恋愛短編集(宵の月)

宵の月

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愛とか恋とかから騒ぎ 後編

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 ガラガラと車輪を回し進む馬車は、一路茶会会場へと向かっていた。

 「……ねぇ、アナスタシア……本当に参席するの?」
 「はい。こうして支度をして向かっておりますもの。」
 「でも、ずっと準備に追われて二人の時間が取れていないだろう?」

 縋るような瞳をアナスタシアに向けるハインツに、アナスタシアは困ったように視線を彷徨わせた。そんなアナスタシアにハインツは腕を伸ばし、ぐいっと引き寄せた。

 「ハ、ハインツ様……だめです……」

 真っ赤になって腕から逃れようとするアナスタシアを、ハインツはしっかり抱え込む。

 「……それに、あの日からずっと顔も見てくれない。やっぱり怒らせてしまった?結婚前なのに僕がこらえきれなかったから……でもアナスタシアが愛おしくて止められなかったんだ。」
 「……怒ってなど……ただ、恥ずかしくて……それに……」

 続く言葉はハインツが重ねた唇に塞がれた。そのまま口づけは深まり、ハインツの舌がアナスタシアの口蓋をくすぐった。

 「……んっ!……ふっ……ハインツ、様……だめです……」
 「はぁ……アナスタシア……もう一週間も君に触れていない……んっ……会場に着いたらすぐにやめるから……それまで君に触れさせて……」

 アナスタシアを膝の上に抱き込んで、腰に腕を回したハインツが、目元を赤く染めながら掠れた懇願を耳に吹き込む。

 「……んっ……あっ!……だめっ……そんなところ……」

 声にゾクリと身を震わせたアナスタシアに、ハインツがするりと手を潜り込ませる。くちゅりと音を立てて、潤み始めたアナスタシアのそこにハインツの中指が沿わされる。

 「あっ!ああっ!……だめです……ハインツ様……だめ……ああっ!!」

 蜜を絡めるように蠢いていた指が、ぬるりとアナスタシアの花芯を優しく撫でた。潜り込んだハインツの手首を両手で掴み、アナスタシアは必死に抵抗する。

 「……あぁ……かわいい……アナスタシア……ごめんね、好きすぎて止まらないんだ……アナスタシアが頑張って止めてくれる……?」

 顔中に口づけを落としながら、かわいらしい抵抗にますます煽られたハインツは、固く尖り始めた花芯を撫で回した。

 「あっ!あっ!あっ!だめ……ハインツ様……気持ちよくなっちゃう……だめ……」
 「……うん……ちゃんと着いたらやめるから……あぁ……こんなに蕩けて………アナスタシア、お願いキスして……」
 「あぁ……ハインツ様ぁ……んっ……」

 ハインツの首に両手を縋らせ、アナスタシアが唇を近づけた途端、噛み付くようにハインツが口内を貪り始める。
 舌と舌を絡ませ合う間も、ぬるぬると花芯を撫で回す指は止まらない。腰に回されていた腕が背後から回り込んで、伸ばされたハインツの指がぐずぐずに蕩けた秘裂に潜り込む。

 「んふぅ……んっ……はぁ……ハインツ、様ぁ……ああっ!気持ち、いい……あぁ……」
 「アナスタシア……好きだよ……かわいくてたまらない……好き……愛してる……」

 夢中で唇を貪り合い、抗い難い快楽にアナスタシアは腰を揺らし始める。狭い空間に卑猥な水音が絶え間なく響き、互いのたまらなげなため息が何度も落ちる。
 カーテンを閉めた窓は不自然に曇りはじめ、ギシギシと揺れを増す馬車に、御者は感情を削ぎ落としてひたすら正面だけを見続けている。

 「あっ!だめ……もう……いっちゃう……ハインツ様……いっちゃう……」
 「いいよ、アナスタシア……見せて……僕にいくところを見せて……」
 「あぁ……だめです……いっちゃうのぉ……あっ!あぁっ!そこ、だめっ!だめなの!そこだめぇぇーーー!!」
 「あぁ……アナスタシア……かわいい……すごくかわいい……好きだよ……好き……」

 花芯を押し揉みながら、中のそこをズリズリと擦り立てられアナスタシアは仰け反りながら深く絶頂した。ハインツの指で深く達したアナスタシアを、愛おしげに見詰めていたハインツが感極まったように口づけを落とす。
 そのまま性急に抱え上げたアナスタシアを、自身の怒張で深く刺し貫いた。

 「ああぁぁーーーーー!!!」
 「ああっ!アナスタシア!」

 結合したそこがぶちゅぶちゅと音を立てるほど突き立てながら、二人は激しく繋がり始めた。

 「ああっ!あっ!あっ!あっ!ハインツ様!ハインツ!」
 「あぁ、いい!アナスタシア、気持ちいい!中がうねって絡みついてくるよ……すごくいい!」
 「ああっ!いいのっ!ハインツ様!気持ちいい!」
 「着いたらちゃんとやめるから!アナスタシア!好きだよ!アナスタシア!」

 (………殿下、もう……着いてるんです……)

 互いの想いの丈をぶつけるように愛し合う二人は、馬車がとっくに停止したことに全く気づいていなかった。
 御者は死んだ魚の目で、微動だにせず正面を懸命に見続けた。

ーーーーー

 王宮専用の純白の豪奢な馬車が見え、やる気に満ち満ちていた会場は一気に熱量を上げた。
 マリッジブルーを理由に、まずは円満な婚約解消を公表させる。その後は傷心の王太子を口説き落とす!と集まった令嬢達はギラついていた。

 (…………?降りてこない……?)

