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第495話 Chaotic Day in Washington

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『レアナー教がアメリカに来ている』

また、そんないつものニュースが流れてきた


どうせ、嘘


そんな団体がアメリカに居たとしても偽物だ、今までだってそうだった

世界中で宗教ビジネス、いや宗教詐欺が横行している

病気を治すのには多額の金銭が必要、治れば宗教のおかげ、治らなければ寄附と信仰心が足りないなどと金を巻き上げて効果の有無の分からない治療をする

だってそういう団体で成功している団体が居るのだから

そういう団体はいつの間にか増えては消え、そしてまた別の形でいつの間にか生まれる

騙すものは生まれ続けるがそれは騙されてもその可能性に賭けるものがいるからだ

怪我や病気をした人々が一縷の望みをかける


だからいつものような嘘であるはず――――・・だったのだが様子がおかしい


アメリカの中でもレアナー教に肯定的な政府高官や軍人、有名なCEOや実業家が、音楽家が、選手が・・・とにかくこの日、全ての予定をキャンセルしている

SNSの情報でも荒れに荒れている

大きな講演会があっても、特別なパーティでも、ライブ演奏でも、試合でもキャンセルを表明し、居なくなってしまった

そして、注目の大統領の予定も・・・大統領がスピーチするのがメインのイベントであるのに・・・・・これは、いつもとは違う


『レアナー教がアメリカに来ている』いつもの怪しげなニュース


レアナー教のホームページにはそんなニュースは存在しない

マジカルボーイと呼ばれる洋介が世界中いきなり現れることは有るが、本人の目撃例よりも偽物やいつものようなフェイクニュースのほうが圧倒的に多い

しかしホワイトハウスの前に突如として現れた少年が居たという動画がネットに上がったことで更に混乱は加速した

彼は神官のような装いをし、杖を持っていた

それだけならよくいるただのコスプレイヤーだ

しかし、ホワイトハウスの入り口に行き、もちろん止められ、そして、出迎えられて入っていった

ホワイトハウスへの見学はスクールの学生にもよくあるが・・・これは別だろう

外からその一部始終を撮っていたワシントンの歴史観光していた青年の動画は瞬く間に拡散した


すぐに飛行機のチケットをとるものが殺到し、動画から半日経った深夜の時点で周辺の道路は渋滞となった

同時に治安が急激に悪化

レアナー教が来ていて、それに期待しているのなら重病患者と、それと現金が詰め込まれている

しかもレアナー教の治癒による詐欺が多いのはそれだけ金になるということで・・もしも治せる当人が来ているのなら件の『魔法使い』を捕まえることができれば、とてつもない金になる

ごろつきも重病人も、ひと目見たいという若者も街の至る所に現れた

深夜には街の至る所でごろつきが治療を期待して車で眠る彼らを襲撃する事件が発生

レアナー教を狙う詐欺団体やレアナー教を嫌う宗教家も現れた


警察、保安官、州兵が治安の急激な悪化に対処


期待される洋介チャンネルの配信は日本との時差があるためかAM03:42に開始され、内容は「今日、アメリカで治癒するよ」とのこと




・・・



・・・・・・・



・・・・・・・・・・・・・・・




場所は!?時間は!!!??

というか動画の背景ホワイトハウスだよね?いいの???

これを受けてホワイトハウス周辺の兵士によって信徒になるだけか、信徒になって治療を受けるか?などの区別が急遽始まった

もちろんボディチェック済み

やはり銃を携帯して良からぬことを考えている人はいるのだろう

軍が取り囲んでいるというのに発砲音と花火が打ち上げられる音が配信でも聞こえた

画面の中では警備の人間がすぐに部屋に入ってきたが本人は気持ちよさそうに寝ていた

マジカルボーイはウトウトと配信途中で寝てしまい、僅かに光る壁の中にいる

誰も彼を起こすことが出来ず、配信は配信機材のバッテリーが切れるまで行われた


近隣では「この広場でレアナー教治療を行う」「治療を求めるなら先に支払うように」などといった詐欺やデマが横行し、銃の不法所持や詐欺であっという間に拘置所がいっぱいになってしまった

