35 / 44
突然の婚約破棄からそれは始まった
兄からの手紙
しおりを挟む
「兄さまからだわ」
兄から送られてきた手紙。一体、何があったのだろう。
そして、それと同時に送られてきたアーロン宛の国王の書簡。
この二つに何か関係があると考えざるを得ないではないか。
「とにかく、中に入ろう」
アーロンに促され、建物の中にはいると、アーロンは私の手を引いたまま、二階へと上がる。アーロンにざっと中を案内してもらったことはあれども、二階の詳細は知らなかった。
「ほら、ここが俺の仕事部屋だ」
アーロン曰く、彼の宮殿には執務室はないのだが、夜遅くに仕事をしたりと自宅(?)に仕事場があったほうが働きやすいのだという。
アーロンと私はほぼ同時に手紙の封を開けた。お互い、黙り込みながら、それぞれ手紙に目を通す。
「さて、どっちの話からいこうか」
兄の手紙を読むうちに、私の顔色が変わったのを見て、アーロンは何か良くない知らせが届いたのだろうとわかったみたいだ。
私もアーロンが国王からの手紙を眉をひそめて読んでいたのに気が付いていた。どちらも、あまり嬉しくない内容のようだ。
兄の個人的な手紙より、国レベルでの話のほうが気になる。国王からの公式な書簡を示す蜜蝋の印や封筒の形から、政治的な意味合いの強い手紙だと察していた。
けれども、彼は第三王子だ。普通なら、こういう文書は第一王子、もしくは、代理の第二王子宛てのはずなのに、どうして、わざわざアーロンを名指しで送ってくるのか、それが疑問なのだ。
もしかして、地下牢に閉じ込められていたという事実がばれた? もし、そうであったのなら、アーロンの父である国王へと謝罪が行くはずである。と、なると、その可能性もない。
「そうね。まず、国王の話から聞きたいわね」
「ああ、これは、そうだな。端的に言うと、式典へ招待状だ。建国を記念しての式典と、マリエル王太子の婚約披露パーティーだと」
「あら、あの二人、本当に婚約するとは思いませんでしたわ」
「この文書から言うと、そういうことらしいな」
アーロンが気遣うように私の顔をちらと見た。
「……いいのか? その、元婚約者のことはもう気にしていないのか?」
彼なりに気遣ってくれているらしい。
私は悪役令嬢らしい笑いを浮かべて、軽い気持ちで口を開く。
「あら、あんな木偶の棒と結婚しなくて、わたくし、せいせいしておりますのよ」
だって、ほら、アーロンも知っている通り、あの人、頭が少しね……。
と扇をぱっと開いて、口元を隠すと、アーロンがほっとしたように息をついた。
「そうだな。エレーヌが、なんとも思ってくれてなくて俺は嬉しいが」
だって、私たちは両想いなのだ。何を気にすることがあろうか。
「アーロン、だって、私が好きな人が誰か、貴方が一番よくご存じでしょう」
私がそういうと、アーロンが少し頬を赤くして、熱のこもった視線で私の顔を見つめた。
「エレーヌ、今は二人きりだったな」
彼がそっと私に顔を近づけて、口づけをしようとしたが、ちらりと私がもっている手紙に目をやり、その動きを止めた。彼の顔に、動揺の色が浮かぶ。
「あいつが、エレーヌを捜している、って書いているように見えるが」
「ええ、私を必死になって探しているらしいわ」
「やっぱり、あの時、あいつの息の根を止めておけばよかった」
レイモンドが悔しそうに歯噛みするが、彼は警務省の長官だ。私を捜すのは、仕方がないことだろうと思う。
「まあ、そういうことね」
私は肩を竦めて、小さなため息を一つ、ついた。
レイモンド・マクファーレン警務省長官。
乙女ゲームでも、ヤンデレ担当の彼が、私の所在を血眼になって探している。
兄の手紙によると、それはそれは徹底した捜査網を引き、国の地方の津々浦々まで兵を派遣して私を捜しているのだそう。
とりあえず、マクナレン家は我関せずを貫いているので、家族に何か問題が及ぶことはなさそうだ。
レイモンドは、まさかアーロンがこの国の第三王子であることや、私がその彼の宮殿に匿われていることは知る由もないだろう。
「まあ、母国に戻らなければ、なんの問題もないのだろうけど、もしアーロンが式典に出ると、マクファーレンはすぐに私がここにいると気づくでしょうね」
「ああ、それが問題なんだ。それにしても、なんで俺宛てに招待状が来るんだ? こういうのは普通兄たちの仕事のはずなんだが」
私たちは、顔を見合わせ、不思議そうに首をかしげる。
普通に考えても、このような公式な催しは第一王子が行くべきなのだ。
なんとなく、陰謀の匂いを感じて、アーロンは思慮深い目をして私に言う。
「俺は、この招待を辞退しようと思う。俺が地下牢に捕らえられていた人物だと分かれば、色々と不都合が起きるはずだ」
「まあ、レイモンドがダダをこねても、他人の空似で押し通せばなんとかなると思うけど」
「俺があっちに行く分にはそれでいい。けれども、その間、エレーヌがこの王宮で一人になる。それが心配だ」
