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第543話 領地の商売5
しおりを挟む我のお父さんの資金の心配など吹き飛ばすように、お父さんの仕入れが過激になった
今まではダンボールという紙の箱やビニールという透明の布地に包まれて1つ一抱えという大きさであったのが、今度は人が何十人もはいれそうな大きさの鉄の箱で纏めてもってくるようになった
ゴガンっ!!!
「何事だっ!?」
「お父様のいた場所からだ!!」
お父さんが作業していた場所から大きな音がした
金属の塊が大きくへしゃげていた、ところどころ錆びついていて、全体が規則正しく凹んでいる
何に使うかもわからない巨大な塊がお父さんの目の前にあった
「ごめんごめん、ちょっと失敗した」
「それは?」
「コンテナっていう物を入れて運ぶ箱だよ、出すの失敗しちゃった」
普通の収納はこんなに巨大なものは入らない、元の袋や、作られた際の力で容量が決まる
袋の中に手を入れて、普通に取り出すことができるのが収納袋だ
だけどお父さんはそういう加護を授かっているからか制限が殆どない
入れる時は触れるだけでいいが出す時は探す必要もなく出せる、必要なのは取り出すものの何処か一部を手で触れている必要があるそうだ
だから出す時にコンテナの一部をつかんで出したのだろうけど、手の跡がくっきり残っているが大きさと重さに耐えられなかったのか更に正確に真っ直ぐな底が地面の凹凸に対応できなかったのか、それとも出す勢いが悪かったのか・・・コンテナの真ん中で折れ曲がっている
中身は大量の食品で、割れている瓶もあった、すごい酒臭い
「なんじゃなんじゃ」
「酒か?ここから酒の臭いがするぞい」
「売ってくれ!!」
何処から嗅ぎつけたのか、普段外に出てこないドワーフ連中が押し寄せてきた
お父さんは黒葉お母さんのおすすめで茶色い酒と白の酒を大量に持ってきてくれていた
ペットボトルという透明な素材だ
酒を入れると言えば樽だろうと思ったが向こうでも酒を作る時に樽が使われることはあるが、運搬で割れやすいから売られるときはこういうものに詰められることが主流らしい
それでもいくつか割れているということはそれなりの衝撃だったのだろう
あまりに強い酒精の香りに、酒は全滅したんじゃないかと・・・仕入れの大損を嘆きながら片付けた
・・・・・こういうことはよくある
荷馬車が獣に襲われて積み荷がまるごとダメになる
貴族に店ごと破壊される
従業員が不満から金を奪って火をつけていく
商品が、商売が何らかの理由で一気に無くなることはよくある話だ
被害はどれほどのものかとヒヤヒヤしたがなんと壊れた酒は2割にも満たなかった
ドワーフ共は外で割れていても容器に残った酒を集めて濾して樽に詰めている
普段外に出ずに呼びかけにも応じないのにこんなときだけ機敏に働くとは
容器も割れてはいないが白い線が入っているものは多いもののまだ売れそうだ
一つ一つが子供一抱えはあるペットボトル入り、ヨンリットルのショーチュー酒とウイスキー酒
どれも驚くほど酒精が強く、臭みやエグミがない素晴らしい酒
この容器も飲み終われば水を貯めるのにも使える
多分ガラスや樽だったら全滅だっただろうな
「これだけ高級な酒、1財産でしょうに・・・」
「え?まだあるけど?」
ざわり
コンテナの外のその一言で空気が変わった、ドワーフ共の視線を感じる
酒に対する情熱は皆様々だが、ドワーフのそれは常軌を逸している
友人であるのに一杯の酒の注文を取り間違えただけで殺し合いに発展することもあれば酒の熟成のためだけにダンジョンの中に酒を作る施設を作ったのだとか・・酒に関してドワーフは妥協しない
ヴァンさんはどう見ても大柄でヒゲがなければきっとドワーフには見えないだろうがドワーフの国の元将軍でミーキュ・ビエールもその国の出身で引き連れていた民ももちろん殆どがドワーフであった
各地に分散しているもののここにもドワーフは多くいる
いつの間にかドワーフがこのコンテナを取り囲んで、こちらを凝視していた
「ち、父上、今なんと?」
「え?お酒ならまだあるよって、日本だとお酒は珍しくないんだよ」
「「「なん・・だと・・・・・!」」」
ドワーフ達が暴れ出さなかったのは幸いだが「でも出すの難しいね」そうお父さんがつぶやくとドワーフの頭であるヴァンさんとビエールとカルカス、それと部族の長をしていた顔役が円座になって話し始め、お父さんも連れて行かれた
「父上、そのコンテナという箱を出すのに壊さず降ろすのには何が必要でしょうか?」
「そうだね、元はかっちり四角いから平坦な地面とクレーンかな」
「地面、地面・・・ミーキュ」
「できる、です!」
「それでクレーンとはどのようなものでしょうか?」
「あのコンテナを上から吊るす機械」
この超重量を持ち上げる?
