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#49 蒼天の風

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 ――キィン! ガンッ!


 至る所で戦闘音が鳴り響いている。

 ここはヤタサの街とダンジョンがある森の中間に位置するなだらかな丘の上。

 そこでは数千にも登る夥しい量の魔物と、ヤタサの街で活動している冒険者や衛兵達が戦っていた。

 一見、数では魔物の方が断然多く、そちらが有利に見えるかもしれないが、実際のところは人間側の方が魔物達を少しずつ押し返していた。

 そんな戦線の1番魔物が集まる真ん中付近では、一際凄い働きをする者達がいた。


「ギャウギャウ!」

「……ふんっ!」


 まずは1番前で、2m近くあろうかという身長と同じくらいの大きさを誇る大楯を振り回しながら、これまた大きな剣で向かってきた魔物を纏めて薙ぎ倒すボリーがいた。

 スタンピードの魔物は決して弱くなく、ゴブリンの上位種であるホブゴブリンや、オーク、オーガ、ウルフ系統など、並の冒険者では1匹相手取れれば十分な脅威の魔物達なのだが、ボリーは自分の防御範囲の魔物を一切後方に抜けさせていなかった。


「ボリー、ナイス足止め~」


 そんなボリーの前で二の足を踏む魔物達の頭上に、数枚の紙がシュッと放たれたかと思うと、次の瞬間にはその紙から全てを燃やし尽くす炎や、全てを切り裂く風の刃、挙げ句の果てにはいくつもの稲妻が発生し、魔物達を一気に蹂躙していった。


「お~。 流石はアンネリーゼの魔法やね~。 今回用に魔法込めてもらってよかったわ~」

「……援護、感謝」

「ええよええよ~」

「ボリーさん、バフをかけ直しますね。 『フィジカルブースト』」

「……グレースも、感謝」

「いえいえ。 ボリーさんが居てくれて初めて私達後衛が動けますから」


 その近くにはグレースがいて、ボリーを始めとした周りの者達に、膂力を上げる支援魔法をかけたり、回復魔法を飛ばしたりしていて、たとえ傷を付けてもすぐに復活するという、魔物達からしたら悪夢のような状況になっていた。


「おりゃあああ!!」

「ぬぅんっ!!」


 更にそのすぐ横の戦線では、ミノリが打撃面の大きな大槌を振り回して魔物を吹き飛ばし、ジンバがこれまた大きな大斧を振り回して大きな魔物を一刀両断していた。


「親父、無理してないか!?」

「馬鹿野郎、まだまだ若いもんには負けん。 ミノリ、倒した分の素材のためにも、もっと倒すぞ」

「ああ、任せなよ!」


 スタンピードでは倒した魔物の報酬は当然倒した者が受け取るので、2人は自分達の仕事のためにも張り切って魔物を倒しまくっていた。


「よし、頼むよミニャ」

「にゃー!」


 そんな戦場から50mほど上空。

 そこには本来の大きさに戻ったナイルの背にゾラ、ミニャ、イザベラが乗っており、ミニャの鳴き声と共になにやらモヤモヤとした霧のようなものが魔物の中心に発生した。
 

「……ギャ? ……!! ガァァァッ!」

「おぉ、流石ヒプノスキャットの催眠魔法は強力だねぇ。 同士討ちしてるよ」

「ナイル、今の内だ」

「ガァ」


 魔物の一部がミニャの催眠魔法によって同士討ちを始め、魔物の統率が崩れたところに、ナイルが羽ばたきと共に硬質化させた羽をすごい速さで雨のように降らせていく。

 結果、その辺り一帯の魔物は鉄のように硬い羽に貫かれて地に伏していった。


「ナイルもやるねぇ」

「貴女は何もしないのかい?」

「そうしたい気持ちもあるが、そうも言ってられないからねぇ。 それっ」


 イザベラはそう言いながら、持っていた杖を一振りし、空中に大きな魔法陣を作り出した。


「『ロックフォール』『アイスフォール』」
 

 その魔法陣から、それはそれは大きな岩と氷塊が出てきて、魔物の群れの後方へ一直線に落下していった。


 ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!


「「「ギャァァァァァァ!!!」」」


 そのとてつもない質量の物体が落下した事による衝撃により、100を超える魔物が一気に潰されるか吹き飛ばされていった。


「二つの魔法を同時に…… 流石だね」

「まぁ、これくらいはしないとねぇ。 お、あっちの戦線がちょっと苦戦してるよ」

「了解だ。 そちらに飛んで行こう」


 空を飛び回れるという圧倒的な利点を生かし、そのまま2人と2匹は戦場に大混乱を起こし続けていった。


「おらぁ!」

「やぁっ!」


 そして、スタンピードに参加するのは今回が初のガルとシャロは、獣人持ち前の身軽さとパワーで魔物を倒しまくっていた。

 その活躍は彼らの若さの割には凄いもので、周りの冒険者達も負けてなるものかと士気を上げていた。


「それっ!」


 そんな2人の近くでは、ピュイが空中に滞空していて、2人の死角から迫る魔物に矢を放っていく。

 鳥人族は飛行能力もさることながら、視力もとても良いので、数十メートルほど離れた敵に対しても的確に急所を射抜いていた。


「皆んな、少し退がりなさい! 『グラビティプレス』!」


 そんなよく通る声での警告と共に、ガル達の後方で詠唱と共に魔力を高めていたアンネリーゼが、今やもう伝説に分類される重力を操る魔法を発動させた。

 しかも、その類稀なる才能によって完璧に制御されている重力波は、辺り一帯の魔物のみをグシャっと一瞬で圧し潰し、地面のシミへと変貌させた。


「うへー、えげつねぇな」

「アンが私達と来てるのおかしくない?」

「アン、すごいすごーい!」

「ふふん、私にかかればこんなものですわ。 ですが、詠唱の間は無防備ですから、守ってくれて感謝してるわ」


 そんな風に、蒼天の風のメンバーが最前線で活躍する中、横の戦線では……


 ――ズバズバズバズバ!


 たった1人の男によって千に近い魔物が切り伏せられていた。


「あれが、蒼天……」

「すげぇ…… 次元が違い過ぎるだろ……」


 そこに配置された者たちの視線の先には、美しい蒼色の片手剣に風魔法を纏わせて魔物を一太刀で斬り伏せながら、とてつもない速さで戦場を駆け回るジルバートの姿があった。

 元々、蒼天の風というギルド名は、ジルバートの二つ名である『蒼天』から来ていて、その強さは世界でも並ぶ者を見つける事が困難なほどだ。

 実際、二つ名がつくほどの冒険者は、世界でも両手で数えられるほどしかおらず、総じて何かしらの功績を残した者ばかりだ。

 ジルバートも、若くして災害級の魔物を単独で討伐したり、未踏破のダンジョンをいくつも攻略したりと、功績を上げればキリが無い程だ。


「この辺りは粗方片付いたか。 ……それにしても、久方ぶりに暴れると腹が減る。 早く終わらせてシュージの飯にありつこう」


 そんな彼も、今となってはシュージのご飯に魅了された者の1人で、普段あまり態度には出さないものの、毎日毎食楽しみにしていたりする。

 そうして、その後も蒼天の風のメンバーは、とんでも無い強さを見せつけながら戦場を駆け抜けていくのであった。
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