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最終章
舞踏会の出来事~4
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華やかな舞踏会で色とりどりのドレスを纏った淑女たちが、思わせぶりに小首をかしげる。繊細な装飾が施されたシルクの扇で口元を隠すようにして、遅れて登場した客人の身元を不思議そうに囁きあう。
「ねえ。あの方、どなたかしら?」
堂々としてどこか晴やかなその男は、一目で、彼がただの貴族ではないことは明らかにわかる。
まあ、と伯爵夫人がため息をつく。王族か同等の格を持つ高位貴族でなければ身につけることが出来ない宝飾品を目にして、感嘆のため息を漏らす。
「・・・不思議ですわね。あのくらいの立場の方でしたら、お見かけする機会が一度くらいあってもおかしくはないのに・・・」
不思議そうに囁きあう令嬢達が熱い視線で彼を見つめている間、男達の顔からは血の気がどんどんと引いていった。
「あれは・・・ガルバーニ卿じゃないか?」
「間違いない。公爵だ。一体、どういう風の吹き回しだ」
女王が主催する国内外の貴賓を集めた晩餐会にすら出ない彼が、カトリーヌ王女主催の舞踏会、というやや劣ったクラスの夜会に顔を出すとは前代未聞だ。しかも、貴族の大半は、貴族令嬢、子息が多く、公爵の顔すら知らないものが多いというのに。
悪名高い悪魔のガルバーニとも呼ばれている男がこのように男性的で美しい風貌をしているとは。噂にしか聞いたことがない公爵家当主を見て、言葉にならない驚きを感じている男もいた。
そんな周囲の様子を静かに眺めていた壮年の恰幅のよい紳士が、自分の妻に声をかけた。
「お前、決して、あの方に声をかけてはいけないよ」
自分よりずっと年の若い妻が取り返しのつかない失礼をおかしてしてしまう前に。
「あら、どうして? あなた」
無邪気に自分を見つめる妻を尻目に、男は忌まわしいものを見るかのような目つきで、その男を眺めた。
「・・・ガルバーニ公爵だ。いいかい? 彼は気安く話しかけていい立場のお方ではない。よく、自分の身の程をわきまえておきなさい」
そんな風に静かで思慮深い男は宮廷の中で穏やかな最後を迎えることが出来るだろう。
◇
かつり、と、彼が舞踏会のホールを踏みしめてあるく音が響き渡る。一歩一歩、自分の愛おしい女に向って歩みを進めるジョルジュ・ガルバーニ卿の一挙一度を皆が見守っていた。
「ジュリア、ああ、遅くなってしまってすまなかったね」
陰鬱な表情がデフォルトの硬派が初めて表情を崩して微笑む。それを見た男達は驚愕した。無慈悲で冷酷な公爵家当主が、初めて人らしい表情を見せたからだ。
こともあろうに、ガルバーニ卿は、女性でありながら伯爵家当主となる美しい令嬢の名を呼んだのだ。彼はその行為の意味を十分承知していた。そして、彼が意図する通り、見る者すべてが、その意味を瞬時に理解した。
ジュリア・フォルティスはガルバーニ卿のものである、と。
「ジョルジュ」
そう呼ぶ彼女の表情も柔らかく、嬉しそうな言葉の響きで、周囲の男達もはっきりとわかった。彼女もまた、公爵に対して少なからず好意を持っていると。
彼女の呼びかけに、公爵も優しげな微笑みを返す。
「前の委員会が遅くなってしまってね。すまなかった」
「ひっ、ガルバーニ公爵・・・・」
「あれが・・・ガルバーニ公爵」
男どもは畏怖の念をこめて、彼を見つめ、女達は、憧れの眼差しを彼に向けたが、静かな驚きがその場に広がっていった。
思いがけない人物の登場により、侯爵の顔からみるみる血の気が引いていくのが面白いように分かる。ルセーヌ侯爵は、その男に見覚えがあった。
あの黒髪、顔立ち。仮面舞踏会では顔は隠れていたが、我が女神のパートナーだった男だ。
ジュリアは、そんなジョルジュの様子を見て、これは確信犯だな。と思ったが、まあ、どのみち、来週には婚約発表があるのだ。別に構わないだろうと思った。カトリーヌ王女がさっさと退場してくれてよかったとジュリアは思った。いくら何でも、王女の前で、お互いにファーストネームで呼び合う訳にもいかなかっただろう。
最も、ジョルジュはそんなことは気にしないだろうけど。
「一人で寂しかったかい。ダーリン?」
つかつかとジュリアに歩み寄り、人前で堂々とジュリアの頬に、ちゅっと口付けをした瞬間、その場にいた誰もが驚きのあまり息を飲んだ。この美しい女性伯爵は、この男の寵愛を一身に集めているのだ、と。陰の王家と呼ばれている男。宮廷内の陰謀、策略を一身に背負うこの陰の実力者に。
とにかく、どんな理由にせよ、その場にいた連中が、大きな衝撃を受けたことには間違いない。
─ ただ一握りの令嬢達を除けば。
(ああ、お姉様! もう、すでにこんな素敵な恋人がいらっしゃったのですね!)
リリーは、公爵の眼差しがとても蕩けるような熱をもって、ジュリアを見つめていることに気がついて、ゾクゾクするような興奮を覚えた。
(まあ、すてき!巷で流行っている小説のようですこと。二人はきっとあつーい愛をはぐくんでっ!)
スチルがあったら見たい!リリーは、はあはあとはしたなく息を荒げたくなる所をぐっとこらえた。これは、お兄様に絶対に記録に残してもらわなくては!と、心の中で息まくのだが。
◇
ジュリアは、突然登場した彼から公衆の面前で頬に口付けをされ、それがあまりにも様になっていたのと、思いがけない彼の行動のせいで、一瞬ぽかんとして彼を見上げてしまった。
「寂しかったかい?ダーリン」
彼にそっと抱きしめられ、驚きのあまり再び固まった。甘い。ジョルジュ。今日の彼の甘さはいつもの100倍とか、いや、もしかしたら1000倍かもしれない。艶のある彼の声はさらに甘く、蕩けるような視線で自分を見つめている。
「ジ、ジョルジュ、み、みんなが見ていますよ」
「私と君の仲を皆に見せつけるいい機会だと思わないかい?」
くすりと笑い、優しげな瞳を向ける彼があまりにも素敵だったので、頬が赤く染まるのがわかる。この人はどうしてこんなに愛情深いのか。それが、嫉妬という感情であったことをジュリアはまだ思い及ばないでいたのであるが。
さて、と。ジュリアから身を引き、公爵は彼女の肩を抱いたまま、侯爵に向き合った。
「さて、ルセーヌ侯爵、君の父上とは、旧知の仲でね・・・。それでジュリアにどのような話をされていたのかな?」
彼が見透かすような目で男を見れば、ルセーヌ侯爵は青ざめ、ガタガタと震えながら口を開いた。
「いえっ。な、何も・・・その特別なお話は・・・」
「そうだろうね。私はジュリアの後見人として彼女の全てに責任があるのだよ。最も、私たちは見ての通り、後見人と被後見人以上の仲である訳だがね」
彼の口の端に冷たい笑みが浮かぶが、目は笑っていない。冷たい光を宿した目つきとは対照的に、端正な顔に貼り付けたような笑顔を浮かべた公爵から黒いオーラが漂っているような気さえする。彼女の名を呼び、プライベートまで彼が立ち入っていると知って、わざわざ、地雷を踏みにいくバカはいない。
「お前さんが来るまで、約束通り、変な虫が付かないか見張っておったぞ」
上品な礼服を着た年老いた男が、公爵の言外のプレッシャーを破るかのように入ってきた。
「本当に見てただけですけどね」
ジュリアはちょっと不機嫌そうに言うが、老人はそんなことは全く気にせず上機嫌だ。
「まだ、手はつけられておらんじゃろうて」
「もう、元老院様、なんてことをっ!」
そうなる前に相手を拳で地面に沈めてやります、とジュリアは言いたかったのだが、そこはあえて言わなかった。
公爵も目を細めて、親しげに老人に笑顔を見せた。
「元老院様、お久しぶりです」
「由緒ある公爵家の頼みを邪険にする訳にもいかんかったのでな。この老いぼれが一肌脱いだ訳じゃ」
男達はふふと笑い肩をたたき合った。老人は、ジュリアに視線を向けた。
「お前さんの愛しい人がやっと来たようじゃて、儂はこれで失礼させてもらっても構わんかの?」
「元老院殿、今日は本当に感謝いたします」
