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11話 うまくいかない?そりゃあ発音の問題だな

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いやあ、今日も疲れたなあ。
とりあえず組織からのお咎めなしで良かったわ。
さてと、部屋でごろごろしよーっと。

「ブレイキングエッグス!ブレイキングエッグス!」

ん?アリサのやつ何やってるんだ?

「おお、アレス君か。今日は色々とお疲れ様。」

「ん?ああ、ありがとう。ところでセリス、アリサはさっきから何をしているんだ?」

「さあ、私にもわからない。『新しい魔法を覚える。』と言ってからずっと、卵を手に持ちながらあの言葉を言い続けているんだ。」

「ふむ、なるほどなあ。少し話してくる。」

「ああ、頼んだ。」

セリスは安心したかのように破顔一笑し、その場を去る。
俺はアリサの方へ向かう。

「おいアリサ、そんなんじゃあ自動で卵は割れないぞ?」

「ブレイキングエッ....え!?アレス!?なっ何か用?」

「お前、卵を自動で割る魔法の練習をしていたんだろ?」

「ちっ、違うわよ!」

「自分の不得意なことに真剣に向き合い、習得しようとする。それは素晴らしいことだと俺は思う。お前も今、自分の苦手な料理に向き合っていたんじゃないのか?」

「.........。ねえアレス、今少し時間ある?」

「別に構わないが。」

「実はあんたからもらった料理魔法の本を見ていてね、私だけ料理ができないのはどうなんだろうって思って。」

なるほど、こいつもこいつなりに悩んでいたのか。

「誰しも完璧ではない。俺だって、できないこともあれば、ミスをすることもある。」

「あんたにもできないことがあるの?」

「もちろんだ。小さいことから大きいことまで、数えきれないほどあるぞ。そうだなあ、1つ例として出すなら子どもの相手をすることだな。」

「ふふっ、何よそれ。でも、でもね、これだけは....料理だけはできるようになりたいの。」

「どうしてだ?」

「あんたには絶対に教えない。」

教えてくれないんかい。
でもまあ、努力してる奴が目の前にいるのに手を差し伸べないなんてことは俺にはできない。

「発音。」

「何よ、急に。」

「卵、自動で割れるようになりたいんだろ?発音が違うと言っているんだ。」

「発音?」

「ああ、お前が言ってるのは『ブレイキングエッグス』、だが正確には違う。正しくはこうだ『ブレィキンエックス』。」

「まさかそんな....本当だ、よく見ると本にも、『発音に注意』って書いてある....。」

「卵を割ることをイメージしながら、正しい発音で詠唱してみろ。そうすればきっとうまくいくはずだ。」

「分かった、やってみる。ふぅー、『ブレィキンエックス!』」

パカッ

卵は綺麗に割れた。
やればできるじゃないか。

「アレス見た!?あたし、卵を割れたわ!」

「ああ、ちゃんと見ていたさ。見事だな。もともとお前は魔法のセンスがある。その気になればほかの料理魔法もマスターできるはずだ。」

うん、母さんと同じ、いやそれ以上に綺麗に割れているかもしれないな。

「ありがとう....。あたし一人じゃきっとできなかったわ。」

「何だよ急に、お礼を言うなんてお前らしくない。」

「うっ、うるさいわね、言っておくけど!お礼を言うことなんてこれで最初で最後なんだから!」

なんか前にもお礼言われたことあった気がするけど....。
ま、いっか。

「わかった、わかった。だがまだお前はこの魔法をマスターしていない。最低でも5個同時には割れるようにならんとな。」

「コツさえつかんじゃえば簡単よ!あんたはそこで見てなさい。」

こうして俺達は日が沈むまで卵を割り続けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「『ブレィキンエックス!』、はあ、はあ....。」

流石に魔力が枯渇してきたか。
だがしかし....

「見事だな。15個の卵を同時に割るとは。俺の母さんですら10個が限界だったのに。もう教えることはない、免許皆伝だ。」

「あんた....自分は使えないくせに。でもよかったわ、これで....。」

「ん?何だ?」

「何でもない!」

やれやれ、こいつは何を考えているのかわからん。
だが今回のことで、こいつにも自信がついたはずだ。
しっかしこの卵たちどうしたものかなあ。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「今日はやけに卵料理が多いな、なあアレス君。」

「そうですね、卵尽くしですね、ねえアレスさん。」

なんで俺の名前が出てくるのかねえ。
この中に俺が割った卵1つもねえぞ。

「ちょっと卵を余らせていてな。やむ負えず卵三昧になったというわけだ。」

「まあ、アレス君が言うならそういうことにしておこうか。」

「ええ、アレスさんがいうならそうなのでしょう。」

なんか釈然としないけど、まあいいか。
どれどれ、俺もなんか食うか。
おっ、このスクランブルエッグ美味そうだな。
モグモグ、ふむ、なかなかいい味だ。

ん?どうしたアリサ、そんなにこっちをじっと見て。
お前の分ならまだあるぞ?

「それ、あたしが作ったの。」

「へえぇ、お前がねえ....。え?マジ?」

「ええ、マジよ。それで、その、味はどう?」

「美味いぞ。いい味だ。」

うん、少し焼きすぎているとは思うが、味は美味しい。

「良かった...。」

「んん?何て?」

「何でもないわよ!バカ!」

ふぅ、今日はずっと変な感じだったからな。
いつも通りみたいでよかったよ。

『ごちそうさまでした。』

夕飯を食べ終えて部屋に戻ろうとしたら、声をかけられた。

「アレス君、アリサの事、ありがとう。」

「何か悩んでいたみたいだったのですが、わたくしたちには原因がわからなくて。」

「気にしなくていい。大したことはしていない。」

現に俺は最後の方ただ卵が割れていくのを見ていただけだしな。

「ところで、私に悩みがあっても同じようにしてくれたのかな?」

「そうですね、わたくしも気になります。」

「そりゃあ、同じパーティーの仲間だしな。当然そうするさ。」

まあいろいろ思うところはあるが、一応仲間だと思ってるしな。

「そうか、よかった。では私はこれで失礼するよ。」

「ふふっ、安心しました。わたくしもお先にお風呂頂いてきますね。」

何だったんだあいつら。
さてと、俺は一旦部屋に戻るか。

部屋に向かおうとすると、今度はアリサに声をかけられた。

「ねえ、アレス。」

「何だ?」

「もしまた何か悩むようなことがあったら、相談してもいい?」

「当たり前だ。なんたって同じパーティーの仲間だしな。悩みのせいで本調子がでないなんて言われたら困るしな。」

「そう、ありがとね。」

あれえ?お礼言うの最初で最後って言ってなかった?
いやまあ、実質何回目かは知らんけど。

「そういえば、なんで料理ができるようになることにあんなにこだわってたんだ?」

俺はずっと気になっていた事を聞いた。

「ひーみーつ。でも、相談に乗ってくれたのがあんたで良かったわ。」

結局秘密なんかーい。

でも、その時アリサが見せた笑顔を見て、俺は理由なんてどうでもよく思えた。
一人の女の子のこんなにも可愛らしい笑顔を見れたのだから。







アリサ『あんたに私の料理を食べて欲しくて、なんて言えるわけないじゃない.....。』




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