闘う二人の新婚初夜

宵の月

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闘う二人の新婚初夜 後編

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 昂然と寝室に踏み入ったラルクを、決然とアニエスが迎え撃つ。敵将と一騎打ちするかのように対峙する二人。互いのスキを伺うようにして、ゆっくりと近づき向かい合った。絡み合った二人の視線の間に、熱い火花が飛び散った。

「初夜の前に話がある。」
「私もよ。」

 ギラギラと睨み合う二人は、必ず勝ち取る意気込みが強すぎて、もはや殺気立っている。初夜を迎える夫婦の寝室とは思えない、張り詰めた空気が室内を満たした。一触即発の空間で、口火を切ったのはラルクだった。

「子供は最低二人産め。最初の子はできるだけ早く。」
「馬鹿にしてるの? 当然そのつもりよ。おじ様と父上が健在の内に産むのは義務だもの。」

 居丈高なラルクの物言いに、アニエスも高慢に言い返す。騎士家門の常識でもある、期待される早期出産と子供の人数。ただ、二人の思惑は騎士家門の常識とは、それぞれ別のところにあるようだ。

(ふふっ。子供が生まれたら、簡単に離婚はできないはず! 二人目までには、必ずケリをつけてみせるわ!)
(これで離婚は回避できる。避妊薬はたっぷり用意した。二人目を口実に、先に身体だけでも確実に落とす!)

 一つめの関門をそれぞれ突破した二人は、ニヤリと笑みを浮かべた。意外とちょろい。お互いにお互いのちょろさにほくそ笑む。張り詰めた空気が少し緩んだ。

(小さいアニエスとか、最高だな……愛しすぎる……)
(甘えん坊のラルクとか……うふふ。想像だけでも食べちゃいたくなるわね……)

 思わず想像した光景に緩みかけた口元を、慌てて引き締めると二人は再び睨み合った。

「はっきり言っておくが、家門の名誉を穢す真似は許さない。万が一にも不貞で浮名を流せば、許すつもりはない。代償の大きさに後悔することになるぞ」
「……ハッ! 誰に物を言っているの? 貴方こそ騎士としての矜持があるなら、娼館に足を踏み入ることさえ恥だと知りなさい。」
「当然だろ? 俺を誰だと思ってる。セラード家の栄誉を自ら貶めるとでも? お前こそ弁えろ。女神に薔薇をと跪かれて、身をくねらせる姿は見れたものではない。セラードの家名に関わる醜態だ。」
「心配しなくても貴方より、余程分別を弁えてるの。酔ったふりの女に抱き着かれて、呆れかえるほど脂下がる貴方と一緒にしないで。」
「どんな視力をしているのやら。」
「貴方こそメガネが必要ね?」

 不愉快な光景をそれぞれが思い出し、またもや空気は張り詰め始める。ジリジリと炙るような嫉妬に、二人はクワッと顔を歪めた。互いに掴みかからんばかりに詰め寄ると、嫉妬に任せて声を張り上げる。

「……家門と騎士の名をもって誓え! セラードにとって不名誉な浮名を流すことはないと!」
「いいわ、誓ってやるわよ! 貴方こそ誓いなさい! 男の甲斐性なんて、馬鹿げた理由が通用するなんて思わないで!」
「いいだろう。誓おう。」

 挑むように睨み合いながら、それぞれが騎士の礼を取り誓いを立てる。さすがに初夜の寝室には剣を持ち込むことはできなかったが、栄誉で知られる騎士家門同士。略式でも騎士の誓いを破る不名誉を起こすことはあり得ない。互いに礼を解く姿まで見届けて、ようやく室内から緊張感が薄れた。

(家門に誓えばひとまず安心ね……)
(騎士の誓いなら、とりあえず大丈夫だろう……)

 二人は内心ニヤついた。思惑通り離婚対策に子供について了承させ、万が一にも浮気をさせないよう誓いももぎ取った。残す関門は……。
 意識した途端、ラルクの心臓がドクリと跳ね上がる。気付かれないように息を吸い込み、慎重に表情を作り上げる。少し引きつっているかもしれない。

「あー……それで?」

 思わず掠れた声に、ラルクは焦って言葉が途切れた。途切れたことに慌てて視線を下げると、薄明りに照らされたアニエスの美貌とまともに視線が合う。一気に体温が上がるのを感じて、顔を背けるように寝台を振り返った。
 もう一度アニエスを見たら襲い掛かりかねない程、一気に昂った己を自覚して視線を外したまま何とか絞り出す。

「……怖気づいてないなら、そろそろ始めようと思うんだが?」
「お、怖じ気づく? 私が貴方に? 怖じ気づくとしたらそっちでしょ?」

 アニエスの身体が、不安と期待に震える。気付かれないように、必死に虚勢を張るも声は揺れてしまった。しまったと唇を噛み、誤魔化すために自分から寝台に向かって進む。

「……さっさと来たら?」

 流石に顔までは見れず、視線を反らしたままアニエスは、寝台に腰掛けた。座っていれば、足の震えは誤魔化せるはず。
 ゴクリとつばを飲み込み、ラルクがアニエスに近づいた。

「……脱げよ。」

 夜着の帯に手はかけていても、解こうとしないアニエスを見つめながら、ラルクは渾身の理性をかき集めて言い放つ。もう限界が近かった。

「……脱ぐわよ。」

 羞恥と不安ではちきれそうになりながら、アニエスは残り少ない意地をかき集め、一気に帯を引き抜いた。
 サラリとした薄い夜着は、アニエスの白く滑らかな肌を滑り落ちる。勢い任せの動きにアニエスの、温度を伴った香りがふわりと揺れる。同時に露になった無駄のない白い美体。
 ラルクの理性がぶつりと音を立てて千切れた。

「……んんっ……んふぅっ!?」

 襲いかかるようにして唇を奪い取り、寝台に美身を押し付けた。
 罵倒しか出てこないのに、いつも誘惑してきた赤い唇をなぞり、ラルクに噛み付いてくるたび、チラチラと見え隠れしていた扇情的な舌に吸い付く。

「んっ!……ふうっ!……んん……んあっ……!」
 
 乱れた息遣いに煽られ、薄着になるたびに視線を奪われた、豊かな胸を鷲掴む。吸い付くような肌に、指がめり込み形を変えた。手のひらの中心で硬く尖る蕾の感触を感じて、少し浮かせた手のひらで撫でつけた。
 白い首筋に舌を這わせ、キツく吸い付き所有の証をこれでもかと刻みつける。

(アニエス! アニエス! アニエス!)

 肌の匂いに脳は溶け、感触と温度に際限なく昂ぶっていく。辿り着いた豊かな双丘の頂きを口に含むと、獣のように舐め回し転がした。

「ひっ!……ああっ!!……あっ……あ!」

 身を捩りながら啼く、甘い声に肌が粟立つ。もう声だけで暴発しそうなほどに気持ちいい。生意気な口から上がる甘い喘ぎが、ずしりと下腹部を重くさせる。張り詰めてずきずきと痛んだ。
 たまらな気なアニエスに、嗜虐心が満たされて背筋に震えが走った。最高に気が強い極上の女を組み敷く快感。

「そんなにいいか?」

 そんな声で啼くくらい。肌を辿りぬるぬると泥濘んでいるそこに手を伸ばす。ぶちゅりと指先が、ぐずぐずになった秘部を捉えた。

「あっ!……ああっ……!!」

 思わず出たような甲高い悲鳴に、ラルクは奥歯を噛みしめる。声だけで魅了するアニエスに腹を立てながら、親指の腹で尖りきった花芯を撫でつけ慎重にアニエスの中に指を刺し入れる。

「はぁぁぁ!!」

 背を反らせたアニエスの中を探る興奮に、息を荒げて唇を舐める。読み込んだ指南書の、その箇所を探して粘膜をこね回す。

「ああっ!!……やぁ!……やぁ!……だめ……だめ……あぁ……あぁ……」

 ひと際大きく啼いたアニエスに、ラルクは笑みを刻んだ。ギラギラと瞳を光らせながら、ざらつくそこを責めたてた。
 堪えられないように腰を揺らし、涙目になってひっきりなしに喘ぎを零す様を、獣のように息を荒げながら見守る。アニエスの中を暴いている。この女が自分の手管に喘いでいる。

「アニエス、いいんだろ? イケよ、ほら。」

 内腿がぶるぶると痙攣させ、身をくねらせながら意地を張るアニエスを挑発する。
 堕ちろ、堕ちろ、堕ちろ。愛しさと欲望がない混ぜの感情を、膨れ上がらせながらラルクはアニエスを追い立てた。
 夢中になるのではなく、夢中にさせたい。愛してると縋られ、もっとと自分だけを求めるまでに。