「あら、わたしくは一人でも大丈夫よ?公務であれば、行かない訳にはいかないでしょ?」
公務に行くなら、私も連れていくと彼は主張するが、顔が割れてしまうとアーロンに迷惑がかかる。
王妃様の言う通りだ。私の汚名を晴らさなければ、後々のアーロンの将来にも色々と傷がつく。
「いや、どうしても、この件が何か陰謀の匂いがするんだ。お前がここに一人でいて、誰かに危害を加えられたら大変だ」
そして、すぐにこれが誰の仕業かわかったのだが、アーロンはそのまま難しい顔をして考え込んでいた。
兄から送られてきた手紙。一体、何があったのだろう。
そして、それと同時に送られてきたアーロン宛の国王の書簡。
この二つに何か関係があると考えざるを得ないではないか。
「とにかく、中に入ろう」
アーロンに促され、建物の中にはいると、アーロンは私の手を引いたまま、二階へと上がる。アーロンにざっと中を案内してもらったことはあれども、二階の詳細は知らなかった。
「ほら、ここが俺の仕事部屋だ」
アーロン曰く、彼の宮殿には執務室はないのだが、夜遅くに仕事をしたりと自宅(?)に仕事場があったほうが働きやすいのだという。
アーロンと私はほぼ同時に手紙の封を開けた。お互い、黙り込みながら、それぞれ手紙に目を通す。
「さて、どっちの話からいこうか」
兄の手紙を読むうちに、私の顔色が変わったのを見て、アーロンは何か良くない知らせが届いたのだろうとわかったみたいだ。
私もアーロンが国王からの手紙を眉をひそめて読んでいたのに気が付いていた。どちらも、あまり嬉しくない内容のようだ。
兄の個人的な手紙より、国レベルでの話のほうが気になる。国王からの公式な書簡を示す蜜蝋の印や封筒の形から、政治的な意味合いの強い手紙だと察していた。
けれども、彼は第三王子だ。普通なら、こういう文書は第一王子、もしくは、代理の第二王子宛てのはずなのに、どうして、わざわざアーロンを名指しで送ってくるのか、それが疑問なのだ。
もしかして、地下牢に閉じ込められていたという事実がばれた? もし、そうであったのなら、アーロンの父である国王へと謝罪が行くはずである。と、なると、その可能性もない。
「そうね。まず、国王の話から聞きたいわね」
「ああ、これは、そうだな。端的に言うと、式典へ招待状だ。建国を記念しての式典と、マリエル王太子の婚約披露パーティーだと」
「あら、あの二人、本当に婚約するとは思いませんでしたわ」
「この文書から言うと、そういうことらしいな」
アーロンが気遣うように私の顔をちらと見た。
「……いいのか? その、元婚約者のことはもう気にしていないのか?」
彼なりに気遣ってくれているらしい。
私は悪役令嬢らしい笑いを浮かべて、軽い気持ちで口を開く。
「あら、あんな木偶の棒と結婚しなくて、わたくし、せいせいしておりますのよ」
だって、ほら、アーロンも知っている通り、あの人、頭が少しね……。
と扇をぱっと開いて、口元を隠すと、アーロンがほっとしたように息をついた。
「そうだな。エレーヌが、なんとも思ってくれてなくて俺は嬉しいが」
だって、私たちは両想いなのだ。何を気にすることがあろうか。
「アーロン、だって、私が好きな人が誰か、貴方が一番よくご存じでしょう」
私がそういうと、アーロンが少し頬を赤くして、熱のこもった視線で私の顔を見つめた。
「エレーヌ、今は二人きりだったな」
彼がそっと私に顔を近づけて、口づけをしようとしたが、ちらりと私がもっている手紙に目をやり、その動きを止めた。彼の顔に、動揺の色が浮かぶ。
「あいつが、エレーヌを捜している、って書いているように見えるが」
「ええ、私を必死になって探しているらしいわ」
「やっぱり、あの時、あいつの息の根を止めておけばよかった」
レイモンドが悔しそうに歯噛みするが、彼は警務省の長官だ。私を捜すのは、仕方がないことだろうと思う。
「まあ、そういうことね」
私は肩を竦めて、小さなため息を一つ、ついた。
レイモンド・マクファーレン警務省長官。
乙女ゲームでも、ヤンデレ担当の彼が、私の所在を血眼になって探している。
兄の手紙によると、それはそれは徹底した捜査網を引き、国の地方の津々浦々まで兵を派遣して私を捜しているのだそう。
とりあえず、マクナレン家は我関せずを貫いているので、家族に何か問題が及ぶことはなさそうだ。
レイモンドは、まさかアーロンがこの国の第三王子であることや、私がその彼の宮殿に匿われていることは知る由もないだろう。
「まあ、母国に戻らなければ、なんの問題もないのだろうけど、もしアーロンが式典に出ると、マクファーレンはすぐに私がここにいると気づくでしょうね」
「ああ、それが問題なんだ。それにしても、なんで俺宛てに招待状が来るんだ? こういうのは普通兄たちの仕事のはずなんだが」
私たちは、顔を見合わせ、不思議そうに首をかしげる。