近隣では「手錠が足りない」と警察からコメント、犯罪者を拘束するのに結束する樹脂バンドのみならず前時代的に縄まで使われる始末

平和で穏やかな街ワシントンは混沌の坩堝へと変貌していた


アメリカは人が多く、貧富の差が激しい、そして銃社会だ


犯罪にも銃は使われ、そして自己防衛の為にも銃は使われる

銃は人の命を奪うことが出来る道具であるが完璧に管理されているとはいえない

古くから銃社会であるということは思いもがけないところに銃が出てくる場合もある倉庫、山、川、中古物件、土の中、草の中

子供が『遊んでいて銃を見つけた』なんて事例もよくあることだ

銃の生産も行われている関係からも銃の自作や改造も生活の身近にある

そして銃を取り扱う者は『人間』である

いくら素晴らしい人格者であっても金の問題、男女の問題、仕事の問題で人はあっさり変わってしまう

軍という仕事先によって銃を取り扱う訓練を受けている人間は多くいる

銃が作られ、銃を取り扱うものが居るから銃に造詣が深くなり、銃を取り扱うのは人であるからこそ、完璧な管理など不可能なのだ



だからこそこういった事態になっているのだろうな

まともな方法では治療魔法を受けることが出来ない悪党だって彼を欲しがる


たった、わずか半日足らずで街は地獄の門が開いたかのように恐ろしいものと化した


さらに昼に起きた彼は周辺を杖にまたがって飛行ショーをしてくれた


狙って落とそうとしたのか彼に向かって行われる度重なる銃撃

しかし彼には銃弾は届かず、半透明なレアナー様が出現、街を大きく一周する頃には指の数では数えられないほどの彼を狙った銃撃が発生した

そしてそれ以上に彼の飛行ルートで悪意を持った人間が行動を停止して固まってしまった


後に彼はこの時「アメリカの街を飛んでみた」動画を撮っていて、度重なる銃撃に対して「もうやだこの国」と発言していた


・・・・・アメリカ国民として恥ずかしく思う


多くの動画が残ったが各国はアメリカを大きく批判し、同時に他国からレアナー教への勧誘が殺到した




しかし、この日は奇跡の一日となった




誰からも心配されていたように治療の現場で銃を乱射するようなものは存在せず、女神が見守って治療は行われた

ハンデを持った人間はどこにでも居るが、子供も大人も関係なく治った

残り数年の命と余命宣告を受けた人が、視覚と聴覚が両方生まれつき機能していない人が、痴呆が進んで家族が誰かを思い出せない人が・・・

産まれて2週間と持たないとされた、新たな生命が


みな救われた







素晴らしいことだが現場はただ素晴らしいと喜べるものではなかった

怪我や病魔に長年侵された人を治療すると奇行に走る場合があるようで聖下によると「魔力なれしてないんじゃないかな?」と

日本でも老人が車をベンチプレスしていたり、強化コンクリートを素手で激しく粉砕していたが・・・アメリカ人も例外ではなかった

いきなり上半身裸になって無駄にいい笑顔で無言で太極拳を始める人達はまだ良かった

何故か逆立ちやブリッジの状態で走り回る大人や着ている服を破って頭上で振り回して自らの尻を叩いてカウボーイと牛の両方の真似をしながら歩いたり、地面を転がり続ける人が居たり、老婆が激しくブレイクダンスしたり・・・・阿鼻叫喚の様相を晒していた

もちろん奇行に走らない人もいたが・・・できる限り会場内にとどめて隔離しようとしていたが包囲網を突破する人も居た

羽根もないのに空をとぼうとして両手をバサバサ振り続けて会場から飛び出した者や両足を地雷で失っていた元アスリートは150キロ先で発見された、元気にスクワットしていた

人の力で戦車って動かせるんだと呆気にとられたよ


やけに肌が若返って見えた大統領夫人も治療の現場を手伝っていたのにこの騒動が危険とすぐに連れ出されてしまった


ヨーロッパで治癒していたのは「ヨーロッパの春」などと称されることもあったがこんなに大変なことになるとは・・・

アメリカ史上最高に混沌とした日だったんじゃないかな・・

酷い一日ではあったが人々が健康になったこと だ け は良いことだろう
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