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第262話 お父様

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勇者は僕に食べ物を分け与えてくれた

生きてもいい場所をくれた



始まりは俺1人だった

何もない忌み地から始まった

大昔に瘴気に穢された土地、何も生えず、何も育まない不毛の大地

その土地を勇者様は少しずつなおした

土地だけではなくどんな神官様も治せなかった人の瘴気を治してくれた


【清浄化】と【聖域】の魔法を使って・・・とても綺麗だった


地面に打ち込まれた光が砕けちり、星屑の絨毯の上で生活しているようだった

ただ・・・昼も夜もなく光るし眩しい、寝にくいし足元も見えないのはちょっと困った

体を蝕んだ瘴気も勇者がいなくとも1週間も星屑の中に沈んで寝れば治る


勇者様は来るたびに難民を引き連れてきた

骨と皮のような倒れそうな病人ばかり、疲れ切って動けないか心の荒んでいるものばかり

問題は多いものの領地には住民が増えた

領地と言ってもまだ掘っ立て小屋がいくつかあるだけ、流刑地と変わらないかもっと酷い


動けるものとして走り回って目まぐるしい毎日だった、いつしか最初の住民としてまとめ役の1人になっていた


なんで勇者様はこんなことをしてくれるのかと聞いた


「なんで俺らを助けてくれるんだ?」


だって得になることが何もない

お荷物の人間を治しても時間も金もかかるだけ

それどころか危険でさえある

レアナー教国の中であっても領地内から出てはいけなかったし隣のザウスキアの国境には常に兵がいる

瘴気に蝕まれたものはアンデットになりやすい、勇者の難民を集めるという試みにさえ抗議がされ武力衝突寸前であった

俺らは勇者の足を引っ張ってる


「人として当然でしょ?」


当然なわけが、なかった

当然だとしたら蔑まれることも追われることも、殺されるようなことをするのが当たり前になるわけがないじゃないか

元々異世界の勇者様はこちらの金銭に価値がなく、女性も酒も、贅沢にも興味がなかったそうだ


「なら僕への報酬で人が助かるなら良いでしょ?」


そう言って私財を全て置いていき、魔法で住める土地を増やしてくれる

帰ってくる度に瘴気のこもった攻撃を受けたのか、俺よりも少し大きいだけの子供の体に傷跡が増えていった

瘴気の傷や病はなかなか治らず、体の芯から痛んで仕方がないはずなのになんでも無いようにしている


その傷の報酬で俺ら難民は生きれている


難民の問題である病や魔族が混じっているというのは勇者の【清浄化】や他の魔法使いの選別でわかった

それを見てもいない各国が信じれるわけもないが・・・


食料の問題も勇者が解決した


キソカガクというものを難民のエルフやドワーフに話し、多くの種族で食べられるものを調べあげ、ダイドンの茎やクソ不味いスープが普及した

ダイドンの茎は画期的であった

クソ不味いが虫も食わない、どこにでも邪魔なぐらい生える、長期保存可能、クソ不味い、健康に良い、よく噛んでいくと美味しい癖と甘みも少し感じる

更に世界で食べられている食材を雑草から調べて調理法を記した書物を各国に流し、餓死者を減らした

今まで見向きもされなかった雑草でも木の皮でも苔でも少しは食える

見向きもしなかった骨にだって滋養があった


スープは更に不味くなったがそれで助かる命がある


食えるだけありがたいし勇者も嫌な顔をせずに同じものを食べている

もっと良いものを出そうとしてもそれは倒れた難民に渡して不味いスープを飲んでいた・・・よく太った虫だったんだけどな

まさに絵本に出ている聖人様だ

全世界から瘴気に侵されたものや難民は自らの足で集まり、領地に人は増え続けた

ただ強引な場面もあったそうだ

飢えに苦しむ領民を連れて行こうとすると貴族が反発した

だから勇者はレアナー教的な『子供』として保護した

加護持ちには何かしらの聖約が課せられることがある


人と神の間に交される、絶対に守らなければならない神聖なる約束だ


加護を授かるのにはなにかしらの対価を差し出したり一生をかけて何かを成し遂げたなければならないことがある

慈愛の神とも言われるレアナー様が勇者に最大の加護を与えた

他の神でも子供を護ることは珍しくはないがレアナー教徒では絶対だ

足腰の弱い年老いた神官ですら子供に無体を働くものを見れば棍棒を持って襲いかかってくることもある

子供であろうと闘えという戦神とは仲が悪いはずだ


故に勇者が難民を助けるのは誰もが納得できる理由である


きっと人助けを神と約束したのだろうと


でもそれを逆手に取って勇者に難題を与える貴族も居た

領民は貴族にとって所有物、財産だ

世界を救おうとする勇者の理由に納得はできたとしてもそれをただ受け入れる訳がない

だから衝突は避けられない

勇者は武力を持ってでも人を連れて帰ってきた

勇者領地はレアナー教国の中の領地なのに今だに別の領地には行けない

レアナー教国を護る大規模な結界の外のままだ、勇者の庇護下にはあるがレアナー教国の庇護下にはない

それに勇者は子供で、常識のない異世界人だ

だから舐められているし簡単に騙されていることもあった


拾われた人間は名前を変えることになった


名前には意味や風習によってつけられるものや地域性が出る

それによってどこ生まれの難民であったと言うだけでも貴族共は難癖をつけてきた

遠く滅んだ国の出身だというのにそこは今は魔族領土である

だから危険であり定住・結婚・領地からの移動・集会の自由を無くし、国際連合軍に従軍しなければならないなどの法が決められそうになったこともある

「うちの領民にそういう名前がいたから引き渡せ」なんてふざけたクソ貴族もいた

瘴気による病を勇者が治したというのを信じてはくれないし、どこの国でも難民を危険な存在であるという認識を改めてはいなかった


ふざけてる

俺らが死んで、領地ごと焼き尽くして全てを灰にするまできっと安心できないんだろうな


難民にとって全てを失って最後に残った自由にできる『名前』も失うことになってしまった

安全のためであるし、今は温かい食事に、寝れる場所があるだけでもありがたい

名前は親や祖先を裏切るようで申し訳無さがあったけど勇者様は「ずっと覚えておけばいいさ」っていってくれた

名前は過去の迷い人や勇者たちの残した資料やそれらをまとめた[異世界辞典]という分厚い本の中から選んだ

辞典には文字の内容も記されたものもあったけど俺のは文字と読み方だけ、響きで決めた

つけてもらった名前は勇者も意味の分からないと言っていたがそれはどうでも良かった


お父様はエシャロットと俺に名付けた


対外的なものであってそこまで意味はないのかもしれないけどお父様との仲は縮まったような気がして嬉しかった
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