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最終章・転生勇者編
第159話 おまえらさえ、いなければ
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その日、ユウシは1週間ぶりに外の風に当たった。
だが、そこに歓喜はない。
退院日だというのに曇り空なのは、まるでユウシの心の内を表しているようにも見える。
「…………………………」
俯いたまま、彼は何も喋らない。
そんな様子を見かねて気を使ったのか、マーティが食事をしようと提案する。
「せ、せっかく退院したんだ。なんか美味いもんでも食いに行こうぜ!」
「いいですね。そうしましょう!」
「ほらユウシ! 何か食べたいものはないか?」
キララとセイバーもそれに同意し、ユウシに元気を出してもらおうとする。
けど、ユウシの一言は、冷たいものだった。
「………………一人にしてくれ」
それだけ言うと、彼はタイタンの街中へとフラフラした足取りで向かってしまった。
心配そうに見つめる仲間たちだが、マホが「そっとしておこう」と意見を出す。
「一人で考えたいこともあるでしょう」
本音を言えば4人ともユウシの傍にいてやりたい。
しかし、何と声を掛ければいいのかがわからない。
マホの意見を採用し、4人はユウシが立ち直るのをひたすらに待つことにした。
***
この世界は平和だ。
人の顔を見れば、それがすぐにわかる。
冒険者だけじゃない。商人や一般市民。子供、大人、お年寄り。皆が笑顔で過ごし、活気にあふれている。
魔王がいるのに、だ。
普通なら考えられない状況。
魔王がいるのに、誰一人としてそれを危険とは思っていない。
……当たり前だ。
だって魔王にもう脅威は無いのだから。
Sランク冒険者とタローという人物が使い魔にしたらしいから。
悪の象徴たる魔王は、今や正義の味方なのである。
すでに勇者はこの世に必要ない。
おれの使命は終わってる。
ならば、いっそこの世界で最強を目指してみるか?
勇者でなくとも、おれは転生者なんだから。
チート能力もある。十分俺TUEEEはできるだろう。
『――君の実力はたかが知れているよ』
…………最強になれるのか? おれが?
Sランク最強の冒険者。ムサシ・ミヤモトの言葉が心に残っていた。
いや、ムサシだけじゃない。
『――おまえ強ぇけど、アイツほどじゃないぞ?』
アキラ・アマミヤも――。
『――あの人の次くらいに強敵だったっスわ!』
ラン・イーシンも――。
『――だれだよ帰れ、ぶちころすぞ』
アリス・ワンダーランドも――。
『――私たちが知る中で、この世でもっとも強い人です』
レオン・フェルマーも――。
誰一人、おれのことなんか眼中になかった。
強い強いと口では言っていても、いつも誰かの下におれはいる。
おれがどれだけ努力しても、最強になれない。そんな気がした。
魔王を討伐することに意味はない。
最強にはなれない。
おれの今までやってきたことは全部、無駄。
おれのやろうとしていることは全部、無理。
おれが目標を達成することは、不可能。
おれの生きる価値は――。
(…………………………、あれは)
そのとき、それは目に留まった。
黒いジャージを着た金髪の美女が、鼻歌を歌いながら買い物をしている光景。
魔王タイラントだ。
一度会ったことがあるからすぐにわかった。
(アイツは、もうおれの敵ではない……か)
敵だと思っていたその魔王は、倒すべき人類の悪ではなかった。
本当に終わったのだ。
魔王討伐はこれで終了なのだ。
もう、戦う意味はないのだ。
……………………そう思えるか?
魔王を殺せと、そういう教育を受けてきたんだ。
今更、人類の敵じゃないから倒さなくていいと言われ、素直に引き下がれるのか?
そもそも魔王さえいなければ、おれはこんな思いをしなかった!
魔王なんて滅びていれば、おれはこの世界で楽しく暮らしていけたんだ!
おれが…………この世界の主人公になるはずだったんだ……――。
(魔王を倒さないのならば、おれの生きる価値は――無価値なものになる)
ならば、どうする?
