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突然の婚約破棄からそれは始まった
大勝負~3
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そして、式典が始まった。
王宮の中にそびえたつ壮麗な大聖堂。
真っ赤な絨毯が敷き詰められたその中で、私はアーロンと共に、式場に立ち、王太子マリエルとその婚約者エマが姿を現すのを待った。
やがて司祭が現れ、二人の婚約を祝福する。
私の隣にいたアーロンが、そっと私の手を握ってくれた。本来なら、あそこに立つのは自分だったはずだ。沢山の人に祝福してもらって、そして、マリエルのお嫁さんになるのを、エレーヌは子供の頃からどれだけ夢見ていたことだろう。
けれども、私はエレーヌではあるけれど、もう昔のままのエレーヌではない。
アーロンにちょっと茶目っ気のある笑顔を見せると、私が全然、そんなことを気にしていないことをしって、ほっとした顔をしていた。
その間も式は着実に進行して、ようやく婚約の儀が成立した。婚約したての王族カップルに、人々が盛大な拍手を送った瞬間、突然、大きなどよめきが周囲から沸き起こる。
「来たな」
「ええ」
私たちは手をつないだまま、覚悟を決めた。
祭壇の端、背後の扉、そして、ありとあらゆる所から姿を現したのは、この国の兵士たちだった。その数、100人以上。
物々しい彼らの装備から、賓客たちは何事かと顔色を変える。
そして、賓客全員が兵士に取り囲まれていた。
「皆様、どうかお静かに」
儀式用の素晴らしい衣装を着たマリエルが、祭壇の上から皆に語り掛ける。
人々は心配そうに周囲を見回し、反乱か、内乱か、その類のものに巻き込まれてしまったのかと思っている中、マリエルの後ろにはエマが立っていた。
「これはどういうことですか。事と状況によっては」
そういきり立っているのは、確か遠い西にある国の外交官だった。
「まあ、そう慌てずに。この兵は皆さまを捕らえるために来たではありません。ご安心ください」」
マリエルは、そういうと、自信満々に、周囲を見回す。そして、賓客の中に私を見つけると、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ここに一人、罪人が紛れ込んでおります。お騒がせして大変申し訳ありませんが、その者を捕らえるために、兵士を配置した次第です。その犯人は実にずる賢く、悪知恵に富んだ女狐でしてね。私たちは随分と、その女に手を焼いていたのです」
マリエルがそういうと、もう一人、祭壇の影から現れた人物がいた。
そう、レイモンド・マクファーレン警務省長官だ。
レイモンドは王太子の後ろに立ち、すっと背筋を伸ばしたまま、後ろに手を組んだまま、私に視線を向けた。
周囲の人間は、マリエルとレイモンドが私に視線を向けたのを見て、慌てて私たちから距離を置く。
近くに座っていた国王夫妻がはっと顔色を変えて立ち上がるも、レイモンドがそれをやんわりと制しているのが目に入る。
静まり返った場の中で、私たちのいる場所だけが広く開き、みんなが私の一挙一動を凝視していた。
ああ、まるであの時みたい。
そう、一番最初、夜会で断罪され、無理やり地下牢へと引っ立てられていった時と全く同じだ。誰一人、味方になってくれようともせず、仲の良かった人も一切、かかわりあいたくないとばかりに、私一人、突き放した連中のことを思い出していた。
「エレーヌ・マクナレン公爵令嬢、ずいぶんと久しぶりだな」
ついに、マリエルが壇上から私に声をかけてきた。
会場はしんと静まりかえり、緊迫した空気で満ちていた。私はその中で、優雅に淑女の礼をとり、膝を追って礼をとった。
「本当にお久しぶりでございます。王太子殿下におかれましては、この度のご婚約、誠におめでとうございます」
「婚約破棄をされておきながら、この場に進んでくるとは、厚顔無恥な所はちっとも直っていないようだな」
