闘う二人の新婚初夜

宵の月

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闘う二人の新婚生活 後編

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 もう何に腹を立てているのかも分からないまま、アニエスはアルコールの置かれているテーブルに突進する。怒りのままに煽り、三つ目のグラスに手をかけた手首を掴まれた。振り返った先に、仏頂面のラルクを見つけ、アニエスは泣きそうになった。そして怒りの原因を悟った。

(……全部、ラルクのせいよ……)

 アマガエル色のくせに、息が詰まるほどかっこいい。アニエスを魅了するだけでは飽き足らず、周りの視線も吸い寄せている。それなのに一向に自分を好きにならない。いつだって自分ばかりが振り回されている。好きで好きで奪われないよう常に警戒しているのは自分だけ。

(むかつく! 貴方なんて家柄が良くて、将来性があって……ちょっと……かなりかっこいいからモテるってだけよ!! そういう下心込みなのよ! ラルク自身が本当に好きなのは私だけなんだから!! そんなことも分からないの!!)

 睨みつけたラルクが、スッと手を差し出してきた。迷いなくアニエスも手を添える。さっさと踊って一刻も早く帰りたい。もう一秒だって誰かにラルクを見せたくない。手の平から伝わる体温に、喉奥が震える。好きで好きでたまらない。
 俯きそうになった顔を昂然と上げ、導かれるままホール中央に歩を進める。挑むように向かい合い、アニエスは心の底から祈った。

(もういっそ禿げてしまいなさいよ!!)

 つるつるぴかぴかのラルクの頭部を、自分ならより輝くように念入りに毎日手入れすることさえ厭わない。もう見た目なんかどうでもいいほど、こんなにも好きで仕方がない。アニエスがいつから好きでいると思っているのか。
 目の前の自分を一向に好きにならない男を睨みつけ、アニエスは大きくステップを踏み出した。


―――――


 目的地もないまま、ラルクはイライラと階下に降りる。アルコールを求めて足を早めた先に、アニエスを見つける。心臓を鷲掴まれた気がして、息が止まった。アルコールでほのかに頬を上気させたアニエスは死ぬほど色っぽい。グラスに伸ばそうとする手を思わず掴んで止めた。これ以上とても人目に晒せない。

(もう、どうしろって言うんだよ……)

 アマガエル色のくせに息が止まるほど美しい。一体何なのか。誰もがアニエスの美貌に振り返る。ようやく結婚してラルクだけの女にしたはずだ。なのに少しも自分のものになった気がしない。これほど惚れさせたくせに、アニエスはラルクに惚れる気配が微塵もない。

(アニエス、お前マジで腹立つな!! 自分が女神だって分かっててやってるだろ!? 下心と名門騎士家門の婿の座を狙う男なんかより俺の方がいいだろうが! 俺だけ見ろよ!! お前は俺だけの女になったんだ!! 俺がいつからお前に惚れてると思ってんだよ!!)

 つないだ手のしなやかさに、胸がぐっと締め付けられる。切なく疼く内心に、俯きかけた顎を反らした。自分を弄ぶ女神を、ホール中央へ連れ出していく。もうアニエスが誰の女か周り中に知らしめないと気が済まなかった。

(さっさとぽよぽよになってしまえ!!)

 鍛えまくった自分なら、ぽよぽよのアニエスだって余裕で抱え上げられる。とっくに容姿なんて些末に思えるほど、心底惚れている。ただただ愛しくて頭がおかしくなりそうだ。さっぱり自分に惚れない、目の前のむかつく女を睥睨し、ラルクは華奢な腰に手をかけた。

