上 下
7 / 16
1章

イケメンは何をやらせてもイケメン

しおりを挟む

「それじゃあ、今からAチームとBチームの試合を開始します。両者、礼!」

 堕天使ちゃんへと(俺が勝手に)改名した日野さんの宣言で、俺を含めたクラスメート同士の試合が始まる。あっ、ちなみに俺はAチームです。陽キャの空気に今にも吐きそうだ……。

 AチームとBチームが互いに握手を終えると、各々が事前に決めていたポジションについていく。ちなみに俺のポジションは後衛のレフトである。

 ピーッという笛が鳴り、Bチームのサーブから試合が始まる。

 前回の有馬との一件から薄々、気付いている読者の方もいるかもしれないが、実は俺はバレーボール経験者である。といっても、やっていたのは小学4年と5年生までだったし、5年生の夏の大会が終わったらすぐ辞めたので、実際にやっていたのは1年半である。

 バレーボールは経験者な俺なのだが、こういう時にやるべきことは一つ、目立たないプレーをすることである。大きなミスをしてもいけないし、もちろん活躍してもいけない。

 高校でボッチを目指している俺にとって、するべきプレーは1つ、コートの真ん中にボールを上げることである。

 コートの真ん中にさえ上げていれば、まぁ、上手くもないが、下手でもないと思われて終わりである。間違ってもセッターに向かって上げてはいけない。素人目に見ても《コイツ上手いな》と思われてしまうからである。

 つまり、今俺に向かってバックスピンがかかりながら、飛んできているバレーボールのレシーブする場所は真ん中なのである。

 ポーン。

 俺がレシーブしたボールは軽い回転がかかりながら、有馬のいる真ん中へと俺の狙い通りに飛んでいく。この時、もう一つポイントがある。間違っても回転を殺すなんて真似をしてはいけない。

 回転を殺すなんて真似は経験者以外には通常、狙ってできない芸当だからである。学校でぼっちを目指している人は、しっかり覚えておこう(役に立たないライフハック)!

 真ん中にレシーブしたボールは有馬によってトスされ、前衛のレフトにいた池谷君がスパイクを打つ。

 しかし、池谷君がスパイクをしたボールは無情にも相手チームの大柄の男子にブロックされ、Aチームのコートに落ちる。

 さっきブロックしたBチームの男の子、経験者かな? ブロックした時に見事に肩が入っていたし、そう考えて間違いなさそうだな。

 それより、ホントにヤバいのは池谷君である。ステップも出鱈目なのに、無理矢理歩幅を合わせて、見事にトスされたボールを強打していた。明らかに未経験者なのに、咄嗟にボールとの距離を合わせて飛ぶ身体能力には脱帽である。

 身体能力までイケメンとか、もう手がつけられない! イケメンは何をやらせてもイケメンなのか……。

「ごめん! ブロックされちゃった。次は決める!」

 ブロックされた池谷君は真剣な顔でみんなにイケメン発言をしていた。かくゆう俺はというと、池谷君がいるなら目立たなくて済むかなぁ、とどうでも良い事を考えているのだった。





ーーーーーーーーーー





 その後は、特に波乱が起きるわけもなく、両チーム少しずつ点を重ね、拮抗した勝負を演出している。しかし、経験者の存在は大きいのか、Bチームが先にマッチポイントを迎えるのだった。現在の得点は23-24である。

「ハァ……ハァ……次落としたら試合に負けるぞ! みんな、気合い入れていこうぜ!」

「うん!」「おう!」「ああ!」

 マッチポイントということもあって、有馬がAチームのみんなを鼓舞し、それにみんなも応える。

 俺? 俺はただ、ボーっと、今日終わったらコンビニでプリンでも買っていこうかなぁ、と終わった後のことを思案している。よし、セブ○イレ○ンのイタリアンプリン、君に決めた!

