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第109話 けしからん
しおりを挟む貴族として六代続く私に向かって杖を向けるとは・・あの耳長め
リクーマ閣下も閣下だ、ドワーフと間違えられるのが嫌だといいながら人種を贔屓しない
ただでさえ人種はここでは少なく、貴族も半分は亜人共だ、虫酸が走る
今はどこの貴族も若き美姫を集めていることだろう
これまで勇者殿には結婚相手はただの1人、小人族の王女だ
我が家の調べでは結婚は政略的なものであり、基本的に別行動
ならば旅の仲間はどうだ?
名だたる英雄達に混じってダークエルフやハーフジャイアントのようなけしからん輩共もいる
もちろん魔王討伐の旅には女もいたが聖下が手を出しているといった情報は上がってなかった、男色家かと言う可能性にかけたのだがそうでもないか・・
単純に召喚されたのが若かった、まだ色を知る歳では無い
だからこそ色に溺れさせることもできるかもしれない
それに本人の条件も良い
加護のみならず、あの見た目だ、黒く艷やかな黒髪に神秘的な瞳、少女ともとれる体付き
悪くはないな
妻子を捨てる覚悟で儂が言ってやったというのに断るとはけしからん
だが我が家がのし上がるためにこの上ない相手だ
小さな加護だけではない、大神の加護を得た本物だ
婚姻し、子を成せれば永代の栄誉が約束され我が家名は語り継がれる
邪魔は入ったが今はとにかく情報は多く集めねば・・!
「御機嫌如何かな?神官殿」
「まずまずです、して聖下はいかがでしたかな?」
神殿関係者も聖下の動向は気になるようで流れの神官に金を渡して聞かせてもらう
大した情報は得られなかった、だが情報をすり合わせることでこれまでの情報が正しいという確証も得られた
これまでの情報通りあの胸の大きな女達は洋介聖下の婚約者で間違いない
こちらの情報と照らし合わせると神官殿はとても嬉しそうだった
「そう、ですか」
しかし【清浄化】を何度も領主の館で使っていたのを聞いて少し顔をしかめている
やはりあれだけの力だ、聖下の体調を心配されたのか?
「申し訳ないがそろそろアリージュ様の用で呼ばれてましてな」
「それは長引かせてしまいましたな、良き一日を!」
アリージュ様か・・跡取りであったグナイ様が亡くなってからめっきりふせっていた
最近ではグナイ様の死を嘆いて霊媒師やら占い師を呼んだり祈祷もしていた
アリージュ様も通っていたサロンの一部で怪しげな邪教徒共が関わっており、旅の神官であるエマンス殿がどうにかしてくれて良かった
エマンス殿と占い師の中でもこれまで来ていた方を調べて問題のなかったもののみがアリージュ様に接しているようだ
リクーマ様ももう高齢であるし跡継ぎであられたグナイ様がオーク討伐で散ったのは残念である
グナイ様は軍事に精通していて、あの巨体に美丈夫、加護まで得てこれからだったはずだ
もしもかの御仁が跡を継いでさえいればこの領地も安心であった
だが戦時中のオーク討伐であえなく散ってしまわれた
次の跡継ぎであるグルーゴ様も悪くはないが気弱であるし軍部のことをまるでわかっておらん
これまで全く表に出ていなかったこともあって他領の貴族共にまで勇猛と謳われたグナイ様と比べれば2枚も3枚も落ちる
リクーマ様も我々にグナイ様を跡取りと表明した上で連合軍で決死の最前線を戦い抜いた
だが帰ってくればグナイ様は死亡
リクーマ様も気落ちしてかつての豪放磊落ともいえた面影はどこにもない
わずか半年ほどでここまで老けてしまわれるなんてな、今でも声は大きな御仁だが覇気が違う
本当に、戦場では何がおきるかわからないということか
我らが聖下の心を射止めることができればこの辺境と言われる城塞都市にも王級と言われてもおかしくない加護を得られる
魔物共は減ったとは言え敵は魔物だけではない
いけ好かない中央の言いなりになるしかない道よりも多くの選択肢を作らねばならない
打てる手はすべて打たねばならん
我々の誰か、もしくは我が家との縁の近い三男のシャーム様を勇者様の婿にできればしめたものだが
いや、最低でも他領の貴族への取り込みだけは防がねばならん!
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