「いや……いや……いや……! ああっ……だめ……だめ……ああっああっ………」

 ぐりっとそこを強く押し、健気に固く尖る花芯を押しつぶす。ぶちゅっと卑猥な音と共に、指が喰い締められる。アニエスは限界を迎えた。

「あっ……あっ……あぁ……ああ! ああっああっ………あああぁーーーー!!」

 全身を突っ張らせて、頤を晒しながら果てるアニエスに、言いようのない感情と興奮を覚えた。
 ゆっくりと弛緩していく裸体が、細かく痙攣している。理性で押さえ込んでいた欲望が弾け飛んだ。痛そうに上がった悲鳴にも、もう止まれない。
 押し込んだ完全に張り詰めた肉杭に、蕩けていても狭小な隘路に痛みが走る。痛みよりも強い欲求に急かされて、ぐっと粘膜を押し分けながら楔を押し込めていく。
 アニエスの肌に汗を落としながら、一際強い抵抗もそのまま止まらず突き抜けた。

「あああああーーーーー!!」

 上がった苦痛の悲鳴に、たまらない歓びが湧き上がる。奪いとった愉悦に脳が痺れた。

(アニエス……アニエス……)

 涙を零すアニエスに、愛しさがこみ上げズンと下腹部が一段と重くなる。幾度となく妄想した、それ以上の快楽。
 初めて知る女の身体、それもアニエスの中を味わう悦楽に、揺れる腰は止められなかった。

「ああ……あぁ……」

 か細く啼きながらアニエスは、触れてみたくてたまらなかったラルクに縋りつく。間近でみた瞳の美しさに、トキメキ過ぎて胸が痛かった。押し入られた鈍痛と、ミチミチと押し込まれる楔の圧迫感。呼吸を荒げながらもアニエスは、固く引き締まった身体に爪を立てる。深く痕跡が残るようにと願って。
 顎先をのけぞらせながら、アニエスを切り拓くラルクの、薄く形のいい唇が歪んでいる。獣のように瞳をギラつかせて、堪えられないようにアニエスを押し拓くラルク。今ラルクに抱かれている。
 根元まできっちり押し込んでも、止められないかように腰が揺れている。こんなに自分を求めている。我慢できない程。快楽に顔を歪ませて。ぞくぞくと脊髄に電流が駆け抜けた。

(ラルク……! ラルク……! ラルク……!!)

 肚の奥がきゅうっと引絞られ、痛みが和らぐ。代わりにラルクの律動に合わせて、階を駆け上がるように熱が溜まり始めた。もうラルクに触れられている事実だけで、気持ちいいのがたまらなく腹立たしい。
 夢中になるのではなく、夢中にさせたい。なりふり構わずアニエスを求め、愛していると跪くように。自分だけを求めるように。

「うっ……! あ、あぁ……アニエス……アニエス……」

 思わず漏れたようなラルクの喘ぎに、ゾクゾクと脊髄が痺れた。勝手に引き絞られるように身体が反応し、飲み込んだラルクの形が鮮明になる。自分の中にラルクがいる。意識した途端、全身が震えるように粟立った。
 
「う……あぁ……ダ、メだ……アニエス……」

 一心不乱にアニエスの中を擦りたてるラルクが、質量を増した。快楽に掠れた声。熱い吐息。
 ぐずぐずにされた粘膜を、ひたすら味わうことに没頭するラルクの、穂先が最奥にあたるたびにもどかしい熱が溜まっていく。
 荒く呼吸を貪りながら、酩酊した獣のようなラルクに何度も腰を穿たれる。激しく揺すぶられる衝撃に、止まらない嬌声を上げながら、アニエスはラルクにしがみついた。
 堕ちて、堕ちて、堕ちて。他の女に見向きもしなくなるように。この身体だけを欲しがるように。
 アニエスの強い感情に連動して、受け入れた中がうねりを増す。

「ラルク……ラルク……あぁ、もう……もう……!」
「ぐぅ……あぁ……アニ、エス……あぁ……出る……アニエス……アニエス……! 出すぞ……!……アニエス……!!」

 箍が外れたように一層激しく、アニエスを揺さぶり出したラルクの抽送に、アニエスも悲鳴を上げた。ラルクの力が増すのを感じて、アニエスもラルクを強く引き寄せた。

「あ……あぁ……ラルク……!……ラルク……!……あぁ……ああっ……あああぁぁーーーー!!」

 力任せに押さえつけられたまま、鋭く貫かれ最奥が灼熱を受け止めた。断続的に最奥に浴びせられる熱に、身体が震えるのを止められなかった。
 下腹部の筋肉を痙攣させながら、ラルクはゆるゆると腰を揺らし、アニエスの中を最後まで味わっている。
 ゆっくりと引き抜かれ、ラルクがそのまま倒れ込むようにアニエスに覆いかぶさってきた。呼吸と共に貪るように、口づけを交わす。額を押し当てたまま唇を離し、二人は見つめ合った。熱にか快楽にか互いの目元は赤みを増して、ウルリと揺らいでいるように見えた。

