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第1章
1-2 入れ替わった存在
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一限目の英語を終え、桜は翔の席へと向かっていた。二限目が国語ということで、移動教室はがなく、今なら翔を問いつめることが出来る。と、桜は考えたのだ。
そして、桜が自身に近づいてきていると気づいた翔は、笑顔で手を振り、桜を迎えた。
「おっはよーさくちゃん。今日はちゃんと起きられた? なーんて聞くまでもないね。どうせ起きられずにまた寝坊したんでしょ。それであれかな? 翔様どうかお願いします。やっぱり朝起こしに来てください。貴方がいないと、私ダメなんですーって言いに来たのかな?」
「なっ! だぁーれがそんなこというもんかっ!」
翔の嫌味をたっぷり込めた言葉に、反射的に桜は言い返す。その反応に、翔は意地悪そうに口の端を上げ、からかうように翔は口を開いた。
「そうー? さくちゃんがそう言うなら、俺も応援するよ?」
「ぐぬぬ、屈辱……ッ! 翔にそこまで言われるほど落ちぶれてなんかないやいっ!」
「あっはは。実際起きられてないくせに負け惜しみー? そういうのは自分で起きられるようになってからいいなよ?」
翔はいつもしているかのような調子で、桜を馬鹿にする。その様はまるで、本当に今までも桜たちと日常を過ごしてきたかのような振る舞いだった。
しかし、桜は首を思い切り横にふり、両頬を軽く叩き、気を取り直す。これを認めてしまえば、翼を否定することになる。今まで一緒に過ごしてきたのは、毎朝迎えに来てくれたのは翼だ。このままでは、翔のペースに乗せられ、聞きたいことを聞けずに終わってしまう。そんなのは絶対ダメだ。そう強く思い、桜は真剣な表情を翔に向ける。
そんな桜の珍しい表情を見て翔は、不審げに眉を顰め、口を開いた。
「え、どしたの? 変なものでも食べた?」
「そうじゃなくって……! ねぇ翔。なんで翔が同じクラスにいるの?」
「え……?」
翔の言葉に、桜は失礼だなと思いつつも、その気持ちをぐっと堪え、本題に入った。
そして、桜の言葉に翔は一瞬目を見開き、怪訝そうな顔をする。しかし、すぐに露骨に唇を尖らせ、わざとらしく顔に手を当て、泣き真似をし始めた。
「ひ、酷い! 何も、そこまで言わなくたっていいじゃないか。ちょっとからかっただけじゃん」
「え、あっ……ち、違うって! そういう意味じゃなくって……!」
桜は聞き方を間違えたと気づき、慌てて訂正する。別に、翔と同じクラスが嫌な訳では無いのだ。ただ、翼について知りたかっただけなのだが……。この聞き方だと、翔が同じクラスであることに、不満があるみたいだった。
しかし、この様子からすると、翔は何も知らないのかもしれない。心当たりがあるなら、桜の言いたいことが分かるはずだし、こんなふうに茶化さないだろう。でも、ならなんて聞けばいいのだろうか。と、そんな疑問が桜の中に生まれ、次の言葉がなかなか切り出せないでいた。
「どうしたのさくちゃん。らしくもなく考え込むし、変な事言うし。なんか、今日はちょっと……あ、いやいつも変なんだけどね?」
桜の様子に見かねた翔が、若干の茶化しを入れつつ、桜を心配する。翼と翔は、顔だけでなく基本的な性格もほぼ一緒で、二人とも桜をからかって遊ぶことが多い。なので、翔のお見舞いに行くと、こうした茶化しはいつも入る。だが最近の翔は、どこか遠慮がちなところがあり、大勢でいると、あまり会話に入ってこないことが多かった。
そこまで思い至ったところで、そういえば、こうして面と向かって翔と話すのは、だいぶ久しぶりだな。と、桜は思う。何故、みんなとの会話に入ってこなかったのか。昔は入院中で気落ちしているからだ。と、勝手に思っていた。しかし、それならそれで、一声かけるなりなんなりできたはずだ。それなのに変に気を使って、何も言わなかった。私はちゃんと翔と向き合えていなかったんだな……。ちゃんと理由を聞いておけばよかったなぁ。と、桜は今更ながら後悔していた。
