上 下
79 / 152

#79 王都の研究所

しおりを挟む
「ここですね……」

「おお、立派な建物ですね」


 今日、シュージはシドの付き添いで王都にある研究所にやって来ていた。

 その研究所では、魔物の生態や魔道具の開発、更にはシドが携わってるという新アイテムの開発など、研究分野は多岐に渡るそうで、そのせいか研究所自体もかなり大きな建物になっていた。


「すみません、わざわざ付き添っていただいて……」

「いえいえ、今日は午後まで特にやる事なかったので大丈夫ですよ」


 王都に来てからというもの、王城の料理人への料理指南や、お茶会の準備などで色々と動き回ってるシュージではあったが、仲間達との時間も過ごしたいなと思っており、今日は何やら重たい荷物を運ぼうとしていたシドに、手伝いを申し出た形だ。

 まぁ、手伝いとは言っても、シドの荷物をシュージの収納袋に入れて歩いて来ただけなのだが。


「一般の方も出入りしていますね?」

「一階は便利なアイテムを売っていたり、博物館があるんです……」

「なるほど。 ちょっと覗いてもいいですか?」

「もちろんです…… シュージさんのおかげでかなり時間が浮きましたから、案内しますよ……」

「助かります」


 とりあえず、シドの荷物は研究所の裏手にある倉庫へと持っていき、それが済んだら一階の博物館エリアに2人は向かった。


「ほう、これは魔物の絵ですかね?」

「そうですね…… 魔物の特徴や、その素材が何に使われるのかなどが書かれています…… いくつか伝承の中に出てくるような魔物の物もあったりします……」

「これとかですかね? エンシェントドラゴン、フェンリルなどがありますけど」

「エンシェントドラゴンは数千年生きたドラゴンの通称ですね…… フェンリルは獣の王と呼ばれていて、どちらも強大な力を持っているとされています……」

「ドラゴンとか現れたら大変そうですねぇ」

「ドラゴンは理知的な生き物ですから、人里を襲うような事は基本的にないですね…… ただ、たまに凶暴な個体もいるようで、そういうのは相当な実力者が討伐に向かいます……」

「国を挙げてとかではないんですか?」

「ドラゴンクラスになると、実力の無い者はいくらいても秒殺されてしまいますからね……」

「怖いですねぇ」

「かく言う我らがギルドマスターのジルさんも、数年前にこの国に現れたドラゴンを単独討伐した英雄なんですよ……」

「それはそれは。 ちょこちょこジルさんの武勇伝を聞きますけど、本当にすごい人なんですね」

「まともに戦闘できない僕からすると、シュージさんも相当ですけどね……」

「いやいや、僕はドラゴンなんかには絶対敵いませんから、大人しくご飯を作って皆さんの帰りを待ってます」

「シュージさんらしいですね……」


 のほほんとした会話をしつつ博物館を見て回った2人は、そのままの足でいろんなアイテムが売っている場所へとやって来た。


「なんだかんだこうして冒険者が使うようなアイテムを見るの初めてです」

「ここで売られているものはかなり質もいいですよ……」


 そこには定番のポーションだったり、強い光を放つ閃光弾など、冒険に役立つアイテムがたくさん売られていた。


「ポーションにも沢山種類あるんですねぇ」

「そうですね…… 傷を治すものから解毒効果のあるものや、目が覚める物なんかもあったり……」

「ポーションって基本飲んで使うものですか?」

「そうですね…… 一応、体に振りかけても効果はありますけど、飲むのが1番効果が大きいです……」

「この量を飲むのは結構大変そうですねぇ。 味はやっぱりあんまりよろしくないんですか?」

「味ですか……? まぁ、そうですね、美味しくはないです……」

「それだと尚更切羽詰まった戦闘時に飲むの大変そうですね。 りんご味とかならするっと飲めて良さそうだなとか思ったんですけど」

「…………」

「おや、シドさん?」

「あっ、すみません…… なかなか面白いアイデアだなと思いまして…… 確かに、ポーションは不味いものだっていう固定観念がありましたけど、回復効果を損なわない成分の果物があれば、味も改善できるかもしれませんね……」

「果物は体にいいもの多いですし、何かしらはありそうですね。 ああ、蜂蜜とかでもいいかもしれません」

「なるほど…… シュージさんは他に何か気になる点あったりします……?」

「うーん、あと挙げるとするなら、もう少し飲みやすいような形にできたらいいかなって」

「ふむ……?」

「ほら、僕が使ってる顆粒出汁あるじゃないですか? あれも液体だった出汁を乾燥させて旨味をぎゅっと閉じ込めたものなので、ポーションも回復成分をぎゅっと閉じ込めて、錠剤みたいにできたら戦闘中でもすぐ飲めるし味はそこまで気にならないかなって」