「また番犬代わりに儂を使いたくなったら呼んでくれて構わんぞ?何しろ、お前さんとの仲は腐れ縁じゃて」
「女王のご意見番とも言える元老院様ともあろうお方を番犬など、とんでもない」
ジョルジュが不敵な笑みを浮かべれば、元老院も気持ちよく彼の肩を叩いた。
「番犬、忠犬、好きなように呼んでくれて構わんよ。この老いぼれもまだ少しは人の役にたつようじゃて」
「では、マクナム伯爵、これで儂は失礼させていただきますぞ。後は子作りでも何でも好きにやってくれたまえ」
「元老院様っ」
貴族らしからぬ下品なジョークをとばす老人にジュリアは慌てて抗議した。真っ赤になって慌てるジュリアを尻目に、公爵は平然と彼に礼を述べる。
「今日は、本当にありがとうございました」
「お前さんの父上に、儂はよく世話になったからの。このくらいはお安いご用じゃて」
二人はそうやって老人を見送った後、ジョルジュが楽しげに彼女に向かい合った。侯爵はいつの間にか、どこかへ行ってしまった。二人きりになり、快活な気分になったジュリアは楽しそうに口元に微笑みを浮かべて彼を見つめた。
「さて、今日の君は、本当に素敵だ。また惚れ直しそうだ」
音楽が三拍子のフォリアへと変わった。テンポが速く軽快な舞踏曲だ。
「では、お手をお借りします。ジュリア」
礼服を着たジョルジュが白い手袋をはめた手をそっと差し出せば、ジュリアも優雅な仕草で一礼し、彼の手を取った。ジュリアは、とても魅惑的な微笑みを浮かべ、碧い瞳でじっと彼を見つめれば、彼もまた熱く蕩けそうな視線で彼女を見つめる。
ジュリアは、幸せそうな口調で彼に口を開いた。周囲の人間がそれをきちんと聞いていると確信しながら。
「ええ、ジョルジュ、私も貴方と踊りたいと思ってましたの」
◇
遅くなりました。トラブルシーティング終了です。もう少ししたら、少し改稿するかもしれません。
「ねえ。あの方、どなたかしら?」
堂々としてどこか晴やかなその男は、一目で、彼がただの貴族ではないことは明らかにわかる。
まあ、と伯爵夫人がため息をつく。王族か同等の格を持つ高位貴族でなければ身につけることが出来ない宝飾品を目にして、感嘆のため息を漏らす。
「・・・不思議ですわね。あのくらいの立場の方でしたら、お見かけする機会が一度くらいあってもおかしくはないのに・・・」
不思議そうに囁きあう令嬢達が熱い視線で彼を見つめている間、男達の顔からは血の気がどんどんと引いていった。
「あれは・・・ガルバーニ卿じゃないか?」
「間違いない。公爵だ。一体、どういう風の吹き回しだ」
女王が主催する国内外の貴賓を集めた晩餐会にすら出ない彼が、カトリーヌ王女主催の舞踏会、というやや劣ったクラスの夜会に顔を出すとは前代未聞だ。しかも、貴族の大半は、貴族令嬢、子息が多く、公爵の顔すら知らないものが多いというのに。
悪名高い悪魔のガルバーニとも呼ばれている男がこのように男性的で美しい風貌をしているとは。噂にしか聞いたことがない公爵家当主を見て、言葉にならない驚きを感じている男もいた。
そんな周囲の様子を静かに眺めていた壮年の恰幅のよい紳士が、自分の妻に声をかけた。
「お前、決して、あの方に声をかけてはいけないよ」
自分よりずっと年の若い妻が取り返しのつかない失礼をおかしてしてしまう前に。