 始まったヴェニーズワルツ。
 ラルクは強く腰を引き付け、するりと背中に手を滑らせる。嫉妬させるアニエスに、ちょっとした意趣返しのつもりだった。
 ぞくりと背筋に官能が駆け抜け、アニエスが唇を噛んだ。睨み上げたラルクがニヤリと嗤ったことに腹を立てたアニエスは、大きく円を描くステップに合わせて、割り入ったラルクの下半身を太ももで撫で上げる。
 ぐっと奥歯を噛みしめて睨みつけてきたラルクを、涼しい顔でアニエスがせせら笑った。性急なリズムに合わせて、どんどんと無言の攻防はヒートアップしていく。
 騎士らしい切れのあるステップと、目立ちすぎるアマガエル色は大いに人目を引いた。鬼気迫る様子で大きくくるくる回る二人。周囲はその息の合った見事なダンスにため息を零した。

 最後のステップを踏み終えるや否や、怒り心頭の様子で二人は盛大な拍手を振り切るようにして、憤然と帰宅の途についたのだった。

 
※※※※※

 
 御者を急かして帰り着いた自宅。私室で破り捨てんばかりに着替えを済ませると、アニエスは続き扉から夫婦の寝室へと乱暴に押し入った。ラルクの私室につながる扉から、ラルクも同じようにダスダスと寝室に踏み入ってくる。

「なんのつもりだ!! さんざん挑発しやがって!」
「こっちのセリフよ。好き勝手撫でまわしたのはそっちでしょう!!」

 相手の挑発だと分かっていたのに、あっさりと火をつけられた敗北感に、二人は激高して睨み合った。自分だけが相手の些細な言動に、簡単に揺り動かされるのが悔しくてたまらなかった。

「男の視線を集めて楽しいか? いい加減既婚者の自覚を持てよ!!」
「なっ!? 貴方がそれを言うわけ? 言っておくけど据え膳食わぬは男の恥とか、私は絶対に認めないからね!!」
「言いがかりで話を逸らすな!!」
「言いがかり? じゃあ、ココはどうして準備万端なのよ!!」

 酔いと嫉妬の勢いに任せて、アニエスは薄い夜着越しでもはっきりわかる、ラルクの立ち上がった太い肉棒を握り込んだ。

「……うぁっ!? やめろ!! 離せ!!」

 これまた酔いと嫉妬で抱き潰してやると、いきり立っていた己を言いがかりの証拠とばかりに握られ、ラルクは息を詰めた。激高したアニエスが先端の先走りを塗りつけながら、ゆっくりと握り込んだ雄を責めたて始める。

「どの女に反応してこんなことになってるのかしらね?」

 鬼の首を取ったように勝ち誇るアニエスが、上下に揺らす手の速度を速めていく。

(目の前の女にだよ!! くそが!!)

 怒鳴り返してやりたかったが、アニエスに握り込まれて攻められる快楽に息が詰まり声が出ない。ぬちぬちと音を立て始めた手淫に、ラルクとアニエスの息が上がり始める。

「証拠まで押さえられて、言い訳もできない? ほら、腰が揺れてるわよ? 妻同伴の夜会で鼻の下を伸ばすのも納得だわ。この程度の快楽に屈するんだもの。」

 馬鹿にしたようなアニエスに、ラルクの怒りが燃え上がった。思わずアニエスに縋らせていた腕を背中に回し、引き寄せた身体を抱え込むとアニエスの秘部に指を滑らせた。

「ああっ!!」

 ぬちゅりと割れ目をなぞられ、走った快感にアニエスが嬌声を上げる。ニヤリと口元を歪めてラルクが意地悪く嗤った。

「そういうお前はどうなんだよ? なんでココをこんなにしてるんだ? あ? どいつをベッドに誘いこむつもりだったんだ?」
 
 ぐちゅぐちゅと音を立てて捏ねくりまわされ、アニエスが頤をのけぞらせて歯を食いしばった。

(目の前の男以外誰がいるっていうのよ!!)

