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第445話 ミルミミスの旅の始まり

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この異世界の人間は赤子も赤子、十ほどの歳しか重ねておらぬ幼子であった

人間の見分けなどわからぬし雄か雌かも記憶を見てわかった

それにしてもこの世界は、発展していた

どこの世界かはわからんが、良い

旨い肉も、旨い酒も、安定した統治で発展する

脆弱な生き物は群れて生き、生き残り続けたものは欲望の際限もなく何かを作り出す


貨幣、陶器、城、絵画


そして何より肉と酒


より良きを求め、作り続ける





最高に良い





この文明は建物を見るだけでも外敵が居ない状態が続いたのがわかる

生き物は「より良い」を常に求める

そしてそれは自分の力でのみ創られるだけではない、他者が創ったそれをも求める



求め求め求め、争い続ける


優れしが、強きが、運の良きが、残り続け


善きも悪きも関係なく発展する



幼子の世界は実に素晴らしい

ところどころ景色に空白があり、記憶の欠落も多い


ただ食い物のあまりの旨さに驚いたものだ


・・・・・ちょっと驚きすぎて、この幼子の頭砕けてしまった


再生能力もちかアンデッドのように元に戻ってよかった


「聖下ぁ!!?」

「<やはり罠だったか!!!>」

「< ぶ っ 殺 し て や る !!!!>」


この幼子の守護神、レアナーのところのガーデクから話を聞いている

もしもこいつが死ねばこの世界はあの臭い瘴気に包まれる

この世界、そしてこの世界から続く別の世界も腐れる


・・・まぁ、そうなればそうなったでうまいものはまた別の形であるのかもしれない


だが肉は生き物から、酒は植物から出来るが瘴気はその両方を無くしてしまう

しかも瘴気はかなり臭い

寝てても鼻についてイライラする


だから、まぁ、少しぐらい手伝ってやろうと思っていた


だが神共も我を殺したい者は多い

魔王のためとほざいて罠をかけられる可能性もあった

だから記憶を覗いて、確かめようとしたのだ


ガーデクは裏切ることはないとその核を預けてきた


その主たるレアナーは洋介の奥まで覗き見ることを良しとし、その証左にこの場までついてきていない


倒れた幼子はその血で真っ赤に染まった

それを見て戦いを挑んでくる勇者の部下共


だがここには結界を張っているし入ってこれぬだろう

我に敵意があるのであれば瀕死のこの幼子はこの場で殺してしまえる

幸い治るようだし、敵意のない証としてこのまま何もせずに待とう・・・そう思っていたのだが・・・・


あまりの旨さに二度三度と破裂させてしまった


あまりに脆弱!!???



わ、わざとじゃない!!!!???



不味い、脆弱な生き物とは言え神にその加護を授かった者共だ


黒い耳長は血涙を流して、激昂している

流石に我も反省して幼子が治るまで大人しくする


いや


「<この邪竜がァァァァァ!!!!!!!!>」


結界を破壊され、全身を鋼の縄を縛り付け、氷漬けにされる

いまだ動かぬ幼子に影響がいかぬように、彼らも傷つけないように、優しく相手を、相手を・・・


イカン、こいつら、強い


我の鱗を削り、肉まで届く牙を持っている


というか幼子にまで被害が行く攻撃をしてくる


こいつらには幼子はもう死んだように見えているのか!?



「待て、話を!」



「      死になさい         」



幼子を包み込むように護る、が、こいつら本気で怒り狂っている

金属と植物の蔦で全身を血に縛り付けられ、煙の魔人と巨大なゴーレムに押さえつけられ、もろとも足元を氷漬けにされる

黒い耳長に殴られ、白い耳長の剣が我の命を絶とうと・・・・・・・・幼子も巻き添えになるぞ?!


「グゥオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

「<よくも!よくも!!!!ヨクモォオオォォオオオオオ!!!!!!!>」



無理やり頭をねじ込んでなんとか傷つけさせずに済んだ

我が誇る障壁をすべて断ち切られ、片目と頭蓋を深く斬られた


「<グゥオオオオオオオ!!!!!!!>」


流石にここまでされて黙ってられるか

この小さき者共、纏めて消し炭に・・・!!


「<やめて>」

「あぺっ!?」


喉の下、幼子から声がかかり、我も、そして耳長共も全員が止まった


白い方の耳長はそのまま転けた

我は何もしていない

単純に、足を滑らせて転けた白い方の耳長


まだお互いに戦闘が続くかもしれない、小さきもの共は武器を降ろさぬし我も爪を振り上げたままだ


「ヨウスケ!一旦引くぞ!!」

「大丈夫、ダリア、ちょっとした事故だから・・だよね?」


黒い方の耳長が幼子に駆け寄った

幼子・・・・・うん、我が悪かった

ちょっと興奮して全身血まみれにしてしまった


杖を掲げて聖句をブツブツと唱えた幼子は仲間を治していく

我の目にもじわりと愛と賊狩りの女神レアナーの魔力が流れ込んでくる

不快な気もするが、幼子の好意だ

受け入れよう


「ミルミミス」

「なんだ?」

「・・・・・ありがとう」


腰を折って深く頭を下げた幼子

そんな、我が傷つけてしまったというのに


「何がだ?」


うまい飯の思い出がそんなにも良かったのか?