「よし、集中!」

 有馬の声を聞き、Aチーム全体に緊張感が広がる。まぁ、ただ一人俺だけは弛緩しているんだけど……。

 パーン。

 Bチームの打ったサーブは後衛のライトにいた平野君の方に向かっていく。平野君は体勢を崩しながらも、なんとかボールをレシーブしたが、ボールは強くレシーブしすぎたのか、俺の頭上を越えながら相手チームのコートまで飛んでいく。

 しかし、フワッと浮いたボールをスパイクしようと敵チームの後衛のセンターにいた経験者君が、アタックラインを踏み切り、勢いよく飛ぶ。

 バシーンッ!

 経験者君がスパイクしたボールは、俺の上をまっすぐ飛んでいこうとする。

 しかし、ボーっと試合が終わった後のことを考えていた俺は……無意識にスパイクされたボールをブロックしてしまった。

 手に強い感触が伝わり、俺はやっと意識がハッキリと戻る。そして、自分が今しがたやってしまったことを思い出す。

 やっ、やってしまったぁぁぁぁぁ!昔取った杵柄か、無意識にブロックしちまったぁぁぁ! いかん、このままでは思い切り目立って……!

「ナイスプレー、透! お前、あんな球をブロックしちまうなんて、バレーうまかったんだな!」

 俺の内心の動揺も知らず、有馬は俺に対して称賛の声を浴びせる。

「い、いいいいいいや、ぐ、ぐぐぐぐぐぐ偶然だろ!?」

「偶然でもすげぇって!」

 こうして、当初の思惑通りにはいかず、思いがけず、俺は目立ってしまった。

「よし、この流れで逆転しようぜ!」

 有馬がなんかみんなを鼓舞しているみたいだが、半ば放心状態の俺の耳には届かない。なんでこんなことに……。自分の軽率な行動に後悔するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

僕(じゃない人)が幸せにします。

暇魷フミユキ
恋愛
【副題に☆が付いている話だけでだいたい分かります!】 ・第1章  彼、〈君島奏向〉の悩み。それはもし将来、恋人が、妻ができたとしても、彼女を不幸にすることだった。  そんな彼を想う二人。  席が隣でもありよく立ち寄る喫茶店のバイトでもある〈草壁美頼〉。  所属する部の部長でたまに一緒に帰る仲の〈西沖幸恵〉。  そして彼は幸せにする方法を考えつく―――― 「僕よりもっと相応しい人にその好意が向くようにしたいんだ」  本当にそんなこと上手くいくのか!?  それで本当に幸せなのか!?  そもそも幸せにするってなんだ!? ・第2章  草壁・西沖の二人にそれぞれの相応しいと考える人物を近付けるところまでは進んだ夏休み前。君島のもとにさらに二人の女子、〈深町冴羅〉と〈深町凛紗〉の双子姉妹が別々にやってくる。  その目的は―――― 「付き合ってほしいの!!」 「付き合ってほしいんです!!」  なぜこうなったのか!?  二人の本当の想いは!?  それを叶えるにはどうすれば良いのか!? ・第3章  文化祭に向け、君島と西沖は映像部として広報動画を撮影・編集することになっていた。  君島は西沖の劇への参加だけでも心配だったのだが……  深町と付き合おうとする別府!  ぼーっとする深町冴羅!  心配事が重なる中無事に文化祭を成功することはできるのか!? ・第4章  二年生は修学旅行と進路調査票の提出を控えていた。  期待と不安の間で揺れ動く中で、君島奏向は決意する―― 「僕のこれまでの行動を二人に明かそうと思う」  二人は何を思い何をするのか!?  修学旅行がそこにもたらすものとは!?  彼ら彼女らの行く先は!? ・第5章  冬休みが過ぎ、受験に向けた勉強が始まる二年生の三学期。  そんな中、深町凛紗が行動を起こす――  君島の草津・西沖に対するこれまでの行動の調査!  映像部への入部!  全ては幸せのために!  ――これは誰かが誰かを幸せにする物語。 ここでは毎日1話ずつ投稿してまいります。 作者ページの「僕(じゃない人)が幸せにします。(「小説家になろう」投稿済み全話版)」から全話読むこともできます!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

王子と王女の不倫を密告してやったら、二人に処分が下った。

ほったげな
恋愛
王子と従姉の王女は凄く仲が良く、私はよく仲間外れにされていた。そんな二人が惹かれ合っていることを知ってしまい、王に密告すると……?!

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

処理中です...