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5 家を出て街に向かう

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「九時になったら家を出るけえな」

蝉の鳴き声を聞きながら、いつもより遅い朝食を食べている時に母が言った。
既に高くなった夏の太陽の陽射しを窓の外に眺めながら家の中にいるといよいよ夏休みに入った事を実感する。
今日から母は僕らが住んでいる上滝村から60キロ程離れた県南の小さな港町にある彼女の実家に2、3日の間帰る事になっている。
父は県南の臨海工業地帯にある工場で働いている為に週末にしかこの家に帰って来ない。
だから明後日の晩迄はこの家には僕が一人で残る事になる。

「火事にならん様、火の元には気をつけにゃあいけんよ」

台所に立っている母が言った。

「うん、わかっとるよ」

大根の味噌汁を飲みながら僕が答えた。

僕は朝食の後、居間でぼんやりとテレビを観ていたが、母はその間奥の部屋でいろいろと支度をしていた。

「ほんなら行って来るけえな」

9時になった時、母は荷物を持って玄関から出ていった。

普段、母は原付バイクで外に出掛けて行くけど今日は路線バスに乗って隣町にある駅に向かうのでエンジンを掛ける音が聞こえて来る事は無い。

僕は母が出て行った後も、特にやる事が思い付かなかったので昼になるまでの間、ずっとクーラーの効いた居間で殆ど何もせずに過ごした。

外は太陽が高くなるに連れて陽射しが激しくなっていった。

僕は昼になるとレトルトのカレーを温めてカレーライスを作ってラッキョウを添え、トマトをスライスして昼食にした。

昼食を食べた後、家の中にいても何もする気が起こらなかった。

それで外は暑そうだったし、何も用事は無かったけれど退屈しのぎに街の方に出掛けてみる事にした。

英字のロゴが入ったグレーのTシャツとジーンズ姿で家の外にでてみると蝉の音が耳をつんざき、ほぼ直上から降り注ぐ強烈な夏の陽射しが僕を包んだ。
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