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第30話 毒に反応しない銀杯
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「言ってみろ!」
玲真が話せと言ったことで、玲真を始め麗華、王、そして周りにいる妃や官、女官が一斉に琳明をみた。
「僭越ながら玲真様、そちらの見事な細工の後宮にあった銀杯ですが、私のメッキの銀杯とは逆のことをされているのではないでしょうか?」
「逆とは?」
玲真はそれだけではまだわかるわけがないだろうと言わんばかりに顔をしかめる。
「ですから、私のものは土台は別の金属で内側だけに銀箔がはってあります。そうした銀杯は銀を使う量が少量なので安く庶民でも背伸びすれば購入できます。逆にもう一つの土台は間違いなく銀で。内側に銀箔のように薄く伸ばした金属を張り付けたのではないでしょうか。そうすれば、銀ではないから毒は検出されないし。外側の見事な装飾はそのまま残せる、装飾のない内側に銀ではない金属の箔を張るだけなら銀ではない素材で歴代の名工が作った品々を復元させるよりもずっと金もかからないし、この銀細工の杯をはじめとした器は、外側の装飾が本当に見事で皆そちらにばかり目が行くので細工もないし、器を使う際は内側に料理や酒が入ってしまうから目が行きにくいのではないでしょうか」
琳明は官の手が緩んだので自らの手で落ちている銀杯を指さす。まずは、琳明の祖父がくれた銀によく似た色の金属に内側だけ銀箔をはった器を。次に話しながらもう一つの見事な細工の後宮の銀杯を指さす。
玲真が口元に手をやるとニヤッと笑った。
「これだけの数の銀食器に細工をしたならば、すぐに足がつくだろうし、上級妃賓もすべてこの場に居合わせ己の身を危険にさらした。どこでそれが行われどのような経緯で後宮に品物が入り、娘が危険にさらされたのか……王からの寵愛をどのように受けるかよりも今回の事件のことでそれぞれの実家もさぞ協力してくれることだろう」
玲真はそう言って笑った。そして、すぐに器をすべて回収するように指示を出す。
玲真の本当の身分を知らぬだろう官が、王がいるというのにこの場を取り仕切る玲真を窘めるが玲真はそれをぶった切る。
「政治とは違う、ここは後宮だ。後宮での王の仕事は子をなすこと。私の仕事は後宮の厄介事を解決することだ引っ込んでいろ」
玲真の指示であっという間に今日の宴の処理がされていくのを琳明は押さえつけられたのからすっかり解放され呆けみていた。
本当に駄目かと思った、すべての罪をなすりつけられるかと思った……腰が抜けた……
そんなへたり込む琳明の頭に手が置かれわしゃわしゃと乱暴になであげられる。
朝から時間をかけて整えた髪が、それで台無しになり。何するのよっと見上げると、ニヤッと得意げに笑う玲真と目があった。
「よくやった下賜姫」
あっ、今言わねばと琳明は口を開いた。
「すべてが終わった暁には約束をお守りくださいませ」
玲真に裏切られたことで琳明は協力しない姿勢をしめしていたが、二人の間にあった約束はなかったことにされてない。ということはまだ有効だ。
「お前は……本当に抜け目と可愛げがない」
玲真はそういって不機嫌そうな顔となるが。見つめる琳明に、ため息を一つつくとハッキリと言い切った。
「了承した。今回の件に免じてお前を下賜姫から外そう」
その後の銀杯がどこで誰によって加工されたのかをめぐり、後宮の厄介事を解決する玲真により大立ち回りがあったそうだが琳明は蚊帳の外におかれた。
麗華が下級妃賓の私の宮に一度だけ訪ねて来てくれたので、なぜあの時数度お茶をしただけの琳明をかばったのかを今しかないと問い詰めた。
