10 / 42
ナイフ
しおりを挟む
帰宅すると、西日が差し込む四畳半で真美がうつむいて座っていた。
声をかけようとした拓郎は思わず息を飲んだ。
真美は錆びたナイフを手にうっすらと笑っている。
そしてなにやらぶつぶつとつぶやいている。
「ねえ拓郎、あいつぶっ殺していい? なんかムカつくのよ私」
お帰りも言わずに真美はそう言った。
「……あ、あいつって誰? ぶっ殺すとか、そういうのやめよう姉さん」
「あの女は拓郎を狙ってる。気に入らない。久しぶりにナイフ使うよ」
「姉さん、僕はバイトに行くから。帰りにケーキもらってくるからね」
「ショートケーキ。赤いイチゴが乗ったやつ。血の色のイチゴ……」
拓郎はいくつかバイトを掛け持ちしていたが、その日はケーキショップの店番だった。町外れの流行らない店で、時給は安かったが楽な仕事だった。売れ残りのケーキやパンをもらえるのが役得で、ありがたいバイトだった。客は近所の馴染みばかりで、若い拓郎を気に入ってあれこれ買ってくれる婦人もいたが、長話に付き合わされるのには少々閉口した。
「まだやってます? シュークリームがあればそれを……」
店内に飛び込んできた女子高生を見て、拓郎は絶句した。
「あ? あれ? 拓郎君? 私を5秒で振った拓郎君? 本気?」
声をかけようとした拓郎は思わず息を飲んだ。
真美は錆びたナイフを手にうっすらと笑っている。
そしてなにやらぶつぶつとつぶやいている。
「ねえ拓郎、あいつぶっ殺していい? なんかムカつくのよ私」
お帰りも言わずに真美はそう言った。
「……あ、あいつって誰? ぶっ殺すとか、そういうのやめよう姉さん」
「あの女は拓郎を狙ってる。気に入らない。久しぶりにナイフ使うよ」
「姉さん、僕はバイトに行くから。帰りにケーキもらってくるからね」
「ショートケーキ。赤いイチゴが乗ったやつ。血の色のイチゴ……」
拓郎はいくつかバイトを掛け持ちしていたが、その日はケーキショップの店番だった。町外れの流行らない店で、時給は安かったが楽な仕事だった。売れ残りのケーキやパンをもらえるのが役得で、ありがたいバイトだった。客は近所の馴染みばかりで、若い拓郎を気に入ってあれこれ買ってくれる婦人もいたが、長話に付き合わされるのには少々閉口した。
「まだやってます? シュークリームがあればそれを……」
店内に飛び込んできた女子高生を見て、拓郎は絶句した。
「あ? あれ? 拓郎君? 私を5秒で振った拓郎君? 本気?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
ハッチョーボリ・シュレディンガーズ
近畿ブロードウェイ
SF
なぜか就寝中、布団の中にさまざまな昆虫が潜り込んでくる友人の話を聞き、
悪ふざけ100%で、お酒を飲みながらふわふわと話を膨らませていった結果。
「布団の上のセミの死骸×シュレディンガー方程式×何か地獄みたいになってる国」
という作品が書きたくなったので、話が思いついたときに更新していきます。
小説家になろう で書いている話ですが、
せっかく アルファポリス のアカウントも作ったのでこっちでも更新します。
https://ncode.syosetu.com/n5143io/
・この物語はフィクションです。
作中の人物・団体などの名称は全て架空のものであり、
特定の事件・事象とも一切関係はありません
・特定の作品を馬鹿にするような意図もありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる