上 下
142 / 198
最終章・転生勇者編

第134話 戦闘は突然に……第二弾

しおりを挟む
 そこは静かな渓谷。
 誰も立ち入らないような場所には、一人の男が座禅を組んでいた。
 耳と鼻にピアス、ネックレスに指輪と大量のアクセサリー。上半身は裸であるが、その鍛えられた肉体が美しい、赤みのある髪色の男。

 Sランク冒険者、アキラ・アマミヤだ。

 タローに敗北し、続けざまにムサシに敗北。
 僅差での敗北ならまだしも、アキラはこの二人にキズ一つ付けられないという大敗を喫していた。
 いや、この二人だけではない。
 レオン・フェルマーの戦略、アリス・ワンダーランドの防御力。
 戦闘タイプではないシャルルを除けば、アキラの実力はラン・イーシンの少し上。
 だが、ランは魔王ジードと融合することで、タローに傷をつけられるほどのパワーを手に入れた。

(Sランクの中で、オレは一番弱ェ……)

 自分が最強だと思ってきたアキラにとって、これほどの屈辱は無い。
 だが、アキラは決して心が折れることはなかった。

(最弱上等じゃねぇか……ッ!)

 超える壁が高いほど、やる気に満ちる。
 アキラはそんな男であった。

(レオンを超える。ムサシを超える。そして、タローも秒で超えてやらぁッ!)

 いつもの精神統一を終えると、アキラはシャドーボクシングを始めた。
 これはタローやムサシを倒すために行っている、アキラのである。
 まだ実践に使えるレベルには達していないが、1か月以内には完成するだろうと見込んでいた。
 そうして順調に力をつけ、リベンジに燃えるアキラだった。

 と、そこへ近づく者が五人。その中の一人が話しかけた。

「――Sランク、アキラ・アマミヤだな?」
「あん?」

 アキラが後ろを振り向くと、そこにいたのは男一人に女四人のパーティだった。
 その一団を目にしたとき、アキラはすぐに正体を見抜いた。

「お前……転生者か?」

 一瞬で見破ったことを訝しげに思い、思わず眉間にしわが寄った。

「よくわかったな」
「まぁお前からは強ェヤツ特有の雰囲気が出てるしな。それに――」
「?」
「いや、いい。それよか、転生者様がオレなんぞに何の用だ?」

 アキラが何かを言いかけたが、それは口にしなかった。
 少し気になるユウシだったが、今は目的を果たすのが先なので用件を伝えることにした。

「単刀直入に言う。……おれと戦え!」

 唐突な申し出であった。が、その瞬間にアキラは走り出していた。

「よしわかった、試合開始だッ!」

 アキラは一気に詰め寄りユウシに拳を繰り出した。
 ユウシの後ろにいた4人は不意を突かれ反応できていない。
 だが、勇者はそう簡単に行く相手ではない。
 ユウシは左手の指輪を展開すると、黄金の盾が出現し、アキラのパンチを防いだのだった。

「……いきなり攻撃とは無粋だな」
「喧嘩に合図は無ぇんだよ、バカがッ!」

 アキラは拳を引くと、即座に強烈な後ろ回し蹴りを叩き込んだ。

「ッぐ――」

 ユウシは楯で防いでいたが、その強烈な衝撃により後方へと吹き飛んでいった。
 盾を持っていた手が痺れるのを確認し舌打ちするユウシ。
「チッ」
 すぐに4人の仲間が駆け付け安否を確認するが、目線はアキラを捉えていた。
 キララが回復を施していると、アキラはゆっくりと歩き近づいてくる。

「そういやぁ、お前の名前聞いてなかったなぁ……」

 拳を鳴らしながらギロリと睨むその目からは、セイバーたちも息を呑むほどの殺気が感じられた。
 その瞬間に理解する。

 Sランクと自分たちの、圧倒的なまでの差を。――

「――みんな、下がっていてくれ」

 回復が終わると同時に立ち上がったユウシが命令を下す。
 セイバーたちは悔しがりつつ、その場から離れた。
 それを確認すると、ユウシは右手の指輪も展開させ、剣を手に持った。

「おれはユウシ。転生者であり、勇者だ」
「アキラ・アマミヤ。いずれ最強の座に君臨する男だッ」

 転生者と転移者。
 両雄の戦いの幕は切って落とされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

オタク教師だったのが原因で学校を追放されましたが異世界ダンジョンで三十六計を使って成り上がります

兵藤晴佳
ファンタジー
 30代の国語教師・仮屋真琴は中国兵法に詳しいTRPGオタクである。  産休臨時任用で講師を勤める高校の授業で、仮屋はそれを隠すどころか、思いっきり晒していた。  報いはてきめんに表れ、「兵法三十六計」を使った授業を生徒に嫌われた彼は契約更新を断られてしまう。  むくれる彼は田舎へ帰る次の朝、寝ぼけ眼で引っ越し屋を迎えに出た道で、行き交うダンプカーの前に歩み出てしまう。  遠のく意識のなか、仮屋の目の前に現れたのはTRPGのステータスとパラメータだった。    気が付くと、掟破りの四畳半ダンジョンの中、ゴブリンに囚われた姫君が助けを求めてくる。  姫君の名は、リントス王国の王女ディリア。  亡き先王から王位継承者として指名されたが、その条件となる伴侶のあてがないために、宰相リカルドの妨害によって城内での支持者を得られないでいた。  国内を荒らすモンスターの巣食うダンジョンを自ら制圧することで女王の器を証明しようとしていたディリアは、王家に伝わる呪文で仮屋を召喚したのだった。  その健気さに打たれた仮屋は、異世界召喚者カリヤとして、ダンジョン制圧を引き受ける。  仮屋は剣を振るう力のないオタクなりに、深いダンジョンと無数のモンスター、そして王国の内乱へと、ディープな雑学で挑んでゆく。  授業でウケなかった「兵法三十六計」は、ダンジョンのモンスターを倒すときだけでなく、ディリアの政敵への牽制にも効果を発揮するのだった。  やがて、カリヤのもとには2回攻撃の騎士団長、宮廷を追放された魔法使いと僧侶、暗殺者、街の悪党に盗賊、そしてエルフ娘にドワーフ、フェアリーにレプラホーンと、多くの仲間が集う。  いつしかディリアの信頼はカリヤへの恋に変わるが、仮屋誠は自分の齢と職業倫理で自分にブレーキをかける。  だが、その一方でエルフ娘は自分の巨乳を意識しているのかいないのか、何かというとカリヤに迫ってくる。  さらに宰相リカルドに仕える万能の側近カストは忌々しくなるほどの美少年なのに、不思議な色香で夢の中にまで現れるのだった。  剣と魔法の世界に少年の身体で転移した中年教師。  兵法三十六計でダンジョンを制圧し、王国を救えるのだろうか?    王女の恋に巨乳エルフの誘惑、美少年への劣情というハーレム展開に始末がつけられるのだろうか? (『小説家になろう』様、『カクヨム』様との重複掲載です)

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...