 言い返してやりたかったが、的確に急所を押えられ、ポッと灯った熱の熱さに甘く翻った声だけがこぼれていく。指を差し入れ手のひらで花芯を押し捏ねながら、ラルクが耳朶に声を落とした。

「言い訳してみろよ。ちょっと弄られたくらいでそんなに腰をくねらせて。トロトロにさせて誰を迎え入れるつもりだったんだ? 言えよ。」

 嘲るようなラルクの声に、アニエスの怒りに火が付いた。他の女に固くしていたくせに、まるでアニエスが浮気しようとしていたかの言い草。握り込んでいた肉棒から手を離し、油断しているラルクの足をすくい同時に肩を押す。
 優勢に転じて油断していたラルクは、背後のベッドにあっさりと引き倒された。ラルクが体制を立て直す前に、アニエスは素早くラルクに跨った。

「二度と浮気しようと思えないようにしてやるわ!!」

 怒りに燃える瞳で見下ろしたラルクに宣言すると、熱く脈打ち固く立ち上がっているラルクを掴むと一気に最奥まで飲み込んだ。

「うっ……あ……アニ、エス……!!」

 衝撃と一緒に直撃した快楽に首筋をのけぞらせ、喘ぎと一緒に快楽を逃がしたアニエスは、息を整えるとそのままゆっくりと腰を揺らし始めた。

「ぐっ……!! あ……アニエス……くっ……!!」

 自分の下で切羽詰まったように息を詰まらせるラルクに、言いようのない高揚感を覚える。

(今日こそ堕としてやる!!)

 完全に主導権を握ったアニエスは、ラルクを見据えながら腰を振り始めた。自分を見上げるラルクの顔が上気し、快楽に呼吸を荒げる様に背筋が震えた。主導権は間違いなくアニエスが握っているはずだった。それでも嬌声は止められない。

「あ……ああっ!!……んん……ああ……ああ……」

 致命的な個所と角度を避け、ラルクを責めたてているはずなのに、ぴったりと誂えたようなラルク自身は、隙間なくアニエスの中を占拠する。避けきれない快楽の波は徐々に高まり、堕とすはずが堕とされ始める。快楽に止まらなくなった腰は、抑えようもなくより深い悦びを求める動きに成り代わる。

「あぁ……くそ……アニエス!!」

 ラルクが掠れた声を上げ、たまりかねたように腰に掴みかかる。掴んだ腰を強く引き寄せると同時に、熱杭が深く突き上げるように穿たれた。

「あっ!! ああああーーーーーー!!」

 アニエスの悲鳴にも獣のような瞳のラルクの動きは止まらず、ますます激しく身体の中心を貫かれる。ガツガツと熱に犯される快楽に、アニエスは完全に理性を失った。鮮烈な快楽が穿たれるたびに、全身を駆け上がり突き抜けていく。

「ああ!……ああ!……ラルク!……ラルク! イイッ! イイッ!……あぁ!……いく……いっちゃう……ああっ! あああああああーーーーー!!」
「……アニエス!! アニエス!!」

 溜まりきった熱が弾けた瞬間、がくがくと痙攣する身体が、より鮮明にラルクを捉えるのを感じた。一拍遅れてラルクの膨れ上がった熱杭も灼熱の飛沫を、アニエスの最奥にぶちまける。なおもゆっくりと先端をアニエスの最奥の肉にこすりつけるようにして、ラルクも吐精の快楽に震えている。
 白んでいた視界がゆっくりと明度を取り戻し始め、アニエスは汗に濡れた身体のままラルクに倒れ込んだ。

(もう……また……)

 じわりと滲んだ敗北感でも、最愛の男と快楽を共にした多幸感は薄れず、それがまた悔しかった。二人分の呼吸が少し落ち着いた頃、アニエスの中に居座っていたラルクが引き抜かれる。喪失感を感じる前に、アニエスはぐるりと転がされ、寝台に四つん這いに押さえつけられた。

「やあ!」

 快楽の余韻に甘く舌足らずな声で、抵抗しようとしたアニエスを、ラルクがぐっと押さえつける。いつものようにあっさりと堕とされたラルクは、渇望と危機感に急かされすぐさま反撃に出た。

「アニエス、覚悟しろよ……」

 今日こそ絶対堕としてやる。囁かれた宣言がアニエスの耳に届いた瞬間、硬度を取り戻したラルクの杭に貫かれる。

「ああああーーーー!!」

 アニエスに跨られ最奥に飲み込まれた快楽に、あっという間に脳を溶かされた。自分の上で淫靡に踊るたびに、白い豊かな双丘がたゆたゆと揺れ、目を逸らそうにも快楽に喘ぐ女神に釘付けだった。アニエスの肉襞と視覚の暴力で、完膚なきまでに堕とされた。

