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第510話 優雅な朝は来ず、新聞に儂の名前が載っていた

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魔王が勇者によって倒されたと言う記事がデカデカと載っていたのがもう懐かしい

今はザウスキアの糞どもとの戦況が届けられる


世界を一つ革新した『シンブンシ』の魔道具


私のお気に入りの魔道具だ

聖下の配下である元難民たちと極炎のロムによって生まれた板状の魔道具、毎日大きな壁ほどの板に世界の情報が映し出される

聖下の世界では大人はこれを朝に読むのは当たり前であるそうで、初めは意味のあるものなのか?なにかの罠なんじゃないかと訝しんだものだ


何故か「気に入らなければ止めてもいいから」と洗剤と一緒に押し付けられて本当に意味がわからなかった


普及させるためだろうが・・・今となっては素晴らしいの一言である


シンブンシの内容は様々で「国によって便利なスライムの活用方法」や「危険な魔物の対処方法」「国によって食べられる食材の情報」・・・様々だ

世界は瘴気に包まれ、それまで簡単に実っていた果物も生らず、食料が不足している

雑草や木の根、毒抜きさえすれば食える食材があるし、捨てていたゴミが実は滋養があって美味い高級食材であるなど、普通秘匿するであろうものですら載せていただけている

そんな情報、国力にもつながるだろうし普通は他国になど伝えるものではない

いや、だからこそそんな情報を自分で集めて、ひろめている聖下は尊く、素晴らしい


このシンブンシたった壁一枚の情報で一体どれだけの民の命が救われたことか

ザウスキアに逃げ込んだ魔王幹部の情報などは日が経ってから載せられていたがそういう情報が後から載るのは仕方がない、魔王幹部もどこかでこれを見ているかもしれんしの

惜しいのはこの魔道具を作れるのは聖下の研究所のエルフだけであり、魔道具の作り方は秘匿されていることと・・・そして維持費がそれなりにすることだ

魔道具であるからして定期的な手入れが必要である、もちろん金がかかる

高名な魔術師や魔道士、魔導具師が調べているだろうに何処の国も真似すらできん


毎日更新される情報は多岐にわたるが面白いことに莫大な金を払えば自国の情報を他国に宣伝することも出来る

他国の特産品が載っていた時は思わず食べたくなってしまった

この魔道具を「無くても良いじゃないか」とも家臣には言われたが他国も知ってる情報を、我が国だけ知らぬなど許される訳がない

情報が更新される魔道具というのは真新しいし頭の固い家臣共には理解出来んかもしれん

毎日情報は更新されるが、有益な情報も多いため達筆なものに文章を書き残させている

我が国であればレアナー教国とも近く、言語は同じだからまだ分かりやすいが国によっては翻訳も必要だし・・・大変だろうなぁ


情報は争いにおいて自国にのみ有利なものを載せることは出来なかったり、同じ人が一部を独占し続けることは出来ないなどの決まりもある、どこぞの貴族がこぞって自慢の詩を載せていたりするのも面白い

そうでなければ金に物を言わせて大国や大富豪がこの魔道具を独占していたことだろう


シンブンシの角には4枚ほど絵画が載せられる、文字ばかり一面を眺めるのに疲れた目を休めることの出来る密かな朝の楽しみだ

手のひらほどの大きさの絵が四枚、壁一面の情報の中に、絵と小さく画家の名前が入る

流石に画家の絵は文字と違って完全に描き写すことは出来ないが、おそらく聖下は文化の保護も大切にしているのだろう

聖下の奥様の婚姻姿・・・どこかの獣人族の婚姻衣装など初めて見たものだが驚いてしまったな

「薄着の裸婦画」や「戦場の嗜み」などという男同士の絡みなど、文字ばかりのシンブンシにエロ・・じゃない面白みが追加されて、大変に良い

婦人方にも大変人気で王城にも設置している

大貴族や商人がこの魔道具を持つことは一種の地位があるものとして認められている


さて、そろそろ今日もそろそろシンブンシの時間だ


「フリーブル陛下」

「うむ」


家臣共の中にも楽しみにしているものもいる、わかっているのぉ

今度我が国からの特産品の情報を載せてみたり、画家を派遣しても良いかもしれない





「「「「――――・・・・・は?」」」」





そこには思いもしない情報が書かれていた

-シムネア国にて聖下の領地にて聖下の子供を売り飛ばす発言をした貴族がいた-
-ベーデスト上級伯爵の跡継ぎによる犯行、レジブ・ラーメルト・ヴェデルナ・ピス・ベーデストが聖下の目の前で聖下の子を杖刑す!!!!!-
-護衛の金級冒険者「サザン・アッマーノ」聖下によって一蹴-
-シムネア国ベーデスト上級伯爵はシムネア王家から四代前に王家との婚姻があり、王家との関係は良好、主犯は王家か!?フリーブル現王の動向に今後注視される!!!-
 
