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3章

本家へGO

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 怪我明けの登校も無事に終え、俺と宇佐美は休日を迎えていた。治療の為ではなく、純粋な学校の休日である。今日は、俺の快気祝いも兼ねて宇佐美の家の庭でバーベキューをする予定だった。

 だったという言葉から分かると思うが、実際にバーベキューをする事は無かった。王島英梨香の事件から1ヶ月ほどしか経っていないが、また新たな騒動が俺たちに近付いていた。

「ハル君、大変だよ!」

 宇佐美はノックもせずに俺の部屋に入るなり、開口一番に、そんな事を言った。当然、さっきまで寝ていた俺は、まだ寝ぼけ眼を擦っている。

「ハル君、起きて! 大変なんだよ!」

 宇佐美は眠たそうにしている俺を無視して、前後に体を揺さぶってくる。体を激しく揺さぶられ、さすがの俺も目が覚めていく。

「ふあぁ~。どうしたんだよ宇佐美、そんなに慌てて」

 欠伸をしながら宇佐美に訊ねる。

「大変なのハル君! お祖父ちゃんが……」

「お祖父ちゃんが?」

「お祖父ちゃんがハル君を本家に連れて来なさいって!」

「俺を本家に……ハァ?」

 どこが大変なのだろうか。ただ挨拶しに来いという意味ではない? もしかして、とても厳格な人で機嫌を損ねたら身の危険があるとか?

「宇佐美、どこが大変なんだ?」

 訊ねると、宇佐美は顔を顰め、本当に聞こえそうなほどにギクっとする。罰の悪い顔をしながら、宇佐美は語り出す。

「実は……ハル君の事をお祖父ちゃんに報告した時に、ハル君を私の彼氏ってことにしちゃったの!」

「……は?」

 俺が宇佐美の彼氏? 確かに、いずれそうなりたいとは思っているが、まだ宇佐美に俺が吊り合っていない事は分かっているつもりだ。だからこそ、宇佐美が自身の祖父に俺を彼氏と紹介していた事に衝撃を受ける。

「お祖父ちゃんには学校を卒業するまでに結婚相手を見つけろって言われてて、それで咄嗟にハル君を彼氏って事にしちゃったの!」

「いや、でも実は俺が彼氏じゃないって素直に言えばいいんじゃないのか?」

 そう訊ねると、宇佐美はまたもや顔を顰める。

「もし、私に彼氏がいないってお祖父ちゃんにバレたら、毎週のようにお見合いをさせられるんだよ! 毎週、毎週、知らない男の人に気を遣うのってホントに疲れるんだから!」

 宇佐美は非常に実感のこもった叫びを俺に聞かせる。その苦虫を噛み潰したような顔は見てる分にもよほど嫌なんだな、と感じさせるほどだった。

「それで、俺はどうすれば良いんだ?」

「とっ、とりあえず、お祖父ちゃんが納得するぐらいの実力を見せないと……」

「実力か……」

 そうは言ってもなぁ。正直、俺が人に誇れるところなんて一つも思いつかない。最近、二条さんとの修行で少しだけ強くなったかなぁと思うが、それでも本気で鍛えている人には全然敵わないだろう。

 結局、今の俺の実力は付け焼き刃程度でしかない。そんなものを宇佐美のお祖父ちゃんに見せても認めて貰えるとは到底思えない。

「……どうすれば良いんだ?」

 目の前に立ちはだかる壁に思わず呟きを零す。

「こうなったら当たって砕けろだよ! ハル君が有りのままぶつかれば、どうにかなるよ!」

「う~ん」

「ハル君、付け焼き刃の実力はお祖父ちゃんの前では逆効果だよ! 誠心誠意ぶつかるしか無いんだよ!」

 勢いよく断言する宇佐美に、そんなもんなのかなぁと思いつつも、納得する。

「まぁ、それしか無いか……。よし、宇佐美! 俺、頑張るぞ!」

「その意気だよ、ハル君!」

 若干、空元気な気がしなくも無いが、俺は必死に自分を奮い立たせる。

 最初から弱気になってちゃ、うまく行くもんも行かないよな。いつもは俺が宇佐美に世話になってるんだ。こんな時ぐらい、恩返ししないとな。

「榊ッ!」

「ハッ!」

 榊さんが宇佐美の側に控える。

「今すぐ、ハル君を本家に連れて行っても大丈夫な服装を用意しなさい!」

「かしこまりました」

 宇佐美の命を受けた榊さんは俺に視線を送る。

 その視線の意味は、私について来いというところか。榊さんの意思を汲み取り、その背中を追いかける。



ーーーーーーーーーー



《宇佐美杏視点》

 まさか、突然本家から呼び出しが来るなんて……。それも呼び出しの名目は、まさかのハル君を本家に連れて来いというものだった。

 年頃の男女が同じ屋根の下で一緒にいる理由として、ハル君を私の恋人という事にしてお祖父ちゃんに説明したが、実際はまだ恋人まではいっていない。

 でも最近は、私の勘違いでなければ、ハル君も私に好意を持ってくれているように見える。そう、私たちの関係はこれからなのだ。まだ発展途上のなかである。

 2人の関係はもう少し慎重に進めたかったのだが、こうなったら強引に既成事実を作るのもアリ?

「お嬢様、悪い顔になってますよ」

 思案していた私に話しかけてきたのは、メイド長の二条纏であった。指摘され、慌てて顔を平常に戻す。

「なっ、何も悪いことなんて考えてないわ!」

「……大方、今回の呼び出しを利用して周王様と既成事実を作ってしまおうと考えていたのでは無いですか?」

 ギクッ。考えていた事を当てられ、心臓が飛び跳ねる。なんで分かるのよ、このメイドは……。

「色恋に現を抜かすのも良いですが、周王様は本家に行くのは初めてなんですから、しっかりサポートしてあげないと可哀想ですよ」

「分かってるわ。必ず、お祖父ちゃんにハル君を恋人だって認めさせるんだから!」

 未来のお見合いを避けるため、ハル君との生活を守るため、本家での挨拶を無事に済ませて見せると、私は強く決意する。
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