「お前、あそこで何してたんだ……?今にも泣きそうな顔をして……」

勇気が湧いた時、秋良が先に口を開いた。

「さっきさ~刑務所に行ったんだよ。僕を監禁していた男二人に会ってきたんだぁ……やっぱりすっごいクズでさ、乾いた笑いしか出てこないよ」

あはは、と苦笑いを浮かべるもそれが痛々しくて秋良は雪成をほぼ無意識のうちに抱きしめた。

「ちょっ、と……秋良せんせっ?……どうしたの……?」

雪成もまさか突然抱き締められるとは思っておらず狼狽えた声を上げる。
しかしそれを聞いていないのか秋良は離れる事をしない。

「せんせ……ちょっと、痛い、よ……」

ドクンドクン、とお互いの鼓動が聴こえる。
どちらも脈が速い。
それに気が付いた雪成は何故抱きしめられているのかを考えた。
そうして、自身を心配してくれているのだと結論付けた。

「泣けよ……。……どうせ泣いて無いんだろ……。辛い事が人それぞれ違うってことはここに来てから痛いほど分かった。だからお前は今泣くべきだ。」

そう言われれば自身の心とは裏腹に涙が込み上げてきた。

「あ、れ……おかしいな……涙なんて……」

一度零れ始めた涙は線を切ったように止めどなく流れてくる。

「大丈夫。大丈夫だ……」

秋良の大丈夫、という言葉にはどこか信憑性が有り、それが溢れ出す雫を助長させ、雪成は肩を震わせ微かに嗚咽を漏らす。
雪成は秋良の背に手を回して白衣を握る。
その行為に秋良は息を飲む。
可愛い、という気持ちが込み上げるのと同時に秋良の理性は呆気なく崩落した。
秋良は雪成の首筋に軽く唇を寄せた。
雪成は驚きはしたものの秋良の事を拒む事は無い。

「……いいよ……優しく、してね……」

雪成はまるで秋良の思いを察しているかのように素直に受け入れようとしている。
それがまた秋良の中心に熱を集めた。
診察台へと雪成を連れて行き、寝かせるとサラ、と雪成の頬を撫でた。

「安心しろ……優しくしてやる……怖いことなんて何もしねぇから」

フッ、と柔らかな笑みを浮かべた秋良に安心したのか涙も自然と止まっていた。
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