バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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最終章・転生勇者編

第155話 悔い残すこと莫れ

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 足に舌が絡みついた瞬間、ユウシは一気に力を持っていかれるのを感じた。

 防御力:27000
 ↓
 防御力:18689
 ↓
 防御力:11562
 ↓
 防御力:7923
 ↓
 防御力:3928
 ↓
 防御力:498
 ↓
 防御力:84
 ↓
 防御力:0

 地面へ激突するまでの約2秒間で、防御力は全て喰われてしまう。
 その状態で叩きつけられたのだ。大ダメージは免れなかった。

 ドゴォオ゛オ゛ッッッ!!

 地面との衝突音が木霊すると、大きなクレーターが発生した。
 思い切り血を吐くと、ゆっくりと呼吸を整えて意識を保つ。

「ッッッハー……ハァ……」

 意識を失わなかったのは奇跡だった。

(なんてスピードだ……ものの数秒で万単位のステータスを喰いきるなんて……ッ!)

 最大解放前も一撃で大幅に削られたステータス。だがこの速度は明らかにレベルが違う。
 横目でアリスの方に目を向けると、腕や足にある口から伸びた舌が戻っていくのが見えた。
 夥しい量の舌。そこでユウシはその本質に気が付くのだった。

(一口のではなく、喰らうが増えたのか!)

 ユウシに絡みついた舌は一つではなく、大量の小さな舌の集合体であった。
 アリスのスキルである『食欲旺盛イーター』は触れた瞬間にステータスを喰らう能力だ。
 そして、あの時は無数の口から伸びた無数の舌がユウシに触れていた。
 つまり舌一つ一つがステータスを喰らう能力を持っているということになる。

(あの量を掻い潜って、アリス・ワンダーランドを斬れと言うのか!?)

 ユウシの顔から血の気が引いていく。
 その様子をアリスは見逃さなかった。

「……アリスののうりょくにきがついたの?」

 顔を覗き込みながら首をかしげる。
 アリスはまた「うふふ」と笑うと、その力を説明した。

 終之晩餐クイノコスコトナカレは主に二つの能力がある。
 一つはあらゆる魔法を無効化する"喰い残すこと勿れ"。
 そしてもう一つは、舌で触れた数だけステータスを喰らいつくす能力。
 名を"悔い残すことなかれ"。
 大小関係なく一つ一つが同じスピードでステータスを喰らいつくす。
 ちなみにユウシに触れた舌の数は合計で148本。
 防御力を集中的に狙ったため、より早く喰らいつくすことが出来たのだ。
 そして、「……あ、ちなみに――」と、アリスは最後に、喰った力の行方を付け加えた。

食欲旺盛イーターのときは消化にじかんがかかったけど……。ほら、いまならこんなかんじにつかえるの」

 そう言うと、アリスの右腕に血管が浮き出る。
 さらに筋肉が異常に膨れ上がっていく。
 まるで腕だけ、別のモンスターと入れ替えたようだ。

「食べたすてーたすをアリスのすてーたすにかんげんして、ちからをあっぷさせるの」

 無数の口を持つ化け物。さらに筋肉まで肥大化し、身長に似合わない右腕。

「……さぁ、いくよ?」



 ***



 ユウシは回復した直後に剣を構えると、目の前の化け物に立ち向かう。
 が、その心中はというと。

(――無理だ。勝てない)

 半ばあきらめの状態で戦っていた。
 逆境を跳ねのけてのレベルアップ。
 さーこれから反撃かと思いきや、アリスは本気を出してまたしてもピンチに。
 Lv.79にまで上がったのに、防戦一方。
 いや、防戦にもなっていない。
 向かってくるのはアリスではなく、大量の舌。
 何とか逃げようとするも、スピードが足りない。
 盾で防いでみるが、受けきれずに押し切られる。
 ならばとダメージをチャージして解放。
 でも、それも無数の口に喰われ効きはしなかった。

(――詰んだ。どうやらおれでは勝てないようだ)

 もはや戦う気も失せた。
 ユウシは目の前で暴食の魔剣ベルゼブブ振り下ろさんとするアリスを、ただ見つめるだけだった。



 ***



「さあて、アリスちゃんはどうなったかしらねえ」

 アリスとユウシを囲う禍々しき不思議の国エビル・ワンダーランドの外で、アンブレラたちによる地獄のお茶会が開かれていた。
 終始アンブレラが機嫌よく喋っているだけの時間だったが、マホ、マーティ、セイバー、キララにとっては冷や汗の止まらない時間である。
 そんなお茶会だったが、そろそろ1時間が経過したころに、突如来客がやってきた。

「よぉアンブレラぁ。ちょっくら邪魔すんぞぉ~」
「アンちゃ~ん! あのときぶり~!」

 マホ、マーティ、セイバー、キララはギョッとする。
 そこにいたのはアンブレラと同じ代替わりしていない魔王。
 魔王ハザード=ダイヤモンドと、魔王アルバート=ルビーであった。

「あらあら! ハザードにアルバートじゃなあい!」

 アンブレラは二柱を見た途端、嬉しそうに立ち上がると、巨体を揺らしながら二人を抱きしめた。

「おぐッ!」
「ちょッ……アン、ちゃん……苦し――」

 凄い力で締め上げられ、魔王二柱の顔が青ざめていく。

「あらやだゴメンなさい」

 すぐに開放し謝罪したアンブレラは、ようやく用件を尋ねた。
 二柱の要望はシンプルだ。

「あの中にこいつら入れてやってくれや」
「頼んだよアンちゃん!」

 ハザードが後ろにいた二人を指さす。
 一人は紳士服の男。もう一人は羽織を着た青年である。

「ええわかったわ!」

 アンブレラは特に理由も訊かずに了承した。
 と、そのときキララはその二人に興味を示す。

(あ、あの人たちもしかして)

 何度も強者と会っているうちに、キララは勘がよくなっていた。
 魔眼を発動し、二人のステータスを視る。
 そしてその数値に仰天し、すぐに正体を見破るのだった。

「さて、行きますか」
「冒険者は助け合い、ですからね」

 レオン・フェルマーと、ムサシ・ミヤモト。
 Sランクの2トップが、今ここに参戦する。
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