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第193話 牢獄のほんの小さな最高の贅沢
しおりを挟む「・・・約束する、またな」
「気をつけてな」
「・・また会い、まひょう、ウップ」
またな、そんな事を言って自分のベッドに入るのは変な気がする
貯めていたポイントは使えなかったが何かあった時に使えるかもしれないと物販で人気の菓子を細々と買って貯めていた
多分この牢獄には戻ってくることになるだろうがそれは管理者次第だ
明日の今頃、俺は土の中で眠っているかもしれん
ならばこの菓子で少し仲間内で楽しむぐらいはいいだろう
俺の部屋で3人で少し飲み食いすることにした
俺に日本語を教えてくれたR、いつの間にか友だちになっていたA
もしもこの2人がいなければ俺はどうなっていただろうか?
狂っていたか希望もなく走り回る1人になっていたかもしれない
「飲んでいけ、一本しかないがな!」
小さなルール変更にも愚痴を言い合ったA
「では私からもこれを」
クレイジーな日本語を覚えるのに根気よく教えてくれたR
最高の友人だ
Aが持ってきた1本しかないテーブルワインでは酔いも回らないが3人で一口ずつ回し飲みをする
Rからも物販で買ったという謎の物体を一緒に食う
スティック状の黒ずんだオレンジ色のなにか
日本食にはヤバいものもあるとはわかっているが俺もAも迷いなく口に入れた
「「旨い!」」
濃いめの味付けに動物性タンパク質のガツンと来る旨味、とてもスモーキーでスパイシー、それに負けないほどに噛むほどに旨味が出る
食べたことがある、馴染み深い味だ
「サーモンだな!」
「Stunning!」
「すた?当たりです、好物なんですよ」
「しびれるほどに旨いって意味だよ!ビリビリぃ!!」
背中をバンバン叩かれているRだが気持ちはわかる
これは衝撃的な旨さだ
サーモン、鮭を燻製にしたスティック状の食べ物、一口食えばこれが酒の肴だということがわかる味だ
高かっただろうな、酒関係の物販はバカみたいに高い
だがそれを言わずに「好物なんですよ、もっとどうぞ」なんて勧めてくるR
今日は多分人生で三番目に良い日だ
子供が産まれた日、嫁と結婚した日、そして親友と呑んだ今日
ヘアカットをしてからここに帰ってくるまで誰も俺と気づきもしなかった話をする
帰ってくるまでに「新入り」とか「働くなら向こうがおすすめだぜ」なんて言われた話で2人は笑い転げ、俺も笑っちまった
髪もヒゲもスッキリした後は服もないし困ったものだった
あるのは下着と下のパンツ、それと靴に貰ったラムネだ
上着なしなど男好き共に狙ってくれと言っているようなものである
「じゃあ下着だけで部屋に戻るといい、新人にしか見えないからね」
後で服は持っていってあげるよなんていいながらくすくす笑うR
恥ずかしい気もしたが廊下を歩くと誰も俺とはわかっていなかった
それなりに仲のいいやつでさえ俺とは気付かない
声をかけられて笑いを堪えるのに必死だったが周りのやつを見て気がついた
長くいるものほどヒゲも濃く、長髪なのだ
部屋に帰る前に爪切りで見てみたが綺麗さっぱりヒゲのない肌、日本製のカミソリは優秀だな
いや、Rの腕がいいのかもしれない、少なくともこの牢獄では一番の腕だ
貯めていた小粒の干し肉のような駄菓子を3人で齧って笑いあった、カツと並んで通貨の代わりにもなるほどには旨い駄菓子だ
「ちょっとトイレ」
「私も」
そう言ってでていった2人だがすぐに戻ってきた
酒を持って
「お前ら、これ!?」
「いいから飲め飲め!」
全く、最高な奴らだ
たった数缶の酒、だがここではこれ以上のものは味わえないほどに豪華なものだ
結構なポイントだったろうに無理をさせてしまった
だが、俺でも同じようにしたかもしれないな
「なぁG」
「なんだ?」
「もしも外に出れるチャンスがあったら、もう二度と戻ってくるなよ?」
「・・・・・」
あぁ、そんな一言が言えなかった
ここはクソみたいな場所だ
飯はまずい、トイレはフルオープンで隣のやつと手が届く距離、意味の分からないルール、日の当たらない、命を握られている毎日
だけど、お前らって未練が出来ちまったじゃないか
「約束しろ、なぁに、俺たちもすぐに出ていくさ」
「わかった、だがすぐに戻って来るとは思うがな」
「わかってる、もしもの話だ、帰ってきたなら何があったか話せ、それでいい」
「・・・約束する、またな」
「気をつけてな」
「・・また会い、まひょう、ウップ」
Aに肩を借りて俺の部屋から出ていくR
やつは酒には弱かったようで一缶分も飲まないうちにフラフラになった
あとは寝て待つだけだ
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