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第444話 ミルミミスと夢の中の世界
しおりを挟む「ミルミミス、僕を殺す気はある?」
「無い、ちょっとお前の記憶に興味があるだけだ」
「神に誓う気は?」
「無い」
「聖下、引きましょう!?」
仲間が僕を後ろに連れて行こうとしている
ミルミミスは今まで見た中で最も威圧感があるし今までに見たものの中で一番巨大な生き物だ
小さな城ほどはあるだろうか?翼を考えるとデデスガよりも大きい
ただそこにいるだけなのに何人か仲間も立っていられずに膝をついてしまっている
翼には精霊が雪のようにほのかに光って見えて、そこにいるだけなのに威圧感が凄まじい
「信じるよ」
「聖下っ!!?」
「・・・ほう?」
愉快そうな声色の混じったミルミミス
身体をごく僅かにくねらせただけで、仲間の警戒が高まっている
ダリアが殴らずにいられるのは何人もで抑えつけられているからだ
「貴様の仲間の言うように、我が貴様の記憶を見るだけで貴様は耐えきれんかもしれんぞ?」
「そんな必要ないよね?さっき、僕に話しかけた時、魔力を抑えて話しかけてくれたんでしょ?」
こんな巨体でこんな魔力、仲間が接近に気が付かないなんておかしいのだ
それに話してるときに魔力が漏れたようだけどきっと限界まで抑えていた
僕らに対して気を使っているのだ
殺す気だったのならこの魔力量、強襲で僕達全員倒せていたかもしれない
「それに僕はだいたい何をやっても治るしね、僕の記憶を覗いたら僕と一緒にお肉食べながら話を聞いてくれる?」
「・・・・・・・・・貴様は変な餓鬼だな」
「そうかな?」
「・・まぁいい、我に食の記憶を見せるが良い!」
「そんなわけだから、皆下がって待ってて」
「しかし・・」
「皆わかってるでしょ?僕は治る、だから心配しないで待ってて」
顕現した戦神とだって戦って勝利した伝説のあるミルミミスだ
ここで戦うと、きっと何人か治癒が間に合わずに死んでしまうことになる
そもそも神や精霊からミルミミスも話を聞いているだろうし味方してほしいのにその態度はないよ
僕一人で前に出る
「・・・・・」
動かずに待ってくれているミルミミス
ミルミミスだって、僕達に襲われる心配があるんだ
見定める必要はあるだろう
「<うむ・・では見させてもらおうか!この肉よりもうまいというものをな!!!>」
ミルミミスは大きな声をあげつつもゆっくりと僕のおでこに自らの額を押し当てた
大きな体、長い首を丸めて巨大な頭を上から押し当ててきた
ミルミミスの周りをまとわりついていたホタルのような精霊が僕達の周りを雪のように僕達を包み込んで
僕は別の世界の中にいた
「おぉ凄いな!何だこれは!!」
日本の風景、通学路だ
ミルミミスは僕の肩で、はしゃいでいる
林檎ほどの大きさになったミルミミスはキョロキョロと首を動かして楽しそうだ
・・・あれ?
「これがりんごか、どんな食べ物だ?」
瞬きした瞬間、おばあちゃんが切ってくれた青森の林檎が目の前にあった
「じーちゃん!ばーちゃん!!」
気がつけば2人に抱きしめられている僕
抱きしめられた触感は確かにあった
だけど僕からは触れられない
触れようとした手は2人を通り過ぎた
「おちつけ、これは記憶だ」
ミルミミスを見て、目の前に巨大なミルミミスが現れた
肉を焼いていたら現れた、さっきのミルミミス
「おぉ、これは我か・・・・・小さき者から見ると大きいものだな」
巨大なミルミミスは眼の前に居る、だが肩にもミルミミスはいる
「どういうこと?」
「これは記憶の中だ、お前が思ったものが見れる、りんごを思い浮かべてみろ」
手のひらの上に林檎が現れ、重みを感じる
赤い、こういうのが甘くて美味しいんだよな
「おぉ、これは凄い!!凄い!!!おいしーな!!!!!>」
一瞬世界がぶれた
林檎は手のひらからなくなり森の中にいた
「あれ?」
「すまん、少し興奮してしまってな・・・」
感情で制御を失敗したのか?