-レアナー教は断固としてこれを拒否、戦争も辞さないと問答騎士ガレティレを派遣-
-シムネア国、魔王討伐の旅に出ている聖下に対して年一回の貴族年金を毎年本人が受け取りに来ていないからと支払った記録なし-
-勇者元杉の魔王討伐の際、魔族による侵攻を撃退、功績に対して各国が爵位や領地を与えたがシムネアは処刑として使われていた忌み地を捨て渡す-
-シムネアから聖下への扱いがとても低く、これを命じた王は邪教徒である可能性があると専門家の意見-

-領地はシーサーペント・クラーケン・ゲーガの出る恐ろしい魔境-
-シムネアの王こそ魔王の息の掛かったものかもしれない-
-領地は聖下の威光により廃村から発展、しかし周りの領地は勇者の領地からの領民の移動を禁止、関税の引き上げを実施-

-セッサリーノ国及びゼガディデ国は由々しき事態とシムネア国境に軍を派遣-
-この領地でとれる海龍の素材を買い付けに来たリッカーブル伯爵家のバーブル卿は一部始終を目撃-
-ベーデスト伯爵にはなにかの間違いではないかと記者を派遣、訪問したところ門前払いを受ける、話す気もないようだ-



聖下の配下が作るシンブンシであるからこそ、情報が集まらなかった場合には聖下の領地の特産品や異世界での風習、異世界の食べ物、聖下の異形や旅の記録なんかが載る



-聖下、シムネアに降臨、雷竜王ミルミミスと共にクラーケン及びに海龍を殲滅-
-亡国ドウァーグンの将軍、関羽・ヴァン・元杉が領地に到着-
-シムネアの王都にて記者、取材拒否される-
-ザウスキアにて勇者の旅の仲間、三賢英雄「ぶん殴る」「七十二に分割します」「噛み殺す」と声明を発表-
-シムネアの王はこの世界情勢に一体何を考えているのか?-


ははは、大ニュースである

記者がうちに来るなど考えたこともなかったし、シンブンシの存在はそこまで広がっていない

当然一般の兵士には「記者」という存在自体知られていないだろうから門前払いも仕方ないだろう

我が国の密偵からそんな話は聞いていない


「どういうことだァっっ!!???」


儂と同じくシンブンシを楽しみに集まっていただけの大臣からその言葉が発されたのを皮切りに次々と固まっていた臣下が慌て始めた


「さっさと伯を呼び出せ!どういうつもりだ!!?国を滅ぼす気か!!!」
「我が領地は聖下につくからな!!戦場でお会いしよう!!!」
「巫山戯るな!!聖下のおかげで我が妻は命を救われたのだぞ?!なんて非道を行うのか!!」
「北方貴族共は聖下になんてことを、まさか魔族が化けているんじゃないだろうな!!!」
「近衛兵!!陛下を守れ!!!」
「取り押さえろぉっ!!!」
「陛下!!この事態をどうなさるつもりか!!!??」
「民は聖下の治癒魔法で救われたものも多くいます!ここで下手な対応をすれば暴動が起きましょうぞ!!」
「国民にはシンブンシの魔導具を持つものもいます!このままでは・・・!?」


剣を抜くものもいる

シンブンシは多くの貴族で閲覧を楽しみにしているが、まさかこんなことになるなんて・・・

ゲーガの鳴き声のように騒がしくなった謁見の間



バァーーン!!!!



けたたましい音を立てて門が開かれた

門を任せているインバス子爵だ

全力で走ってきたのだろう、顔色が悪い


「へ、陛下・・・」

「今度は何だ!!?」









「―――――――聖下が、御来訪されています・・・・・!!」





今日は儂が死ぬ日かもしれん
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