「なるほど……! 確かにそういうものが作れたら、とても役立ちそうです……!」

「まぁ、素人考えですけどね?」

「いえいえ…… とても参考になるアイデアですよ…… やっぱり、僕達みたいな既にアイテム作りに詳しくなってしまった者だと、固定観念に囚われがちですから、シュージさんみたいな柔軟な考えはとても参考になります……」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

「とりあえず、今度試してみますね……!」

「頑張ってください。 あ、でも、研究に夢中になりすぎてご飯忘れちゃ駄目ですよ?」

「あはは…… はい、気をつけます……」


 それからシドとしばらく研究所を見て回り、お昼頃になったらシドとは別れ、シュージは王城へと向かうのであった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界屋台経営-料理一本で異世界へ

芽狐
ファンタジー
松原 真人(35歳)は、ある夜に自分の料理屋で亡くなってしまう。 そして、次に目覚めた場所は、見たことない木で出来た一軒家のような場所であった。そこで、出会ったトンボという男と異世界を津々浦々屋台を引きながら回り、色んな異世界人に料理を提供していくお話です。 更新日時:不定期更新18時投稿 よかったらお気に入り登録・感想などよろしくお願いします。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

異世界のんびり料理屋経営

芽狐
ファンタジー
主人公は日本で料理屋を経営している35歳の新垣拓哉(あらかき たくや)。 ある日、体が思うように動かず今にも倒れそうになり、病院で検査した結果末期癌と診断される。 それなら最後の最後まで料理をお客様に提供しようと厨房に立つ。しかし体は限界を迎え死が訪れる・・・ 次の瞬間目の前には神様がおり「異世界に赴いてこちらの住人に地球の料理を食べさせてほしいのじゃよ」と言われる。 人間・エルフ・ドワーフ・竜人・獣人・妖精・精霊などなどあらゆる種族が訪れ食でみんなが幸せな顔になる物語です。 「面白ければ、お気に入り登録お願いします」

今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

KBT
ファンタジー
 神の気まぐれで異世界転移した荻野遼ことリョウ。  神がお詫びにどんな能力もくれると言う中で、リョウが選んだのは戦闘能力皆無の探索能力と生活魔法だった。      現代日本の荒んだ社会に疲れたリョウは、この地で素材採取の仕事をしながら第二の人生をのんびりと歩もうと決めた。  スローライフ、1人の自由な暮らしに憧れていたリョウは目立たないように、優れた能力をひた隠しにしつつ、街から少し離れた森の中でひっそりと暮らしていた。  しかし、何故か飯時になるとやって来る者達がリョウにのんびりとした生活を許してくれないのだ。    これは地味に生きたいリョウと派手に生きている者達の異世界物語です。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ
ファンタジー
過労死した主人公が、異世界に飛ばされてしまいました 。ここは天国か、地獄か。メイド長・ジェミニが丁寧にもてなしてくれたけれども、どうも味覚に違いがあるようです。異世界に飛ばされたとわかり、屋敷の主、領主の元でこの世界のマナーを学びます。 令嬢はお菓子作りを趣味とすると知り、キッチンを借りた女性。元々好きだった料理のスキルを活用して、ジェミニも領主も、料理のおいしさに目覚めました。 そのスキルを生かしたいと、いろいろなことがあってから騎士団の料理係に就職。 ひとり暮らしではなかなか作ることのなかった料理も、大人数の料理を作ることと、満足そうに食べる青年たちの姿に生きがいを感じる日々を送る話。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」を使用しています。

昔助けた弱々スライムが最強スライムになって僕に懐く件

なるとし
ファンタジー
最強スライムぷるんくんとお金を稼ぎ、美味しいものを食べ、王国を取り巻く問題を解決してスローライフを目指せ! 最強種が集うSSランクのダンジョンで、レオという平民の男の子は最弱と言われるスライム(ぷるんくん)を救った。 レオはぷるんくんを飼いたいと思ったが、テイムが使えないため、それは叶わなかった。 レオはぷるんくんと約束を交わし、別れる。 数年が過ぎた。   レオは両親を失い、魔法の才能もない最弱平民としてクラスの生徒たちにいじめられるハメになる。 身も心もボロボロになった彼はクラスのいじめっ子に煽られ再びSSランクのダンジョンへ向かう。 ぷるんくんに会えるという色褪せた夢を抱いて。 だが、レオを迎えたのは自分を倒そうとするSSランクの強力なモンスターだった。 もう死を受け入れようとしたが、 レオの前にちっこい何かが現れた。 それは自分が幼い頃救ったぷるんくんだった。

処理中です...