魔力って使い慣れないとよく失敗する、単純なものならあまり怪我とかしないんだけど慣れるまでは何度も練習しないといけない
「よくあることだよね」
「うぅむ、よく思考ができるな、貴様・・・」
「??」
「ま、まぁ良い、今は美味しいものについて思い浮かべよ」
美味しいもの、美味しいもの?
レストランか直子おねーさんの作るエビフライ、オムライス、ハンバーグ
思い浮かべると次々に目の前に料理が現れて一瞬だけ味わう
「<おいしー!おいしー!!!!おいしぃなぁあぁぁっ!!!!>」
サクッとした衣に包まれてぷりっとしたエビフライ、ケチャ・・・何だっけ?赤いソースで酸味もあってトマトの味の中に小さな鶏肉を噛むとぐっと旨味が出るオムライス、肉汁があふれるハンバーグ、チーズが入っていても美味しい
「<素晴らしいな、この世の物とは思えない・・・!!!>」
濃いものを味わって、気がつくと目の前にはご飯とお味噌汁と、きんぴらごぼう、納豆に漬物、それと唐揚げが
「美味いか?洋介?」
「ちゃんと噛んで食べるのよ?」
食卓には父さんと母さんがいた
「っとーさん!かーさん!!!」
「どうした?」
「おかわり?あら?どうかしたの?」
転けて怪我をしたときに僕の頬に手を当てて目を合わせようとしてくるかーさん
ずっと会いたくて、触れられた手に触れようとしても触れることも出来ない
どんどん景色が変わる
川の字で3人で寝たお布団、車の中で一緒に聞いたラジオ
海で康介伯父さんと釣りをして、じーちゃんが僕が来たことに喜んでスイカを持ってこようとして腰を痛めて、かーさんが静かなおばーちゃんと楽しそうに料理してて、洗濯物を干そうとするかーさんと3人で競争で干して、僕の勉強を教えてもらって、とーさんの膝の上でテレビを見て・・・・・
風邪で寝ていて、お水を飲みに行こうとしたらキッチンから音がして、窓を外から開けようとした父親
「どうしたのとーさん?」
「いや洋介が風邪って聞いて、休憩時間に見に来たんだ、ははは」
「玄関から入ってよ」
「鍵を職場に忘れてな、起こしちゃった?」
「うん」
「悪い悪い、これ好きなものを好きなだけ食べると良い、詩乃さんには内緒な?」
「わかった」
窓でガチャガチャとしていて、僕が鍵を開けて
そこで何かジュースとお菓子をもらったはずだ
「ようくん、大丈夫?」
風邪をよくひいていた僕
寝ている頭をなでてくれる母
母さんも仕事をしているのに急な仕事でも帰ってきてくれた
確かあの日は、微熱だったし母さんは出張、父さんも大事な会議があるとかでどうしても無理だった気がする
親戚のおねーさんが見に来てくれたけど熱が上がって薬がなくて買いに行ってくれてたんだっけ
気がつけば食卓で不思議そうに僕を見つめてくる2人がいた
唇を噛んでしまう
これは僕の記憶、ただ、もう二度と会えないかもしれない父さんと母さん
「<助けるから!!ぜったいに、助けるからっ!!!>」
偽物とわかっていても、言わずにいられなかった
「うん、だけどようすけはできることをできるだけ頑張れば良いんだからな」
「そうよ、よーくんが頑張ってるのは母さん知ってるんだからね?」
いつもと変わらぬ2人の笑顔、いつまでもここに居たい
だけどそんな願いも虚しく、世界は光で包まれていった
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