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しおりを挟む人族大陸《ミュステン》を代表する大国であるシュンパティ国の第一王女アリシアは、大神に選定された神子である。
古来より勇者を支える存在として同時期に生まれる神子は、勇者の魂を感じ取り、その居場所と力を察知出来るそうだ。
魔王の方にはそうした役職の者はいないのでよく分からないが、魂の結びつきとも言える縁が二人の間には生じるらしい。
アリシアにとってヨゼフは魂の片割れであり、ヨゼフにとってもまたそうだ。故に、二人は惹かれ合い、愛し合う。
いずれ力を失う勇者をそれでも伴侶に選び王族に迎え入れるのは、その魂の結びつきが確固たる信頼となるからでもある。
まあ、つまり、何が言いたいかっていうと、アリシア殿下にとってヨゼフは下手をすれば自分よりも大事な、守るべき存在だってこと。
「――――どうしました、猫さん? 寛いでくださって結構ですよ」
そして、その守るべき存在に害を及ぼすかも知れない存在を見逃す筈がないってことだ。
にっこりと、聖母の如き微笑みを浮かべるアリシア殿下は、その優しげな瞳に薄らと冷えた光を宿して俺を見下ろしている。伏せた俺の背を撫でる手つきは柔らかいものだが、決して逃がす気は無いというのがその掌から伝わってきた。
いや、流石に、俺が『元魔王』だってことはバレてはいないと思うが、明らかにただの猫だとは思われていない。そりゃそうか、既に戦闘は終わったとは言え戦地に割り込み魔族に触れるような猫が目に留まらないはずがないもんな。
どう考えたって迂闊だったが、それでもあの場で死を望む彼女達を放っておけたかと聞かれれば、答えは否だ。
俺が居たことに意味があるかは分からないが、やはり人族の者が魔族を後押しする言葉をかけるには多少なりともきっかけ――というか言い訳が必要で、俺はその言い訳くらいにはなれたんじゃないかと思っている。
「少し前に、ヨゼフ様が夢を見たそうなのですよ」
『……んゃ?』
「どんな夢だったかは忘れてしまったと仰っていて、それは確かに真実なのだろうと感じました。不思議なことに、その夢を見たという日から、ヨゼフ様は魔族大陸《ローカストス》に思いを馳せることが増えたように思います」
『…………』
アリシア殿下は天使のようだと賛美される微笑みを湛えたまま、じっと俺を見下ろしている。
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