決まっているだろう――。
(無価値に、なってたまるか)
その瞬間、右手に剣を出現させ、大地を蹴った。
高速で人混みを駆けていき、魔王に殺意をぶつけた。
「魔王らさえ、いなければ……ッ!」
だが、そこに歓喜はない。
退院日だというのに曇り空なのは、まるでユウシの心の内を表しているようにも見える。
「…………………………」
俯いたまま、彼は何も喋らない。
そんな様子を見かねて気を使ったのか、マーティが食事をしようと提案する。
「せ、せっかく退院したんだ。なんか美味いもんでも食いに行こうぜ!」
「いいですね。そうしましょう!」
「ほらユウシ! 何か食べたいものはないか?」
キララとセイバーもそれに同意し、ユウシに元気を出してもらおうとする。
けど、ユウシの一言は、冷たいものだった。
「………………一人にしてくれ」
それだけ言うと、彼はタイタンの街中へとフラフラした足取りで向かってしまった。
心配そうに見つめる仲間たちだが、マホが「そっとしておこう」と意見を出す。
「一人で考えたいこともあるでしょう」
本音を言えば4人ともユウシの傍にいてやりたい。
しかし、何と声を掛ければいいのかがわからない。
マホの意見を採用し、4人はユウシが立ち直るのをひたすらに待つことにした。
***
この世界は平和だ。
人の顔を見れば、それがすぐにわかる。
冒険者だけじゃない。商人や一般市民。子供、大人、お年寄り。皆が笑顔で過ごし、活気にあふれている。
魔王がいるのに、だ。
普通なら考えられない状況。
魔王がいるのに、誰一人としてそれを危険とは思っていない。
……当たり前だ。
だって魔王にもう脅威は無いのだから。
Sランク冒険者とタローという人物が使い魔にしたらしいから。
悪の象徴たる魔王は、今や正義の味方なのである。
すでに勇者はこの世に必要ない。
おれの使命は終わってる。
ならば、いっそこの世界で最強を目指してみるか?
勇者でなくとも、おれは転生者なんだから。
チート能力もある。十分俺TUEEEはできるだろう。
『――君の実力はたかが知れているよ』
…………最強になれるのか? おれが?
Sランク最強の冒険者。ムサシ・ミヤモトの言葉が心に残っていた。
いや、ムサシだけじゃない。
『――おまえ強ぇけど、アイツほどじゃないぞ?』
アキラ・アマミヤも――。
『――あの人の次くらいに強敵だったっスわ!』
ラン・イーシンも――。
『――だれだよ帰れ、ぶちころすぞ』
アリス・ワンダーランドも――。
『――私たちが知る中で、この世でもっとも強い人です』
レオン・フェルマーも――。
誰一人、おれのことなんか眼中になかった。
強い強いと口では言っていても、いつも誰かの下におれはいる。
おれがどれだけ努力しても、最強になれない。そんな気がした。
魔王を討伐することに意味はない。
最強にはなれない。
おれの今までやってきたことは全部、無駄。
おれのやろうとしていることは全部、無理。
おれが目標を達成することは、不可能。
おれの生きる価値は――。
(…………………………、あれは)
そのとき、それは目に留まった。
黒いジャージを着た金髪の美女が、鼻歌を歌いながら買い物をしている光景。
魔王タイラントだ。
一度会ったことがあるからすぐにわかった。
(アイツは、もうおれの敵ではない……か)
敵だと思っていたその魔王は、倒すべき人類の悪ではなかった。
本当に終わったのだ。
魔王討伐はこれで終了なのだ。
もう、戦う意味はないのだ。
……………………そう思えるか?
魔王を殺せと、そういう教育を受けてきたんだ。
今更、人類の敵じゃないから倒さなくていいと言われ、素直に引き下がれるのか?
そもそも魔王さえいなければ、おれはこんな思いをしなかった!
魔王なんて滅びていれば、おれはこの世界で楽しく暮らしていけたんだ!
おれが…………この世界の主人公になるはずだったんだ……――。
(魔王を倒さないのならば、おれの生きる価値は――無価値なものになる)
ならば、どうする?
決まっているだろう――。
(無価値に、なってたまるか)
その瞬間、右手に剣を出現させ、大地を蹴った。
高速で人混みを駆けていき、魔王に殺意をぶつけた。
「魔王らさえ、いなければ……ッ!」
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