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 という訳で、レッグは一人で魔王の前まで来た。
「あーあ、戦いたくねぇなぁ」
「第一声がそれか、勇者よ」
 魔王が呆れた声を出す。レッグは肩を竦めた。
「だって俺、一人なんだぜ?」
「そういえば……勇者が来ると思っていたのだが……何故一人なのだ。仲間はどうした」
「魔王を恐れて逃げた」
 レッグは吐き捨てるようにそう答えてから、改めて言う。
「で、俺は今、全く戦う気が起きねぇ。どうすれば良い?」
「余に聞かれても……」
「そういや、魔族領って良い茶葉があるらしいな?」
「あ、ああ……」
「飲んでみたいなぁ」
「……では、お茶にするか」
「ぃよっしゃ!」
「……」
 押し切られた形になった魔王は渋面を浮かべたが、勇者があまりに嬉しそうなので、とりあえずお茶を楽しむことにした。
 魔王城で働く魔族が、淹れたての茶を運んでくる。レッグと魔王の前にカップが置かれ、コポコポと心地良い音を立てながら茶が注がれた。
「うーん、良い匂いだ!」
 レッグは早速カップに口を付けようとする。それを魔王が慌てて止めた。
「待て、交換だ」
「え?」
「どうにも無粋な部下がカップに毒を塗ったようだ」
「俺に毒なんて効かないぜ?」
「茶の味が変わってしまう。折角だから、本来の美味さを味わってもらいたい」
 その言葉に、レッグはしばし呆気に取られ、それから大きな笑い声を上げた。
「はははっ、そう来たか……っ、くくっ……あんた変わってるな!」
「変わっているのはお前だろう、勇者。魔王とお茶して喜ぶ勇者なんて聞いたことも無いぞ」
「違いねぇ」
 レッグは笑いながら、交換されたカップから茶をすする。そして、ふぅと息を吐き、満足そうに一言。
「美味い」
「だろう。他にも良い茶葉は色々あるが、余はこれを一番気に入っている」
「あー、ますます戦いたくなくなってきた。ずっとここにいたい」
「本当におかしな奴だな。茶を飲みたいがために人類を見捨てるつもりか?」
「いや、それだとあのクズどもと一緒だ。俺は勇者として、魔族の侵攻を止める責務がある」
「なら」
 戦うしかないだろう、と言いかけた魔王を遮り、レッグは告げる。
「休戦しようぜ」
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