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最終章・転生勇者編

第148話 説得

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 あなたは、突然顔も名前も知らない男に「俺と勝負しろ!」と言われたら何と答えますか?
 ここで「いいぞ」と答えるなら、あなたは極度の戦闘狂か戦闘民族の出身だ。
「嫌だ」と答えるほうが圧倒的多数派だろう。

「…………いきなりそんなこと言うなよ」

 なのでこの場合ユウシが100%悪いのであって、泣きそうなのは自業自得なのである。
 今にも涙が零れそうな勇者を見ていることはできず、マーティ、マホ、キララ、セイバーが一斉に飛び出していった。

「何泣いてるんだユウシ!?」
「13、4の子供に泣かされるな! みっともない!」
「ユウシさん、上を向いてください。涙が零れないように!」
「ほらユウシ、その涙を拭え!」

 仲間たちの必死の呼びかけに、ユウシはかろうじてメンタルを保った。
 セイバーから渡されたハンカチで目元を拭っていると、アリスは何かに気付き口を開く。

「……もしかして、あなた転生者?」
「ッ! そのとおりだ」
「……どうりで」

 なぜSランク冒険者は皆一様に転生者を見抜けるのだろうか? ユウシは疑問が尽きなかった。
 他の冒険者からは全くバレないというのに……。
 いや、今はそんなことはどうでもいいのだ。本題に入ろう。

「おれと勝負してくれないか?」
「かえれ」

 やっぱりダメだった。
 だが諦めきれない。

「少しだけ相手をしてくれるだけでいいんだ」
「かえれ」

「おれには崇高な目的があるんだ」
「かえれ」

「おれは――」
「死ね。もしくは土にかえれ」
「いや、それどっちみち死じゃね?」

 ダメだ。もはや話も聞いてくれない。
 どころか帰宅から死へとグレードアップしている。
 さすがにメンタルがズタボロとなり、ユウシは膝から崩れ落ち四つん這いになった。

「もうコイツ無理だよ。塩対応だよ。
 さっきから対応がキンキンに冷えてやがるぜ」
「それよか、なぜ口調がどこぞのギャンブラー風なのかが気になるんだが……」
「誠心誠意、心を込めて頼めばいいんじゃないでしょうか?」
「……そうかな?」
「きっとそうです!」
「そっか、ならやってみよう」
「おい待てユウシ。キララのアドバイスは当てにしないほうが――」

 呼び止めようとしたが遅かった。
 ユウシはアリスの正面に戻ると、勢いよく頭を下げたのだった。

「勝負してくれぇ~ッ! 頼むよ゛ぉぉぉぉ!」

 やっぱりギャンブラー風だった。

「ぶち殺すぞ…………ゴミめ……」

 やっぱり断られた。

「……あ、はい。すんませんでした」

 ユウシは賭けに負けた。
 だが、これはおかしいことではない。
 むしろこれまでの対戦相手のほうがどうかしていたのだ。
 いきなり戦えと言って戦ってくれるわけがない。本来なら。

(となると、次はレオンか)

 アリスは戦ってはくれない。無理だというのなら、さっさと諦めて次のことを考える方が合理的である。
 ユウシはその場から立ち去ろうと決めた。が、しかし!

「あらあらどうしたのアリスちゃん?」

 そのとき、奥からアリスを呼ぶ声が響いた。
 声の主が近づいてくると、それは恰幅のいい身体をした、頭部がオオカミの女性だった。

「!」

 瞬間、ユウシに電流が走った。
 頭の中で記憶が駆け巡り、アリスの情報について思い出す。

 ――アリス・ワンダーランドは"魔王アンブレラ=サファイア"と契約している。――

(間違いない……魔王だ!)

 一目でその強さに気が付いた。
 反射的に武器を構えようとしたが、何とか理性で抑える。
 相手は魔王だが、アリスの使い魔。主が人を襲わない限り危険はない。

「あら、お客様?」
「……ちがう」
「もうこの子ったら、まあた人見知りして!
 いんやゴメンなさいねえ! この子いま反抗期でしてねえ!」

 あっははっははっはは! 笑いながらアリスの頭を撫でていた。

 その様子を見て、ユウシは思いついた。
 それは反抗期の相手に一番効く方法。

「アリスさんと遊んでほしかったんですけど……ちょっと機嫌悪そうで」

 それを聞き、アンブレラはアリスへと視線を向ける。

「あらそおなの? アリスちゃん! ちょっとくらい遊んであげてもいいじゃない」
「……めんどう」
「そおやって、まあたタローくんの真似ばかり! いいから遊んであげなさい!」

 アリスは口をへの字に曲げた。
 う゛~~~……う゛~~~……と唸ること数分後。

「…………はぁ~~~……わかった」

 考えた末、アリスはしぶしぶアンブレラに従うことにした。
 これでユウシの企みは上手くいき、アリスの了承を得ることに成功した。

(どうだ。これが《お母さんの頼みって、何かわかんないけど断りづらいよね?》作戦だ!)

 ユウシは心の中でガッツポーズをして喜んだ。
 かなり難航したが、ユウシの第3回戦はスタートしたのだった。
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