 だが、やる気を漲らせていた令嬢達は首を傾げた。停止しているのに激しく揺れ動く馬車から、愛の雄叫びが漏れ聞こえだした辺りで無言になった。
 一向に揺れは収まらないどころか、ますます激しく馬車がギシギシ軋み出すと、一人二人と無言で椅子に座り始めた。気まずい沈黙が茶会を包み始める。

 「「「……………」」」
 「ああぁーーー!ハインツ様ぁーー!!」
 「アナスタシア!いい!いいよ!あぁ!好きだよ!着くまでだから!着いたらやめるから!」

 (((………着いてるよ)))

 静まり返った会場内の誰もが同じことを思った。

 「ああっ!ハインツ様、もう……もう……あぁ……あぁ……あっあっあああああーーーー!!」
 「アナスタシア!アナスタシア!あぁ!もう僕も……!アナスタシア!愛してる!!」

 揺れ動く馬車の中心から轟いた愛の叫び。やがてゆるゆると馬車は揺れが収まり、遂に止まった。割と長いこと揺れていた。その間、御者はただ一点を見つめ続けていた。
 誰もが無言を貫く会場に、パタンと馬車の扉が開く音がやけに響いた。
 申し訳程度に整えた乱れた衣服を纏った王太子がにこやかに降りてきた。上気した白皙の美貌が壮絶な色気を発散させているが、この空気の中ではうっとりと見惚れる者は流石にいなかった。

 「あっ!マデラン侯爵令嬢、お招きありがとう。でも申し訳ない。アナスタシアは参席が難しそうでね……」

 (((……でしょうね)))

 「せっかくだけど挨拶だけして、このまま帰らせてもらうことにするよ。すまないね、ではこれで失礼するね!」
 「あっ……はい……」

 マデラン侯爵令嬢はなんとかそれだけを押し出せた。ツヤツヤうきうきそわそわした王太子は、馬車に駆け戻ると馬車はゆっくりと進みだす。

 (((まだするのかよ……)))

 早速、揺れ始める馬車は、遠い目をした御者の無心の手綱捌きによって、激しく揺れながら走り出した。誰もが悟った。王太子の婚約者どころか、側妃すら無理。あの熱烈な愛の間に割って入るのは、苦行以上の拷問だ、と。

 「………じゃあ、帰ろうか?」

 真っ赤になって俯いていたシスティナに、グリフィスが手を差し出した。こっくりと頷いてシスティナは素直に立ち上がった。

 「二人のことは心配ないよ。」
 「………そうね……別の意味で心配だけど……ねぇ、もしかして知ってたの?」
 「うん。あれだけ大音量だと流石にね。」

 確かに。システィナは深く頷いた。

 「アナスタシアはそれ以来すごく恥ずかしがってて……それにハインツはどうも我慢がきかないみたいでね……困ったもんだよ……」

 ようやくアナスタシアのおかしな態度に納得する。真面目な二人がまさか婚姻前に……。顔を合わせるのが恥ずかしくて逃げ回り、ハインツがあの通りだから接触を避けていたのか。

 「ますます二人は仲良くなってるし、心配いらないよ。」
 「……うん。良かった。」
 
 なんか色々アレだけれども。それでも親友が愛し愛されていることは素直に嬉しい。

 「………早く結婚したいね。」
 「後、1ヶ月でしょ?」
 「そうだけど。システィナは僕と早く愛し合いたいと思わない?僕は一刻も早くそうしたい。もっともっとシスティナと仲良くなりたいからね。」
 「………グリフィス!!」

 にっこりと微笑むグリフィスに、システィナは真っ赤になって固まった。美貌の貴公子。優しくておっとりな大好きな婚約者。

 「………私も、とても待ち遠しいわ………」

 意を決してシスティナも目の前の大好きな婚約者に告白する。小さすぎた声でもしっかり聞き取ってくれたらしい婚約者は、嬉しそうに優しく微笑んでくれたのだった。


※※※※※


 王太子ハインツとアナスタシアは無事に卒業と同時に婚姻を結んだ。輝くような笑みを浮かべ、幸せそうに寄り添う二人に国民は熱狂した。
 美貌の王太子争奪戦は、あれやこれのから騒ぎを巻き起こし誰もが微妙に沈黙して終息した。側妃ならばと娘を奮起させようとすると、泣いて修道院に駆込まれる家門が続出したらしく、そのせいか側妃を娶る話も出ることはなかった。
 仲睦まじい王太子夫妻は子沢山のため、そもそも側妃の必要性は全くないともいえる。
 
 余談だが、王太子夫妻の長男は、なぜか一部の世代の父兄たちに「馬車王子」という謎のあだ名をつけられているらしい。



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