「もしもーしさくちゃん? ほんとに大丈夫? 熱でもあるんじゃない? 保健室行く?」
そう再び翔に声をかけられ、桜はハッと我に返った。今はそんなことを考えている場合じゃない。もう考えても仕方ないし、思いつくまま言葉にしてみよう。絶対変なこと言っていると思われるが、まぁ今もだいぶ思われてるしいっか。などと楽観的に考え、桜はとりあえず思った通りの疑問を口にしてみることにした。
「あーあのさ。翔って、入院してたじゃん? だから学年一個下で、今年から入学したんじゃなかったけ?」
「んん? 入院? え、酷いなさくちゃん。保育園からずっと一緒だったじゃん。今まで健康で、一緒に苦楽を共にしてきた翔君に、そんなこと言う?」
桜の問いに、本心から傷ついたと言わんばかりに、翔が肩を落とす。言い方はかなり茶化し気味だったが。
しかし、この反応から見て翔は、翼のことは何も覚えていないのだろう。そう改めて桜は実感し、悔しくて涙が出そうになる。あんなに仲良しだったのに、どうして翼が居ないこと気付いてくれないんだろう。と、理不尽な怒りさえ覚えた。だが、そんなことを翔にぶつけたってしょうがないことは、桜にもわかる。ここは穏便にやり過ごすしかないか。と、桜は無理やり笑顔を作り、翔を見やった。
「あー、ごめん。ちょっと変な夢見ちゃってさ。気にしないで!」
それだけいい、翔がなにか言いたそうにしているのを振り払って、桜は自分の席に着いた。それと同時に、二限の開始のチャイムが鳴る。桜の返しは到底穏便とは程遠い返しだったが、翔は授業が始まってしまったため、追ってくることはなかった。
翔はひどく心配そうな顔で桜を見ていたが、振り返らない桜がそれに気づくことはなかった。
席に着いた桜は、長門と玲一にも翼の事を確認しよう。と、早速次の目標を決めた。
どうか、二人が翼を覚えていますように。と、願いながら。
そして、桜が自身に近づいてきていると気づいた翔は、笑顔で手を振り、桜を迎えた。
「おっはよーさくちゃん。今日はちゃんと起きられた? なーんて聞くまでもないね。どうせ起きられずにまた寝坊したんでしょ。それであれかな? 翔様どうかお願いします。やっぱり朝起こしに来てください。貴方がいないと、私ダメなんですーって言いに来たのかな?」
「なっ! だぁーれがそんなこというもんかっ!」
翔の嫌味をたっぷり込めた言葉に、反射的に桜は言い返す。その反応に、翔は意地悪そうに口の端を上げ、からかうように翔は口を開いた。
「そうー? さくちゃんがそう言うなら、俺も応援するよ?」
「ぐぬぬ、屈辱……ッ! 翔にそこまで言われるほど落ちぶれてなんかないやいっ!」
「あっはは。実際起きられてないくせに負け惜しみー? そういうのは自分で起きられるようになってからいいなよ?」
翔はいつもしているかのような調子で、桜を馬鹿にする。その様はまるで、本当に今までも桜たちと日常を過ごしてきたかのような振る舞いだった。
しかし、桜は首を思い切り横にふり、両頬を軽く叩き、気を取り直す。これを認めてしまえば、翼を否定することになる。今まで一緒に過ごしてきたのは、毎朝迎えに来てくれたのは翼だ。このままでは、翔のペースに乗せられ、聞きたいことを聞けずに終わってしまう。そんなのは絶対ダメだ。そう強く思い、桜は真剣な表情を翔に向ける。
そんな桜の珍しい表情を見て翔は、不審げに眉を顰め、口を開いた。
「え、どしたの? 変なものでも食べた?」
「そうじゃなくって……! ねぇ翔。なんで翔が同じクラスにいるの?」
「え……?」
翔の言葉に、桜は失礼だなと思いつつも、その気持ちをぐっと堪え、本題に入った。
そして、桜の言葉に翔は一瞬目を見開き、怪訝そうな顔をする。しかし、すぐに露骨に唇を尖らせ、わざとらしく顔に手を当て、泣き真似をし始めた。
「ひ、酷い! 何も、そこまで言わなくたっていいじゃないか。ちょっとからかっただけじゃん」
「え、あっ……ち、違うって! そういう意味じゃなくって……!」
桜は聞き方を間違えたと気づき、慌てて訂正する。別に、翔と同じクラスが嫌な訳では無いのだ。ただ、翼について知りたかっただけなのだが……。この聞き方だと、翔が同じクラスであることに、不満があるみたいだった。
しかし、この様子からすると、翔は何も知らないのかもしれない。心当たりがあるなら、桜の言いたいことが分かるはずだし、こんなふうに茶化さないだろう。でも、ならなんて聞けばいいのだろうか。と、そんな疑問が桜の中に生まれ、次の言葉がなかなか切り出せないでいた。
「どうしたのさくちゃん。らしくもなく考え込むし、変な事言うし。なんか、今日はちょっと……あ、いやいつも変なんだけどね?」
桜の様子に見かねた翔が、若干の茶化しを入れつつ、桜を心配する。翼と翔は、顔だけでなく基本的な性格もほぼ一緒で、二人とも桜をからかって遊ぶことが多い。なので、翔のお見舞いに行くと、こうした茶化しはいつも入る。だが最近の翔は、どこか遠慮がちなところがあり、大勢でいると、あまり会話に入ってこないことが多かった。
そこまで思い至ったところで、そういえば、こうして面と向かって翔と話すのは、だいぶ久しぶりだな。と、桜は思う。何故、みんなとの会話に入ってこなかったのか。昔は入院中で気落ちしているからだ。と、勝手に思っていた。しかし、それならそれで、一声かけるなりなんなりできたはずだ。それなのに変に気を使って、何も言わなかった。私はちゃんと翔と向き合えていなかったんだな……。ちゃんと理由を聞いておけばよかったなぁ。と、桜は今更ながら後悔していた。
「もしもーしさくちゃん? ほんとに大丈夫? 熱でもあるんじゃない? 保健室行く?」
そう再び翔に声をかけられ、桜はハッと我に返った。今はそんなことを考えている場合じゃない。もう考えても仕方ないし、思いつくまま言葉にしてみよう。絶対変なこと言っていると思われるが、まぁ今もだいぶ思われてるしいっか。などと楽観的に考え、桜はとりあえず思った通りの疑問を口にしてみることにした。
「あーあのさ。翔って、入院してたじゃん? だから学年一個下で、今年から入学したんじゃなかったけ?」
「んん? 入院? え、酷いなさくちゃん。保育園からずっと一緒だったじゃん。今まで健康で、一緒に苦楽を共にしてきた翔君に、そんなこと言う?」
桜の問いに、本心から傷ついたと言わんばかりに、翔が肩を落とす。言い方はかなり茶化し気味だったが。
しかし、この反応から見て翔は、翼のことは何も覚えていないのだろう。そう改めて桜は実感し、悔しくて涙が出そうになる。あんなに仲良しだったのに、どうして翼が居ないこと気付いてくれないんだろう。と、理不尽な怒りさえ覚えた。だが、そんなことを翔にぶつけたってしょうがないことは、桜にもわかる。ここは穏便にやり過ごすしかないか。と、桜は無理やり笑顔を作り、翔を見やった。
「あー、ごめん。ちょっと変な夢見ちゃってさ。気にしないで!」
それだけいい、翔がなにか言いたそうにしているのを振り払って、桜は自分の席に着いた。それと同時に、二限の開始のチャイムが鳴る。桜の返しは到底穏便とは程遠い返しだったが、翔は授業が始まってしまったため、追ってくることはなかった。
翔はひどく心配そうな顔で桜を見ていたが、振り返らない桜がそれに気づくことはなかった。
席に着いた桜は、長門と玲一にも翼の事を確認しよう。と、早速次の目標を決めた。
どうか、二人が翼を覚えていますように。と、願いながら。
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