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最終章・転生勇者編

第141話 二人で一人

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 勇者ユウシ魔王ジードの戦いを一言で言うなら、高速戦闘だ。
 激しく刃が衝突しあい、接触する度に鳴る金属音は1秒間に2度、3度と回数を重ねていく。
 刃が交差する度に火花が散り、周囲の草に引火していく。だが、ユウシとジードの剣の打ち合いは高速で行われているため、その際に発生する突風によりすぐさま消火されていった。

「うぉおおおおおッ!」
「はぁあああああッ!」

 雄叫びを上げる二人の動きは剣を振るうごとに加速していく。
 剣の腕は互角と言っていいだろう。
 だからこそ、この戦いはジードが不利というほかない。

「ッ!」

 均衡が崩れたのはジードの頬に切り傷ができたときだ。
 それは小さな傷であったが、それがジードに知りたくない事実を叩きつけた。

(やはり力では勝てないか!)

 ジードは苦虫を嚙み潰したような表情を思わず浮かべた。
 二人の剣は戦い方こそ全く違うが、腕前自体は互角である。
 この勝負が剣のみの試合であったらなら、ジードは引き分け以上に持ち込めるだろう。
 しかし、この戦いにそんな縛りルールは存在しない。
 剣は同等。ならば勝敗を分けるのはそれ以外の分野だ。

「はぁああッ!」

 ユウシにより黄金の刃が振り下ろされた。
 これがもし、ジードの攻撃であったなら、ユウシは剣もしくは盾で正面から受け止められるだろう。
 だが、ジードはそれができない。
 なぜなら、受け止めるだけの力が足りないからである。

(最初の一撃を受けた瞬間にわかっていた。彼はボクの攻撃力と防御力なんて軽く超えている!)

 残念ながら正面から相手にするのは不可能。純粋なパワーでは圧倒的に劣っている。
 しかし、だからと言って対抗できないわけではない。
 ジードは得意の回転を活かし刃を回避すると、剣の持ち方を変える。

青龍之爪せいりゅうのつめ!」

 避けた瞬間、竜の爪の如き太刀筋でのカウンター攻撃。
 相手の意表を突いた見事な反撃だ。
 しかし。

「――読めているさ、その程度ならなッ!」

 ユウシはジードのカウンターを読んで、盾を準備していた。
 嫉妬の魔剣レヴィアタンが盾により阻まれると、今度はユウシからジードへ、カウンターを返した。
 刃が眼前まで迫りピンチとなる。だが、刃が身体に触れる寸前、ジードは雷を身体に纏わせた。

青龍之雷せいりゅうのいかづち・纏!」

 強烈な電流が身体を走り筋肉が過剰に働くと、雷鳴の如きはやさで距離を取ることに成功した。
 身体に負担がかかるため何度も使えない奥の手である。
 ゆえに、ジードは追い詰められた。

(参ったな……力では勝てない。
 速さでは少し分があるが、何度も使えないし、すぐに対応してくるだろう。
 そして魔法もある……)

 頭で策を弄するが、一つたりとも思いつきはしなかった。
 そのとき、ジードは自分では勝てないことを理解した。
 タローに負けて以降、厳しい修行を課してきたジードであったが、どうやらここいらが限界のようである。
 しかし、悔しさは感じない。
 なぜなら、ジードは一人で戦うわけではないからだ。

「ラン、来てくれ!」



 ***



(こ、これほどなのか……!?)

 セイバーは今、驚愕に目を見開いていた。
 周りには倒れるマーティとキララ、マホの三人。そして自身も膝をつき一歩も動けない状態だ。

「ふぅ~……いい運動だったッス! サンキューッス!」

 ヒラヒラと手を振るラン。
 その身体には、傷一つついておらず、疲れも見られない。
 それもそのはず、ランとセイバーたち4人の戦闘は、わずか3分で決着したのだから。

(全く相手にならなかった……目で追うことすらできないとは……ッ!)

 唇を強く噛み、血が滲む。
 ランにとっては準備運動でしかなかったこの戦い。
 それを示すように、その戦いでランはスキルを使用しなかった。
 4人は身体能力だけで制圧されたのである。
 もちろん命も奪わず、セイバー以外は気を失っているのみだ。

「さて、と。ジー君の方は、っと……」

 準備運動という名の戦闘が終わりランがジードのいる方へと目を向ける。
 それと同時であった。

「ラン、来てくれ!」

 ちょうどいいタイミングで、ジードからヘルプの声がかかったのである。

(意外と早かったッスね……それほどの相手ってことッスか)
「りょーかいッスよ!」

 ジードのところへ向かったランは、嵐のようにその場を去っていった。

「Sランク……私たちとは次元が違う、か――」

 ランが居なくなるのを確認すると、セイバーも意識を手放すのだった



 ***



 ジードが呼んでから3秒も経たず即座にランは現れた。

「今度は2対1か?」

 2対1ではさすがに分が悪いと思ったのか、ユウシは一層気を引き締めた。

「合っていると言えばそうだし、間違っていると言えば間違っているかな」
「自分たち、"二人で一人"なんで!」

 ジードたちの言葉の真意がわからないユウシ。
 だが、姿を見たとき、それは理解できたのだ。

「やろうかラン!」
「おーよ! ――最大解放!」

 ランはスキル、部分変化ヘンシンの最大解放、完全変化チョウ・ヘンシンを発動させた。
 一気に闘気が練りあがり、雰囲気ががらりと変わった。

(最大解放か。受けて立ってやる!)

 ユウシはランの変化を感じ取り、それが奥の手だと思った。
 しかし、それは早計である。
 本当の奥の手はここからだった。

「力を貸してくれ、嫉妬の魔剣レヴィアタン!」

 ジードが魔剣を握りしめると、魔力が高まっていく。
 それが最高潮に達したとき、魔剣から青い光が発生した。

青龍同化せいりゅうどうか!」

 光が二人を包み込む。
 照らされた影は重なり合い、次第にそれは一つになっていく。

「――なるほど、二人で一人か」

 光が止み、目の前のソレを見て、ユウシはあの言葉の意味を理解した。

 頭の角、手と足に備わる鋭い爪。
 後先端部が嫉妬の魔剣レヴィアタンとなった尾。

「「いくぞ、勇者!」」

 青い瞳から蒼雷を迸らせ、青き龍人はユウシに立ち塞がった。
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