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11. 「下町で食べるようなものをお出しできるはずがありません」

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 王様たちは、バル殿下と親交を深めて欲しいらしく、「食事はぜひ二人で」などと言っていたのだが、食事の席に行くと、バル殿下は政務が忙しくて一緒に食べられなくて申し訳ないとおっしゃっていましたなどと言われ、俺は一人で食べることになった。
 まあ、一人で食べる方が気楽でいいかも知れないと思ったが、広い部屋で広いテーブルでぽつんと食事をするのが思った以上に味気ないことがわかった。
 見栄え良く盛り付けられたおしゃれな料理は、「映え」で、会社の同僚がいたらまず写真を撮るだろうなと思った。飲み会でも「ちょっと待って下さい!」と箸を伸ばしたところを何度も止められた。アツアツを食べたかったのに、角度がどうの、食べ物だけの写真、自分も写った写真、って延々終わらない撮影会に閉口したものだった。
 結局すべての料理を食べ終わったが、テールスープは出てこなかった。俺は、バル殿下が頼んでくれたと思っていたから、結構期待していた。

「あの、グリフォンのテールスープとか……出ないんですか?」

 俺は給仕をしてくれていた人に、勇気を出して話しかけた。

「は、グリフォンのテールスープですか? そんな下町で食べるようなものをお出しできるはずがありません」

 給仕の人が、きっぱりと言った言葉に、俺は驚いた。まさかそんなことを言われるとは思わなかった。庶民の食べ物だから、こういうところでは出てこないのか。
 じゃあ、バル殿下は、どうしてグリフォンのテールスープが好きなんだ。



「結局グリフォンのテールスープは飲めなかったなー」

 俺は部屋に戻ると、誰もいないのをいいことに、バフッとベッドに倒れ込んだ。
 ちょっと沈みすぎて怖いくらいだが、ふかふかのベッドは手触りも気持ちがいい。
 食事は美味しかったけど、根っから俺は庶民だった。
 バル殿下でもいいから一緒に食事できればよかった。バル殿下なら、会社の同僚みたいに映え写真撮らないだろうし、それどころかせっかちそうだななんて考えながら、俺はベッドの触り心地を楽しみながら、ベッドに埋もれていた。
 そうしてしばらくダラダラしていた時、窓からコツ、コツ、と音がした。
 俺は目を開けて、鳥かななんて思って窓の方を見てギョッとした。可愛い小鳥なんてもんじゃなかった。

「グリフォン……」

 俺は慌てて窓の方に駆け寄った。窓の方に寄る前に廊下側の扉に鍵をかけた。誰かが急に入ってきたら困る。
 窓を開ける。窓と言っても馬鹿でかくて、窓を開けるとちょっとしたテラスみたいになっていた。俺は窓の外を眺めるなんてことをしなかったので気づかなかった。

「グリフォン!」

 俺はグリフォンの首に飛びついた。
 グリフォンは、くわえていた包みをそっと俺の手に渡した。

『グリフォンを使いにするとは全く人間は偉くなったものだな』

「これ何?」

『お前のバルドゥールから預かってきた。テールスープだそうだ。全く、グリフォンにグリフォンを調理したものを運ばせるとはな!』

「まだあったかいじゃん。これを持たせてくれた人は、来られなかったの?」

『バルドゥールはお前を助けるために忙しい』

 俺は、グリフォンがさらっと言った言葉に、ドキッとした。
 忙しいって普通に仕事が忙しかっただけじゃなくて、俺を助けてくれるために忙しかったのか。

『ではな』

 グリフォンはすぐにきびすを返した。

「え? もう行っちゃうのか?」

『王宮の守りはかたいのでな。見つかる前に去るとする』

 グリフォンでもいいから近くにいて欲しいと思うくらい俺は寂しかったらしい。

『呼べばいつでも来るゆえ』

 グリフォンはサッと羽ばたいて行ってしまった。
 俺はまだ温かいスープをそっと抱え直して、窓を閉じた。
 ベッドサイドの棚に包みを置き、そっとグリフォンのテールスープを出した。湯気を浴びた時、俺は涙が出そうだった。
 一緒に入っていた小さなスプーンでスープをすくって飲むと、来たばかりの頃に飲んだ味と一緒だった。バルさんのスープの味。
 やっぱり、バル殿下がバルさんなのかな。城の中では俺と知り合いだったって雰囲気を出したら駄目だからあんな態度なのかな。
 俺はそういうことを考えながら完食した。
 いつの間にか、テールスープは俺の中では味噌汁より上位にランクインしていた。すぐまた飲みたくなる。
 グリフォンには申し訳ないけど。

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