群衆の中で、しかも、ただの群衆ではない。他国の王族、重要な貴族たち、外交官など、重鎮の面前で、私を愚弄するとは、ずいぶんといい度胸をしてるものだ。
あからさまなマリエルの敵意を、私は全く意に介していないような顔をして、ふふと笑う。
「婚約破棄されて、幸運だったのはわたくしのほうでございましてよ」
「ふん、虚勢を張るのもほどほどにしろ。せいぜい地下牢で悔し気に歯噛みしたくらいが関の山だろうに」
「まあ、そう思われるのでしたら、どうぞご自由にしてくださいまし」
「なっ、何を」
いきり立ったマリエルの前で、私はぱっと扇を広げて、猫が獲物を前にするような甘い声を出す。
「……大切なお客様の前で、このようなことをするなど、とても礼儀が行き届かれたご配慮ですこと。わたくし、感服いたしますわ」
私の嫌味は、その場にいた人々全員の耳に入っているだろう。
周囲の人間が私たちの会話を一言も漏らさずに聞き耳を立てているのが手に取るようにわかる。
「マリエル王太子殿。ここにいるエレーヌ嬢は、わたしのパートナーであり、また、我が国の王族を代表していることをお忘れなようですね。お言葉如何によっては、わが国への侮辱と受け取らざるを得なくなりますが、それでもよろしいのですね。衆人の前での侮辱、後々謝罪していただきましょう」
アーロンの口調は当然のように厳しく、堂々としていた。
そこで、マリエルもはっと我に返ったようだ。激情すると、何もかも忘れてしまう悪癖は今も健在のようだった。
「さて、それはエレーヌ嬢を捕らえてから話あうとしましょう。我々は、この女を捕らえる機会をずっと狙っていたのですよ」
その言葉を聞き、会場はさらにどよめく。そんな群衆に構わず、マリエルがレイモンドに目で合図を送ると、レイモンドは大きく声を張り上げる。
「衛兵、捕らえよ!」
レイモンドの掛け声に周囲に控えていた兵士たちが、一斉に動く。
兵士たちが私のほうへと駆け寄ってくるのが見える。
「エレーヌ!」
アーロンが慌てて私のそばに駆け寄り、強く抱きしめてくれた。
周囲は大きくざわめき、一種の混乱状態へと陥っていた。
王宮の中にそびえたつ壮麗な大聖堂。
真っ赤な絨毯が敷き詰められたその中で、私はアーロンと共に、式場に立ち、王太子マリエルとその婚約者エマが姿を現すのを待った。
やがて司祭が現れ、二人の婚約を祝福する。
私の隣にいたアーロンが、そっと私の手を握ってくれた。本来なら、あそこに立つのは自分だったはずだ。沢山の人に祝福してもらって、そして、マリエルのお嫁さんになるのを、エレーヌは子供の頃からどれだけ夢見ていたことだろう。
けれども、私はエレーヌではあるけれど、もう昔のままのエレーヌではない。
アーロンにちょっと茶目っ気のある笑顔を見せると、私が全然、そんなことを気にしていないことをしって、ほっとした顔をしていた。
その間も式は着実に進行して、ようやく婚約の儀が成立した。婚約したての王族カップルに、人々が盛大な拍手を送った瞬間、突然、大きなどよめきが周囲から沸き起こる。
「来たな」
「ええ」
私たちは手をつないだまま、覚悟を決めた。
祭壇の端、背後の扉、そして、ありとあらゆる所から姿を現したのは、この国の兵士たちだった。その数、100人以上。
物々しい彼らの装備から、賓客たちは何事かと顔色を変える。
そして、賓客全員が兵士に取り囲まれていた。
「皆様、どうかお静かに」
儀式用の素晴らしい衣装を着たマリエルが、祭壇の上から皆に語り掛ける。
人々は心配そうに周囲を見回し、反乱か、内乱か、その類のものに巻き込まれてしまったのかと思っている中、マリエルの後ろにはエマが立っていた。
「これはどういうことですか。事と状況によっては」
そういきり立っているのは、確か遠い西にある国の外交官だった。
「まあ、そう慌てずに。この兵は皆さまを捕らえるために来たではありません。ご安心ください」」
