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最終章 

最終話~19

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「さて、他の騎士団も到着したようだ。メディシス殿、貴殿の騎士達共にゆっくりとおくつろぎください。それに、今宵、催される宴を存分に楽しんで行かれればよろしいでしょう」

ガルバーニ公爵が落ち着いた声で言えば、メディシスも丁寧にそれに応えた。

「・・・ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきましょう」

そうして、慣習どおりに、男はジュリアが差し出した手の甲に、儀礼的な口付けをしようとして、はっと気がついた。

─ この指輪は・・・

ジュリア様の指に填められていたのは、ガルバーニ公爵家の指輪。しかも、ガルバーニ家を統治している直系の者を示す女性用の指輪だ。

つまりは、ジュリア様は、すでにガルバーニ公爵家の一員である、と言うことだ。それが意味する所は、ただ一つ。

・・・ジュリア様は、ジョルジュ・ガルバーニ公爵様と縁を結ばれている。

皆が強く慕っていたリチャード様亡き後、長い領主不在の間、マクナム伯爵領の領民はほぞをかむ思いで過ごしてきたのだ。リチャード様に生き写しのジュリア様が、現れた時は、長年、領主不在の所に、リチャード様生き写しの当主が再び、この地を踏み、統治してくれると、心ときめく思いで、彼女に会えることを一日千秋の思いで待ちわびていたのだが。どうやら一足遅かったようだ。

そして、前領主生き写しの当主が、まだ若く、美しい女性だと聞き、男達の期待はさらに高まっていたのだが、一気に背中から冷水を浴びせかけられたような気がしたのだ。

「では、今宵、再びお会いしましょう」

「ああ、貴殿達のご活躍には感謝いたします」

ジュリアの手にガルバーニ家の指輪が填められているのを見つけた時の男の表情をジョルジュは見透かすように眺めていた。

全てお見通しか。

やはり、ガルバーニを侮ってはいけないのだとメディシスは思った。幸運にも、その悪魔は我らが領主の夫となったようだが。そんな様子を遠巻きに眺めている二人の男がいた。

「はやくクレスト伯爵領騎士団も名乗りを上げにいったほうがいいんではないですか?クレスト様」

マークがそう言えば、ロベルトは静かに言った。

「・・・ああ、もう少ししてから挨拶にいくよ」

彼女が無事で良かったんだと、一人で頷くクレスト伯爵に、マークは肩をぽんぽんと叩いた。マークは、マークでチェルトベリー子爵領の騎士団を後に控えさせていた。

「いや、クレスト伯爵領の騎士団の活躍は凄かったですね」

「ああ、連中も、彼女のことをとても気に入っていてね。それに・・・だ」

ロベルトは、戦の間のことを考えていた。ザビラという難攻不落の要塞をこのスピードで落とせたのは、ガルバーニ公爵の敵の盲点を突くという発想のおかげだったが、全面から猛攻撃を仕掛けたのは、主にマクナム伯爵領の騎士達だった。

「マクナム伯爵領の騎士達が、まさか全面から全力で敵を叩きにいった実力には恐れいったよ」

「前将軍が保有する騎士団ですからね。精鋭中の精鋭と伺ってますよ」

「リチャード・マクナム将軍の娘が捕らわれたと聞いて、奴らも、奮闘したよな」

「ああ、2万の軍勢を出してきましたからね」

「公爵様が、戦の戦力として、マクナム騎士団を読み込んでいたのは驚きだったな。まあ、いずれにせよ、ザビラは陥落した。公爵とマクナムは結婚した。これ以上の終わりかたはないよな」

「クレスト様、後でジュリアに会いにいきましょう」

「ああ、そうだな」

きっと、彼女は友達として心よく受け入れてくれるだろう。恋愛対象ではなくても、友人として関係をつなげていければいいのだから。



ジョルジュ・ガルバーニ公爵がザビラの要塞都市を制圧し、その戦後処理に奔走するためにその場に留まったが、一通りの処理が終わるまでに1ヶ月はかかってしまった。それが落ち着いた頃、ジュリアとジョルジュは再び王都へと戻ってきていた。

そうして、王宮のある一室で、ガルバーニ公爵と女王は一対一で向かい合っていた。女王の謁見室で、どっしりと腰を落ち着ける女王の前で、公爵は丁寧な礼をとった。

「お前がわざわざ我に会いに来るとはの。何事じゃ?」

もうそろそろ日が暮れようとしている。公爵は、先ほど王都に到着したのだと言う。

ザビラを制圧し、国の三分の一以上の貴族達を思い通りに動かした男は、いつものように無表情だが、何かが気に入らなかったらしく、恐ろしく冷たい冷気を放っていた。その冷気を感じ、女王はぴくりと神経質そうに眉を動かした。

そんな女王の顔色などに構うことなく、ガルバーニ公爵は口を開く。

「・・・今日は、女王様にお願いがあって参りました」

「ほう。ザビラを制圧し所有しているほどの男のお願いとは、随分殊勝な言い回しじゃの」

「そうですね。今回のお願いは、いささか陛下のお気に召さないかもしれませんので」

そういうガルバーニ公爵の口調はいつもと変わらず静かで抑揚がない。本当にこの男にも、熱い血が流れているのだろうかと女王はいつも思うのだが。

公爵の言う『自分が気に入らないお願い』とは何なのだろうか。女王は嫌な予感がして、公爵が口を開くのをじっと待った。
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