普通に考えても、このような公式な催しは第一王子が行くべきなのだ。
なんとなく、陰謀の匂いを感じて、アーロンは思慮深い目をして私に言う。
「俺は、この招待を辞退しようと思う。俺が地下牢に捕らえられていた人物だと分かれば、色々と不都合が起きるはずだ」
「まあ、レイモンドがダダをこねても、他人の空似で押し通せばなんとかなると思うけど」
「俺があっちに行く分にはそれでいい。けれども、その間、エレーヌがこの王宮で一人になる。それが心配だ」
「あら、わたしくは一人でも大丈夫よ?公務であれば、行かない訳にはいかないでしょ?」
公務に行くなら、私も連れていくと彼は主張するが、顔が割れてしまうとアーロンに迷惑がかかる。
王妃様の言う通りだ。私の汚名を晴らさなければ、後々のアーロンの将来にも色々と傷がつく。
「いや、どうしても、この件が何か陰謀の匂いがするんだ。お前がここに一人でいて、誰かに危害を加えられたら大変だ」
そして、すぐにこれが誰の仕業かわかったのだが、アーロンはそのまま難しい顔をして考え込んでいた。
26
お気に入りに追加
2,016
あなたにおすすめの小説
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます
葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。
しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。
お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。
二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。
「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」
アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。
「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」
「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」
「どんな約束でも守るわ」
「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」
これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。
※タイトル通りのご都合主義なお話です。
※他サイトにも投稿しています。
悪役令嬢の物語は始まりません。なぜならわたくしがヒロインを排除するからです。
霜月零
恋愛
わたくし、シュティリア・ホールオブ公爵令嬢は前世の記憶を持っています。
流行り病で生死の境を彷徨った時に思い出したのです。
この世界は、前世で遊んでいた乙女ゲームに酷似していると。
最愛のディアム王子をヒロインに奪われてはなりません。
そうと決めたら、行動しましょう。
ヒロインを排除する為に。
※小説家になろう様等、他サイト様にも掲載です。
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした
ひなクラゲ
恋愛
突然ですが私は転生者…
ここは乙女ゲームの世界
そして私は悪役令嬢でした…
出来ればこんな時に思い出したくなかった
だってここは全てが終わった世界…
悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……
悪役令嬢ですが、どうやらずっと好きだったみたいです
朝顔
恋愛
リナリアは前世の記憶を思い出して、頭を悩ませた。
この世界が自分の遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気がついたのだ。
そして、自分はどうやら主人公をいじめて、嫉妬に狂って殺そうとまでする悪役令嬢に転生してしまった。
せっかく生まれ変わった人生で断罪されるなんて絶対嫌。
どうにかして攻略対象である王子から逃げたいけど、なぜだか懐つかれてしまって……。
悪役令嬢の王道?の話を書いてみたくてチャレンジしました。
ざまぁはなく、溺愛甘々なお話です。
なろうにも同時投稿
悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。
切ない話が書きたくて書きました。
転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
アイク(誰?)ルートを用意いたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる