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2章 加護を得ていく

2-6 邪神討伐隊の後悔

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 邪神討伐隊の5人は遺跡の中を歩く。フィリーが罠の魔法陣を傷つけ無効化していると、ジャンが
「そういや、その魔法陣って結局何?」
 と尋ねた。フィリーは目を瞬かせる。
「何って、何? どういうこと?」
「だからさ、前にその変な模様のこと魔法陣って呼んでただろ?」
「それは俺も気になっていた」
 隊長が口を挟んだ。フィリーは意味が分からず首を傾げる。
「……まさか、魔法を知らないのかい」
 アレアが男2人に尋ねると、
「だから、知らねーんだって」
「魔法という言葉は、邪神討伐隊に入るまで聞いたことも無かったぞ」
 という答えが返って来た。
「うっそおぉ」
 フィリーは呆れた声を漏らし、肩を竦めた。
「隊長はともかく、ジャンまで知らないの?」
「うっせえ。しょうがねーだろ、遺跡なんて関わったこと無かったんだから」
「遺跡に関わらなくても知ってるわよ! ……え、まさか、普通は知らないものなの? 街で教えてもらった私がおかしいの?」
 混乱するフィリー。その肩に、アレアが手を置いた。
「大丈夫さ。あーしも村で教えてもらったよ」
「そうよね! 教えてもらうわよね!」
「良いからさっさと教えろよ」
 急かすジャンにフィリーは嘆息し、説明しようとした。
「さすがに妖精は知ってるわよね?」
 ジャンが頷く一方、隊長はきょとんとする。
「……知らないのね。いいわ。そこから教えてあげる」
 遺跡を進み、罠を無効化し、害獣を倒しながら、フィリーは話した。
「天界には、妖精がいるの。神と違って自由に下界に降りられて、自由に力を使える。そして、妖精の使う力が魔法と呼ばれているわ」
「じゃあ、罠の魔法陣って妖精が描いたのか」
 ジャンが言うと、フィリーは首を振った。
「そうとも言えないの。魔法に魔法陣は必要ないから。こういう遺跡が造られた頃は、魔法を再現しようとした人間が魔法陣を開発していた、という記録もあるらしくて……」
「つまり、罠の魔法陣は人間が描いたんだな?」
「待ちなさいよ。人間が開発した魔法陣は罠に便利だということで、妖精も使うようになったわ。だから、結局はどちらが描いたのか分からないのよ。妖精が描いたものと人間が描いたもの、両方が混在しているのかも」
「何だそりゃ」
「遺跡の調査がおこなわれているのは、それを解明するためでもあるわ。メインは失われた魔法陣の技術の再興だけれど」
「え、魔法陣の技術って失われたのか? そんな貴重なモン、傷つけて回って良いのかよ」
「良いのよ。邪神討伐隊の行く遺跡は、調査に使えないような所ばかりだから」
「何で失われたんだ?」
「人間が、魔力を使って妖精を操る方法を編み出したからよ。魔法陣なんて開発しなくても、妖精を操って魔法を使ってもらえば良いだけだもの、そりゃ廃れるでしょ」
「は? そんな便利なこと出来るなら、魔法陣の再興なんてしなくて良くね?」
「魔法のために、人間たちは妖精を乱獲したの。酷い扱いを受けた妖精たちは、下界に来なくなったわ。妖精を捕まえられなきゃ、操る技術も意味が無い。だから今となっては、その妖精を操る技術すら失われつつある……そうなれば、人間は魔力を使うことすら出来なくなるかもしれない。そうなる前に、魔法陣の再興を目指しているのよ。魔法陣の技術も、魔力を使えないと話にならないから」
 話し終えたフィリーを、アレアは感心したように見る。
「詳しいね。あーしはそこまで知らなかったよ」
「まあね」

 そんな話をしている間に、邪神の分霊も倒して最奥に着いてしまった。5人で示し合わせ、同時に石板に手を置く。
 それぞれの体に力が流れ込み、石板に文字が浮かび上がった。「5名に付与済:飛翔」と。
 5人は外に出て飛んでみることにした。

「うわ、ひっく!」
 ジャンが声を上げた。あまりの低さに驚いたのだ。飛翔の力を使ったところ、普通に跳んだ時より低い位置までしか飛べなかった。何の意味があるのか分からない。
 アレアは嘆息した。
「沼地や川なんかを浮いて渡れるね。……邪神との戦いには使えないだろうけど」
「もしかして、加護の受け取り方を間違えてるのかな」
 飛ぶのをやめて、フィリーが呟いた。
「付与人数が多ければ、その分、付与される力が弱まるのかもしれないわ」
「有り得る。単純に考えると、2人だと二分の一、3人だと三分の一って具合かね」
 アレアがそう同意し、苦笑した。
「1人1つずつ加護を得るべきだったのかもね。もう手遅れだけどさ」
 行く予定の遺跡は全部で6つだった。残り3つを1人ずつ受け取ることにすると不公平感が出る。誰が受け取るかで揉めたくもない。
 ジャンは溜息を吐く。
「そういや、ノーシュ含めて6人だったな。1人1つって最初に決めときゃ良かった」
 ノーシュの名前が出たことで、隊長は「ここだ」と思った。
「皆、聞いてくれ。ノーシュのことなんだが」

 注目される中、隊長は話した。レイスから聞いた話を。

「そういう訳で、ノーシュは抜け駆け野郎ではなかったと思う。今更こんなことを言っても仕方ないが……」
 話終えた隊長は、責任を感じているようだった。それを見て、アレアが声をかける。
「隊長のせいじゃないよ。あーしはノーシュを怪しんでたからね。何の目的も意志も無く邪神討伐隊に加わったというのが不審だったのさ」
「分霊と戦った時も明らかに手を抜いてたしな。あんなの見た後にアレじゃ、ノーシュの言うことなんて一言たりとも信じられねー」
 ジャンが付け加えた。ノーシュの言い分を聞いていたとしても意味は無かったと示すように。
 フィリーも苦笑して言う。
「このタイミングで良かったのかもしれないわ。早すぎたら、気持ちの整理がつかずに、頭ごなしに否定していたかも。ノーシュは悪人に決まってるって」
「では、信じてくれるか。ノーシュは悪人ではないと」
「何で隊長がそんなに必死なんだよ」
 ジャンがケラケラ笑って言った。隊長は渋面を浮かべる。
「おかしいだろうか」
「良いんじゃないかい、隊長はそれで。あーしは、ノーシュを完全には信じられないけど、レイスや隊長の言い分も理解したさ」
「私はノーシュを信じても良いわよ。改めて考えると、一緒に罠を無効化してる時は悪人感なんて無かったもの。力の独占が故意じゃなかったって聞いて、何だか納得したわ」
 アレアとフィリーがフォローを入れた。それを意に介さず、ジャンは呟く。
「そういや、ノーシュが得た力って武器を生み出せる力だっけ。今頃は武器屋でも開いてんのかなぁ」
「武器屋?」
 フィリーが怪訝そうに聞き返した。ジャンは頷く。
「元値タダで丸儲けできる。やらない理由がねーだろ」
「……確かに。何の手間も労力も無く武器が出てくるなら、それでがっぽり稼いで優雅に暮らせるわね」
「だろ? あー、羨ましい」
「残り3つの遺跡の中に、商売に使えるような力があれば良いわね」
 そんな会話をしている2人を、アレアは呆れたように見た。
「必要なのは邪神を倒す力だろう。商売に使える力って何さ」

 5人は次の遺跡に向かって歩いて行く。




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