(俺の……アニエス……)
 
 ラルクはやっとその全てを暴いて手に入れた、自分の女の美しさにため息を零した。より一層美しく感じた。

(私の……ラルク……)
 
 アニエスは貪るように自分を求め、自身の最奥で果てた男の精悍さに胸を詰まらせた。これまでで一番かっこよく見えた。
 
 泣きたくなるような幸福感を噛みしめながら、二人はそのままゆっくりと目を閉じた。全身を満たす幸福感と疲労感に、互いの呼吸を感じながら、ただ深い眠りに落ちていった。


※※※※※


 翌朝、騎士訓練で叩き込まれた規則正しさに、二人はほぼ同時に目を開けた。額を合わせるようにして眠っていた二人は、焦点が定まると至近距離でまともに視線を合わせることになった。
 心臓が止まるかと思う衝撃に、ガバリと同時に息を止め、勢いよく転がった。そのままバタバタと、背中合わせに身支度を始める。
 
(なぜ! 寝起きで!! 輝く!! やめろ! 本気でやめろ! 美貌で殺しにかかるのやめろ!! 俺を殺したいのか!!)
 
 あっという間に限界値にまで達したことを、必死に悟られないよう、前屈みに無駄に急ぐ。下腹部がヤバい。もう美貌で世界をとれるレベル。心臓が肋骨を叩きのめそうとしている。息が苦しい。

(着てても!! 脱いでも!! 無意味に!! エロい!! 筋肉の躍動!! 限界突破ーーーー!!)

 天を仰いで崩れ落ちそうになるのを、誤魔化すためにアニエスはとっくに見つけてる夜着を必死に探すふりをする。あれは罠だ! 神が創った彫刻かと思ったら、色気で惑わす悪魔の罠だった! 指先は震えて、顔に全血液が集まっているのを感じる。膝が笑って倒れそう。もう呼吸もヤバい。

「………きょ、今日は昼には戻る。」
「そ、そう……さっさと行ったら?」

 薄い夜着を纏うだけの身支度は、そう時間を稼ぐこともできなかった。茹だっている顔を必死に背け合って、平静さを装って言葉を交わす。
 足早に扉に向かったラルクは、目前で立ち止まり振り返らないまま、渾身の勇気を振り絞った。

「………せいぜい夜に向けて、肌でも磨いておくんだな。」

 それはつまり……。ごくりとアニエスがつばを飲み込んだ。

「……貴方こそ反撃される覚悟をしておくことね。」

 それはもしや……。ごくりとラルクの喉がなる。

「……も、もう、行く。」
「え、ええ……」

 パタリと扉が閉まる音に、アニエスはペシャリとへたり込み、ラルクはそのままずるずるとしゃがみ込む。二人はバクバク高鳴る心臓と、熱くて仕方ない顔を覆った。

((…………朝から最っっ高! 結婚、万歳!!))

 しばらくそうしてこみ上げるものと戦い、ゆっくりと立ち上がった。その瞳は互いに固い決意にギラついていた。浮気されたら、正気でいられる自信がない。

((………絶対、逃さない! 身体だけだけ絶対、堕とす!!))

 何が何でも堕としてみせる。扉を隔てて決意に拳を握る二人は、結婚してまで何と闘っているのか。
 結婚相手だと紹介された、初顔合わせ。その時のどストライク過ぎる衝撃が大きすぎて、素直になれなかったのが良くなかったらしい。
 これほど自分の理想に当てはまる相手が、この世に存在することに神に感謝することで忙しかった。その場に踏みとどまっているので精一杯だった。

 無意味に何かと闘う夫婦は、強いて言うなら今もなお、己と闘い続けている。
 肌を合わせても拗らせ続ける似たもの夫婦。その内心はとにかく浮気されないよう、身体だけでも先に堕としてやる! と、煮えたぎる決意と共に、早速指南書を熟読する決意をそれぞれ固めている。

 口をついてでる裏腹な言葉。条件反射的にとってしまう不遜な態度。
 それでもその内心は馬鹿馬鹿しいほど、息ぴったりなあたりこのままでも、案外うまく行くのかもしれない。



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