「白粉のこと指摘したのがあなただと玲真様から伺いました。陶器も王は私に贈った覚えがないものだから気をつけよと。ちょうど貴方とお茶をしてしばらくのことでした。あなた私の顔を見て少し表情を曇らせたでしょう。その理由をずっと考えていたの。怖がらせてしまったかしら? それとも、王のお越しがないことの怒りを私にぶつけようとしていたのかしらと。それでもあなたは何度か足を私のところに運んだでしょう。不思議だったのよ。私は家柄的に人の表情をみるのに長けているの。それに、私の宮には他の妃は来ていないし、わざわざ玲真様を通して指摘した人が誰か私には貴方しか思いつかなかったから玲真様を問い詰めたの」
あの玲真を問い詰めたとか麗華もなかなかの人物である。
「なるほど」
「なぜ白粉が鉛入りのものだと見抜いたのか、陶器の器を指摘したのかわからなかったのだけど。饅頭売りの娘ではなく、薬師だったのね。顔色が悪いのを白粉でごまかしていたのでも見破られたのかしら。それに下級妃賓であるあなたからもらうお茶を飲むと身体が楽になったわ」
麗華はそういって笑った。麗華は本来庶民の琳明にとってはこんな風に話をできる身分ではない。きっと違う形でもっと近しい身分で出会えればいい友となれたかもしれない。
夏の暑さが少しずつ和らぎ秋が迫り、下賜姫でなくなれば、琳明が後宮で過ごすのもあとわずかとなったころになってようやく玲真が琳明の下を訪れた。
女官はすぐに下がって宮で再び玲真と二人きりとなる。
「すべて終わったのでしょうか?」
「今出せる膿はかなり出した。物資の搬入の業者も入れ替えが一部行われるし、朝廷から消えた高官が何人かいるから後釜が決まるまでは不便になるだろうな。後宮の厄介事は美しい妃達ではなく、王を失脚させたい官を筆頭におこったものだった。……さて、明日からは忙しくなる。この後宮にもまだ明らかにされていないだけで今回消えてもらった官やそれ以外にも別の思惑を持って入れた者の息がかかった人物がいることだろう。この後宮も風通しをよくしなければいけない。私が動き高官にも処分を下したことで、後宮に入れた娘に毒をもったやつがいるという共通の敵がいなくなったからな。次はまた誰が王の寵愛を受けるかの戦いが後宮だけではなく後宮の外で家同士で始まるだろうしな」
「さようでございますか」
玲真が話せと言ったことで、玲真を始め麗華、王、そして周りにいる妃や官、女官が一斉に琳明をみた。
「僭越ながら玲真様、そちらの見事な細工の後宮にあった銀杯ですが、私のメッキの銀杯とは逆のことをされているのではないでしょうか?」
「逆とは?」
玲真はそれだけではまだわかるわけがないだろうと言わんばかりに顔をしかめる。
「ですから、私のものは土台は別の金属で内側だけに銀箔がはってあります。そうした銀杯は銀を使う量が少量なので安く庶民でも背伸びすれば購入できます。逆にもう一つの土台は間違いなく銀で。内側に銀箔のように薄く伸ばした金属を張り付けたのではないでしょうか。そうすれば、銀ではないから毒は検出されないし。外側の見事な装飾はそのまま残せる、装飾のない内側に銀ではない金属の箔を張るだけなら銀ではない素材で歴代の名工が作った品々を復元させるよりもずっと金もかからないし、この銀細工の杯をはじめとした器は、外側の装飾が本当に見事で皆そちらにばかり目が行くので細工もないし、器を使う際は内側に料理や酒が入ってしまうから目が行きにくいのではないでしょうか」
琳明は官の手が緩んだので自らの手で落ちている銀杯を指さす。まずは、琳明の祖父がくれた銀によく似た色の金属に内側だけ銀箔をはった器を。次に話しながらもう一つの見事な細工の後宮の銀杯を指さす。
玲真が口元に手をやるとニヤッと笑った。
「これだけの数の銀食器に細工をしたならば、すぐに足がつくだろうし、上級妃賓もすべてこの場に居合わせ己の身を危険にさらした。どこでそれが行われどのような経緯で後宮に品物が入り、娘が危険にさらされたのか……王からの寵愛をどのように受けるかよりも今回の事件のことでそれぞれの実家もさぞ協力してくれることだろう」
玲真はそう言って笑った。そして、すぐに器をすべて回収するように指示を出す。