マリエルは、そういうと、自信満々に、周囲を見回す。そして、賓客の中に私を見つけると、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ここに一人、罪人が紛れ込んでおります。お騒がせして大変申し訳ありませんが、その者を捕らえるために、兵士を配置した次第です。その犯人は実にずる賢く、悪知恵に富んだ女狐でしてね。私たちは随分と、その女に手を焼いていたのです」
マリエルがそういうと、もう一人、祭壇の影から現れた人物がいた。
そう、レイモンド・マクファーレン警務省長官だ。
レイモンドは王太子の後ろに立ち、すっと背筋を伸ばしたまま、後ろに手を組んだまま、私に視線を向けた。
周囲の人間は、マリエルとレイモンドが私に視線を向けたのを見て、慌てて私たちから距離を置く。
近くに座っていた国王夫妻がはっと顔色を変えて立ち上がるも、レイモンドがそれをやんわりと制しているのが目に入る。
静まり返った場の中で、私たちのいる場所だけが広く開き、みんなが私の一挙一動を凝視していた。
ああ、まるであの時みたい。
そう、一番最初、夜会で断罪され、無理やり地下牢へと引っ立てられていった時と全く同じだ。誰一人、味方になってくれようともせず、仲の良かった人も一切、かかわりあいたくないとばかりに、私一人、突き放した連中のことを思い出していた。
「エレーヌ・マクナレン公爵令嬢、ずいぶんと久しぶりだな」
ついに、マリエルが壇上から私に声をかけてきた。
会場はしんと静まりかえり、緊迫した空気で満ちていた。私はその中で、優雅に淑女の礼をとり、膝を追って礼をとった。
「本当にお久しぶりでございます。王太子殿下におかれましては、この度のご婚約、誠におめでとうございます」
「婚約破棄をされておきながら、この場に進んでくるとは、厚顔無恥な所はちっとも直っていないようだな」
群衆の中で、しかも、ただの群衆ではない。他国の王族、重要な貴族たち、外交官など、重鎮の面前で、私を愚弄するとは、ずいぶんといい度胸をしてるものだ。
あからさまなマリエルの敵意を、私は全く意に介していないような顔をして、ふふと笑う。
「婚約破棄されて、幸運だったのはわたくしのほうでございましてよ」
「ふん、虚勢を張るのもほどほどにしろ。せいぜい地下牢で悔し気に歯噛みしたくらいが関の山だろうに」
「まあ、そう思われるのでしたら、どうぞご自由にしてくださいまし」
「なっ、何を」
いきり立ったマリエルの前で、私はぱっと扇を広げて、猫が獲物を前にするような甘い声を出す。
「……大切なお客様の前で、このようなことをするなど、とても礼儀が行き届かれたご配慮ですこと。わたくし、感服いたしますわ」
私の嫌味は、その場にいた人々全員の耳に入っているだろう。
周囲の人間が私たちの会話を一言も漏らさずに聞き耳を立てているのが手に取るようにわかる。
「マリエル王太子殿。ここにいるエレーヌ嬢は、わたしのパートナーであり、また、我が国の王族を代表していることをお忘れなようですね。お言葉如何によっては、わが国への侮辱と受け取らざるを得なくなりますが、それでもよろしいのですね。衆人の前での侮辱、後々謝罪していただきましょう」
アーロンの口調は当然のように厳しく、堂々としていた。
そこで、マリエルもはっと我に返ったようだ。激情すると、何もかも忘れてしまう悪癖は今も健在のようだった。
「さて、それはエレーヌ嬢を捕らえてから話あうとしましょう。我々は、この女を捕らえる機会をずっと狙っていたのですよ」
その言葉を聞き、会場はさらにどよめく。そんな群衆に構わず、マリエルがレイモンドに目で合図を送ると、レイモンドは大きく声を張り上げる。
「衛兵、捕らえよ!」
レイモンドの掛け声に周囲に控えていた兵士たちが、一斉に動く。
兵士たちが私のほうへと駆け寄ってくるのが見える。
「エレーヌ!」
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