あれ程のものはこちらには殆どない

幼子を通じて我も体感したがりんごとはんばーぐ、とても良いものだった

ん?幼子、凄い呆れた目をこちらに向けてきている


「まだ少し意識が繋がってるけどそうじゃないからね?とーさんとかーさんに会わせてくれてありがとう」

「いや、こちらこそ幼子の人となりがしれてよかった」

「じゃあご飯食べようか?」

「・・・・・いや、あの肉はお主らで食べるが良い」


我はもう満足した

この数千年、特に目的もなく生きてきた

魔王が襲いかかってくれば魔王を殺し、勇者が襲いかかってくれば勇者を殺した

我の酒を奪おうとした神を何度も滅し、後は寝て食っていただけ

この世のものとは思えない、いや異世界のものか?最高の料理を味わえた


そして何より我が幼い頃に母竜に甘えていて・・居なくなって寂しかった、あの頃の気持ちを思い出せた


「「「あのミルミミスが飯を譲るだと!!?」」」
「偽物だ!!絶対偽物!」
「ぶっ殺そう!!!」
「やるぞお前ら!!」


あれ?我、本物なのだが?

飯を誰かに譲ったことなど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・覚えておらぬな

むしろ奪おうとしてきたものはことごとく滅してきた


「<やめて?>」

「はい!」


幼子の一言で、この物騒な連中は静かになった

この野蛮な者共は好かんが幼子についていくことにした

幼子の知っている知識であの料理が作れるかもしれん


「ところであの記憶覗くやつ、あれまた出来ない?」


我の目を治すのにはそれなりに時がかかった

なに、いずれは治るだろう


「・・・すまぬ、耳長に眉間を斬られてな、あそこまでのものはもう出来ぬ」


我の身体には精霊が住みついている

我の身体から漏れ出る魔力で育った小さき精霊

記憶を覗くのは眉間に居たやつが巣を作っていたから出来ていたのであって傷がふさがってもあれは我の身体ではない


「そっか・・そっかぁ・・・」

「精霊に我から頼んでみよう、いずれ出来る」

「ほんと!?」

「我と一緒にいずれ食うのが約束だ、うまいものは味わってみたい、あれ程うまいものはなかなかないからな、主の母共はどこぞの宮廷に仕える料理人であるか?」

「え?いやかーさんは仕事してるし、直子おねーさんは料理のお店やってるけど「お客こねー」っていっつも言ってるよ」


「・・・・・・・・・・・・は?」


理解できずに何度も話していくとお店で食べる料理はもっと美味しいものもあって、もっともっと、多くの料理が幼子の世界にはあるそうな


うむ、決めた


我、絶対に行く


そういえば記憶を見せることが出来たのはわずかに数度のみ

精霊は住処を失って力を溜めないといけなかったからだ、仕方がない

だけど幼子と旨い料理の話をして、旅はなかなか楽しいものであった








「なんで今はそんな姿でそんな喋り方なの?」

「・・・うん、この身体になったばかり、喉がまだ使い慣れてない」

「なるほど?じゃあ姿は?」

「・・・どうせなら、幼子と番って一緒にうまいメシを食ってみたい、約束した」

「うまいメシを一緒にってのは約束したね」

「・・・うむ、ついでに番うだけだ、嫌なら襲う」

「・・・・・・・わかった、じゃあなんでそんなにおっきいの?」

「・・・この身体、昇華のときにこうなった、幼子と同じぐらいで創った、つもり」

「全然おっきいね」

「・・・うん、まぁ仕方ない」

「そっか」

「・・・そうだ・・・・これからも頼む」

「うん」


また我の背に乗せて空を飛ぶ

偉そうな話し方も、竜が小さきもの相手に下手に出ればまともに話も出来ないこともあるからいつの間にかそうなっただけ


あぁ、幼子とのいつもの話をするのが心地よい

畏まらず、嘘もつかず、恐れもせずに本心をぶつけてくるなどこの幼子ぐらいだ


それと小さくなったこの身体も悪くはない

人の姿では大きくなってしまったが竜の姿では我よりも幼子のほうが大きい

大きなものに触れられるというのも悪くないな


飯も信じられないほど旨い肉を作ってくれる、酒も極上


幼子は酒の匂いも嫌いらしくあまり出ないが・・神共への貢物にはよく置いてある

うむ、また、くすねてくれよう
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