玲真の本当の身分を知らぬだろう官が、王がいるというのにこの場を取り仕切る玲真を窘めるが玲真はそれをぶった切る。
「政治とは違う、ここは後宮だ。後宮での王の仕事は子をなすこと。私の仕事は後宮の厄介事を解決することだ引っ込んでいろ」
玲真の指示であっという間に今日の宴の処理がされていくのを琳明は押さえつけられたのからすっかり解放され呆けみていた。
本当に駄目かと思った、すべての罪をなすりつけられるかと思った……腰が抜けた……
そんなへたり込む琳明の頭に手が置かれわしゃわしゃと乱暴になであげられる。
朝から時間をかけて整えた髪が、それで台無しになり。何するのよっと見上げると、ニヤッと得意げに笑う玲真と目があった。
「よくやった下賜姫」
あっ、今言わねばと琳明は口を開いた。
「すべてが終わった暁には約束をお守りくださいませ」
玲真に裏切られたことで琳明は協力しない姿勢をしめしていたが、二人の間にあった約束はなかったことにされてない。ということはまだ有効だ。
「お前は……本当に抜け目と可愛げがない」
玲真はそういって不機嫌そうな顔となるが。見つめる琳明に、ため息を一つつくとハッキリと言い切った。
「了承した。今回の件に免じてお前を下賜姫から外そう」
その後の銀杯がどこで誰によって加工されたのかをめぐり、後宮の厄介事を解決する玲真により大立ち回りがあったそうだが琳明は蚊帳の外におかれた。
麗華が下級妃賓の私の宮に一度だけ訪ねて来てくれたので、なぜあの時数度お茶をしただけの琳明をかばったのかを今しかないと問い詰めた。
「白粉のこと指摘したのがあなただと玲真様から伺いました。陶器も王は私に贈った覚えがないものだから気をつけよと。ちょうど貴方とお茶をしてしばらくのことでした。あなた私の顔を見て少し表情を曇らせたでしょう。その理由をずっと考えていたの。怖がらせてしまったかしら? それとも、王のお越しがないことの怒りを私にぶつけようとしていたのかしらと。それでもあなたは何度か足を私のところに運んだでしょう。不思議だったのよ。私は家柄的に人の表情をみるのに長けているの。それに、私の宮には他の妃は来ていないし、わざわざ玲真様を通して指摘した人が誰か私には貴方しか思いつかなかったから玲真様を問い詰めたの」
あの玲真を問い詰めたとか麗華もなかなかの人物である。
「なるほど」
「なぜ白粉が鉛入りのものだと見抜いたのか、陶器の器を指摘したのかわからなかったのだけど。饅頭売りの娘ではなく、薬師だったのね。顔色が悪いのを白粉でごまかしていたのでも見破られたのかしら。それに下級妃賓であるあなたからもらうお茶を飲むと身体が楽になったわ」
麗華はそういって笑った。麗華は本来庶民の琳明にとってはこんな風に話をできる身分ではない。きっと違う形でもっと近しい身分で出会えればいい友となれたかもしれない。
夏の暑さが少しずつ和らぎ秋が迫り、下賜姫でなくなれば、琳明が後宮で過ごすのもあとわずかとなったころになってようやく玲真が琳明の下を訪れた。
女官はすぐに下がって宮で再び玲真と二人きりとなる。
「すべて終わったのでしょうか?」
「今出せる膿はかなり出した。物資の搬入の業者も入れ替えが一部行われるし、朝廷から消えた高官が何人かいるから後釜が決まるまでは不便になるだろうな。後宮の厄介事は美しい妃達ではなく、王を失脚させたい官を筆頭におこったものだった。……さて、明日からは忙しくなる。この後宮にもまだ明らかにされていないだけで今回消えてもらった官やそれ以外にも別の思惑を持って入れた者の息がかかった人物がいることだろう。この後宮も風通しをよくしなければいけない。私が動き高官にも処分を下したことで、後宮に入れた娘に毒をもったやつがいるという共通の敵がいなくなったからな。次はまた誰が王の寵愛を受けるかの戦いが後宮だけではなく後宮の外で家同士で始まるだろうしな」
「さようでございますか」
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