お父さんでも持てなかったこれを吊るし上げる・・・??
「荷降ろしの道具じゃろうか?」
「吊り下げ道具のことじゃないかね?」
「しかし、あの金属の箱を、酒があれだけ詰まった状態で吊り下げられるのか?」
「無理じゃ!」
「どのような形なんじゃ!」
「こんな感じで・・・」
お父さんは地面に絵を描き始め、それを真剣な形相で眺めるドワーフ共・・・こっち来て数えるの手伝え
「それとこの箱は荷物を置く保管場所とか、人が住むことのできる家にもできるみたいだよ」
「確かに、頑丈そうですな」
一つ一つきれいな容器と容器の痛んだ数を数えながら話を聞く
この箱で新たに人が住む場所を確保できるだと
たしかに今は酒臭くてへしゃげているし酒臭いが大きな金属の入口もあって、広い
扉は頑丈そうな錠前のようなものがついている
まともな状態で並べれば家に使えるだろう・・でもまって、これを幾つも?お高いでしょう?なんせ金属の塊ですし・・・・・
あとでこれもそこまで高くないと言われて驚愕した
お父さんがものすごく稼いでいるのか、それとも異世界の生産力が化け物なのか・・・
というか疑問があった
レアナー教を知らない世界に、一人と一神が行ったところでそんなにいきなり儲けを出すことができるのか?
都合よく金持ちを知っていて、金持ちが来続けるなんてあり得ない
もしかしてお父さんは元々裕福な家の令息だったんじゃないか?
いや、それよりも加護持ちは国に重宝されるからニホン世界のお父さんの国元がさぞ支援してくれているのだろうか?・・いや、レアナー教は嫌われていて戦争状態だったな、ニホン世界許すまじ
後で聞くと小さな板の魔導具『スマートフォーン』があれば一瞬で全世界の人と通じ合えて、さらに魔物も居ないし戦いもないから星の反対側からでも一日あれば来ることのできる『ヒコーキ』があるそうだ
だから向こうの治療技術ではどうにも出来ない患者が星の裏側からでも毎日大量に来るそうだ
確かに高位神官でも腕の一本生やすのは大変なはずだけど、お父さんは何十本でもニョキニョキ生やす
その『スマートフォーン』があれば全世界の人相手に商品の広告を出せて『ヒコーキ』があればどんな場所からでも客を呼べるのかとも思ったが使うのに条件がいるのだとか・・その上、広告できたとしてもこちらには空を飛ぶ魔物がいる限り『ヒコーキ』は使えない
それに大きく空を飛ぶなどその下の国が許さないだろう、普通に攻撃するはずだ
平和だからこそできる手段なのか?
・・・・全く想像がつかない世界だ
売るためにも痛んだ容器のものを少し飲んでみる、そもそも樽に移し替えてはいるが衝撃でゴミが入って全部飲めなければ集める意味もないのだ
酒精は強く、嫌な酸味も雑味もくどさもない酒には味に深みと何処か品格があって一口で舐めただけで売れると確信する
―――――・・ただやはり、この酒の味とこれだけ売れる量を見るに良い世界なんだろうな
「ムッスロンが酒を飲んだぞ!!?」
「畜生が!取り決めを守れ!」
「縛れ!縛って裁判にかけろ!!酒どろぼうに死の制裁を!!!」
「―――ちょっ!?おま??!!!」
我上司なのに、そもそもそんな取り決めドワーフが勝手に決めるんじゃない?!!
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