「くっ……あぁ……アニエス……アニエス……」

 矜持にかけて失点を取り返そうとしたラルクは、突き入れた途端襲ってきた圧倒的な快楽に熱い吐息を零した。くびれた華奢な腰を引き寄せ、白く突き出た尻の狭間に見える秘部を、赤黒く血管を浮かせた怒張で犯すのを見つめる。

「ああっ! だめ……だめ……そこだめ……ああ……ああっ!! ラルク……ラルクぅ……」
「ああ……アニエス……悦い……アニエス……」

 ぶちゅぶちゅと音を立てて、甘い声で啼くアニエス犯しているのは自分のはずだった。アニエスの熱く蕩けた膣壁に擦りたてる快楽で、思考が溶けて視界まで霞むような愉悦に震える。犯しているはずが犯されている。それでもアニエスと繋がる快楽に抗えず、夢中になってしなやかに揺れる肢体を搔き抱く。堕とせない悔しさよりも、渦巻く快楽と幸福感に飲み込まれていく。
 こんなアニエスを知るのは自分だけ。他の誰にも触らせない。胸の奥で呟いた瞬間、打ち込む欲望が体積を増した。膨れ上がった己が、ますますアニエスの媚肉に鮮烈に締め付けられる。

「ぐう……うぁ……アニエス! アニエス!」
「ラルク! ラルク! もうだめ! いっちゃう……いっちゃう……ああ……いっちゃうよぉ……」

 アニエスの蕩けた声が、ラルクから理性を奪って獣にする。快楽が極まったアニエスの中がぐにぐにと責めたてるようにうねりを増し、その良さにラルクは腰を振らされ暴発するように最奥に白濁を吐き出した。

「あああああーーーー!!」

 目の奥が明滅するほどの快楽に震えながら、叩きつけられた灼熱にアニエスが悲鳴を上げて絶頂する。その身体をきつく抱きしめながら、余韻に止められない腰を押し付ける。完全敗北にも打ち消せない、愛する女との交歓の悦楽に満たされながら、ゆっくりとアニエスから引き抜いた。そのまま引き合うように唇を合わせ、想いの丈を吐き出すように舌を絡め合う。

(好き……好き……ラルク……ラルク! こんなに好きにさせたんだから責任取ってよ……好きなの……ラルク……私以外を見ないでよ……)
(アニエス……アニエス……愛してる……愛してる……俺だけのものでいろよ……心底惚れてるんだ……頼むよ……アニエス……)

 貪るような口づけが、身体の熱を再燃させる。どちらともなく繋がり始めた二人は熱い吐息の間に、決意した。

((もう数で勝負する!!))

 と。
 
(快楽で堕とせないなら、弾倉がなくなるまで搾りとってやればいいのよ!)
(どうやっても勝てない。なら毎回抱きつぶして、他でヤる体力を残さなければいい!)

 閃いた名案を早速実行すべく、二人は汗ばんだ身体を絡ませ合う。完全に頑張る方向性を間違えていた。

 さすがに周りは徐々に気付き始めた二人の内心は、不毛に己と懸命に闘う二人には目に入らない。
 ラルクは騎士団の、アニエスは家門の騎士団で。日々の訓練で汗を流した合間に手料理、スイーツ店巡り。夜は堕とすために毎晩ベッドで真剣勝負。そんな生活で太るわけがないことにも気づけないのだから。
 どこまでも真剣に互いを堕とすためのベッドは、新婚とは思えない練度に達している。それでも足りないらしい。何とか相手を手に入れるため、今度は回数を重ねるという新たな目標に向かって、全力で闘い続ける覚悟を決めてしまった。

 これだけ拗らせてしまっていると、気付き始めた周囲の助けが必要なのかもしれない。



 
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