蒼き風の突騎兵

自由の天地を求めて

闘技場の少年

　ハルマン・ソルツは自分が長い眠りから目覚めたことに気付いた。
　気付かせたのは彼にとって懐かしい歓声と拍手喝采であった。ハルマンはかつてライダーレースの主役として活躍していた。そのころに浴びていた歓声に似た声をハルマンは聞いた。
「……おい！　次はお前だぞ！　新人らしいが、この闘技場では新人に優しくするなんて法はねえからな。生き残りたければ相手を倒せ！　それだけだ！　行け！」
　ぼんやりしていたハルマンは背中を押されて眼前の光景に気付いた。そこは六角形の広場であった。広場の上部には客席があった。そこに多くの観客がいて、それぞれに大声を出していた。
　そしてハルマンから少し離れたところにバスター形態の人型がいた。
「……よくわからんが俺は戦わされるということか。相手が銃を持っていないのはわかる。つまり殺し合いではないな。俺もバスターになっている。適当に殴り合えばいいんだろ？」
　ハルマンは自分が置かれている状況が現実だということを確認し、相手の出方を待った。相手が自分を倒しに来ると察したハルマンの体は自然に動き、格闘戦に備えて構えた。その構えはハルマンが夢の中で特訓して会得した格闘術の構えであった。その際、ハルマンは内なる声を聞き、その格闘術を崩壊拳と名付けた。その構えは山のように雄大でかつ脱力した自然な構えであった。
「てめえ！　新人のくせになめるなよ！　やる気あるのか！　ぶっ殺してやる！」
　対戦相手はハルマンに向かって叫び、猛然とダッシュしてハルマンに襲い掛かった。
　そこでハルマンは半歩下がり、右足で強く踏み込んで相手の顔面に強烈な頭突きを食らわせた。
　その一撃で対戦相手は吹っ飛び、闘技場の地面に横たわった。
「……特訓通りにやれたな。こいつは死んだか？　死んではいないな。殺し合いじゃないしな」
　闘技場内に響き渡っていた歓声が消え、闘技場は静寂に包まれた。