「あら、どうして? あなた」
無邪気に自分を見つめる妻を尻目に、男は忌まわしいものを見るかのような目つきで、その男を眺めた。
「・・・ガルバーニ公爵だ。いいかい? 彼は気安く話しかけていい立場のお方ではない。よく、自分の身の程をわきまえておきなさい」
そんな風に静かで思慮深い男は宮廷の中で穏やかな最後を迎えることが出来るだろう。
◇
かつり、と、彼が舞踏会のホールを踏みしめてあるく音が響き渡る。一歩一歩、自分の愛おしい女に向って歩みを進めるジョルジュ・ガルバーニ卿の一挙一度を皆が見守っていた。
「ジュリア、ああ、遅くなってしまってすまなかったね」
陰鬱な表情がデフォルトの硬派が初めて表情を崩して微笑む。それを見た男達は驚愕した。無慈悲で冷酷な公爵家当主が、初めて人らしい表情を見せたからだ。
こともあろうに、ガルバーニ卿は、女性でありながら伯爵家当主となる美しい令嬢の名を呼んだのだ。彼はその行為の意味を十分承知していた。そして、彼が意図する通り、見る者すべてが、その意味を瞬時に理解した。
ジュリア・フォルティスはガルバーニ卿のものである、と。
「ジョルジュ」
そう呼ぶ彼女の表情も柔らかく、嬉しそうな言葉の響きで、周囲の男達もはっきりとわかった。彼女もまた、公爵に対して少なからず好意を持っていると。
彼女の呼びかけに、公爵も優しげな微笑みを返す。
「前の委員会が遅くなってしまってね。すまなかった」
「ひっ、ガルバーニ公爵・・・・」
「あれが・・・ガルバーニ公爵」
男どもは畏怖の念をこめて、彼を見つめ、女達は、憧れの眼差しを彼に向けたが、静かな驚きがその場に広がっていった。
思いがけない人物の登場により、侯爵の顔からみるみる血の気が引いていくのが面白いように分かる。ルセーヌ侯爵は、その男に見覚えがあった。
あの黒髪、顔立ち。仮面舞踏会では顔は隠れていたが、我が女神のパートナーだった男だ。
ジュリアは、そんなジョルジュの様子を見て、これは確信犯だな。と思ったが、まあ、どのみち、来週には婚約発表があるのだ。別に構わないだろうと思った。カトリーヌ王女がさっさと退場してくれてよかったとジュリアは思った。いくら何でも、王女の前で、お互いにファーストネームで呼び合う訳にもいかなかっただろう。
最も、ジョルジュはそんなことは気にしないだろうけど。
「一人で寂しかったかい。ダーリン?」
つかつかとジュリアに歩み寄り、人前で堂々とジュリアの頬に、ちゅっと口付けをした瞬間、その場にいた誰もが驚きのあまり息を飲んだ。この美しい女性伯爵は、この男の寵愛を一身に集めているのだ、と。陰の王家と呼ばれている男。宮廷内の陰謀、策略を一身に背負うこの陰の実力者に。
とにかく、どんな理由にせよ、その場にいた連中が、大きな衝撃を受けたことには間違いない。
─ ただ一握りの令嬢達を除けば。
(ああ、お姉様! もう、すでにこんな素敵な恋人がいらっしゃったのですね!)
リリーは、公爵の眼差しがとても蕩けるような熱をもって、ジュリアを見つめていることに気がついて、ゾクゾクするような興奮を覚えた。
(まあ、すてき!巷で流行っている小説のようですこと。二人はきっとあつーい愛をはぐくんでっ!)
スチルがあったら見たい!リリーは、はあはあとはしたなく息を荒げたくなる所をぐっとこらえた。これは、お兄様に絶対に記録に残してもらわなくては!と、心の中で息まくのだが。
◇
ジュリアは、突然登場した彼から公衆の面前で頬に口付けをされ、それがあまりにも様になっていたのと、思いがけない彼の行動のせいで、一瞬ぽかんとして彼を見上げてしまった。
「寂しかったかい?ダーリン」
彼にそっと抱きしめられ、驚きのあまり再び固まった。甘い。ジョルジュ。今日の彼の甘さはいつもの100倍とか、いや、もしかしたら1000倍かもしれない。艶のある彼の声はさらに甘く、蕩けるような視線で自分を見つめている。
「ジ、ジョルジュ、み、みんなが見ていますよ」
「私と君の仲を皆に見せつけるいい機会だと思わないかい?」
くすりと笑い、優しげな瞳を向ける彼があまりにも素敵だったので、頬が赤く染まるのがわかる。この人はどうしてこんなに愛情深いのか。それが、嫉妬という感情であったことをジュリアはまだ思い及ばないでいたのであるが。
さて、と。ジュリアから身を引き、公爵は彼女の肩を抱いたまま、侯爵に向き合った。
「さて、ルセーヌ侯爵、君の父上とは、旧知の仲でね・・・。それでジュリアにどのような話をされていたのかな?」
彼が見透かすような目で男を見れば、ルセーヌ侯爵は青ざめ、ガタガタと震えながら口を開いた。
「いえっ。な、何も・・・その特別なお話は・・・」
「そうだろうね。私はジュリアの後見人として彼女の全てに責任があるのだよ。最も、私たちは見ての通り、後見人と被後見人以上の仲である訳だがね」
彼の口の端に冷たい笑みが浮かぶが、目は笑っていない。冷たい光を宿した目つきとは対照的に、端正な顔に貼り付けたような笑顔を浮かべた公爵から黒いオーラが漂っているような気さえする。彼女の名を呼び、プライベートまで彼が立ち入っていると知って、わざわざ、地雷を踏みにいくバカはいない。
「お前さんが来るまで、約束通り、変な虫が付かないか見張っておったぞ」
上品な礼服を着た年老いた男が、公爵の言外のプレッシャーを破るかのように入ってきた。
「本当に見てただけですけどね」
ジュリアはちょっと不機嫌そうに言うが、老人はそんなことは全く気にせず上機嫌だ。
「まだ、手はつけられておらんじゃろうて」
「もう、元老院様、なんてことをっ!」
そうなる前に相手を拳で地面に沈めてやります、とジュリアは言いたかったのだが、そこはあえて言わなかった。
公爵も目を細めて、親しげに老人に笑顔を見せた。
「元老院様、お久しぶりです」
「由緒ある公爵家の頼みを邪険にする訳にもいかんかったのでな。この老いぼれが一肌脱いだ訳じゃ」
男達はふふと笑い肩をたたき合った。老人は、ジュリアに視線を向けた。
「お前さんの愛しい人がやっと来たようじゃて、儂はこれで失礼させてもらっても構わんかの?」
「元老院殿、今日は本当に感謝いたします」
「また番犬代わりに儂を使いたくなったら呼んでくれて構わんぞ?何しろ、お前さんとの仲は腐れ縁じゃて」
「女王のご意見番とも言える元老院様ともあろうお方を番犬など、とんでもない」
ジョルジュが不敵な笑みを浮かべれば、元老院も気持ちよく彼の肩を叩いた。
「番犬、忠犬、好きなように呼んでくれて構わんよ。この老いぼれもまだ少しは人の役にたつようじゃて」
「では、マクナム伯爵、これで儂は失礼させていただきますぞ。後は子作りでも何でも好きにやってくれたまえ」
「元老院様っ」
貴族らしからぬ下品なジョークをとばす老人にジュリアは慌てて抗議した。真っ赤になって慌てるジュリアを尻目に、公爵は平然と彼に礼を述べる。
「今日は、本当にありがとうございました」
「お前さんの父上に、儂はよく世話になったからの。このくらいはお安いご用じゃて」
二人はそうやって老人を見送った後、ジョルジュが楽しげに彼女に向かい合った。侯爵はいつの間にか、どこかへ行ってしまった。二人きりになり、快活な気分になったジュリアは楽しそうに口元に微笑みを浮かべて彼を見つめた。
「さて、今日の君は、本当に素敵だ。また惚れ直しそうだ」
音楽が三拍子のフォリアへと変わった。テンポが速く軽快な舞踏曲だ。
「では、お手をお借りします。ジュリア」
礼服を着たジョルジュが白い手袋をはめた手をそっと差し出せば、ジュリアも優雅な仕草で一礼し、彼の手を取った。ジュリアは、とても魅惑的な微笑みを浮かべ、碧い瞳でじっと彼を見つめれば、彼もまた熱く蕩けそうな視線で彼女を見つめる。
ジュリアは、幸せそうな口調で彼に口を開いた。周囲の人間がそれをきちんと聞いていると確信しながら。
「ええ、ジョルジュ、私も貴方と踊りたいと思ってましたの」
◇
遅くなりました。トラブルシーティング終了です。もう少ししたら、少し改稿するかもしれません。
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