上 下
138 / 198
最終章・転生勇者編

第130話 のちに罪となる無知

しおりを挟む
 留守。
 また留守。
 またまた留守。
 またまたまた留守。
 またまたまたまた留守。
 またまたまたまたまた留守。
 またまたまたまたまたまた留守。

 魔王が留守の七連続。
 一度や二度ならまだしも、さすがに七回連続では勇者だろうが何だろうが心が折れるってもんである。

 そんなこんなで一週間後。ようやく魔王がSランク冒険者の使い魔になったことが知らされたのだった。

「そうか、Sランク冒険者の……」

 その事実を聞いてユウシはすごく落胆した。
 使い魔の契約を結ぶとモンスターは主人を裏切ることは無い。
 契約に必要なのは『絆』である。心を通わせた者にしかモンスターは契約できない。
 そして契約者はSランク冒険者だ。ガラの悪い奴もいるが、全員が世界の平和のために動いている。
 つまり、魔王が主人を裏切り人々を襲うことは100%無い。
 さらに言えば、ユウシの目標である『魔王討伐』も結果的に果たされているのだ。
 なぜなら『魔王討伐』は人々の平和のために行おうとしていたこと。魔王が人を襲わないという時点ですでに世界平和は実現されているのである。

 この瞬間、ユウシは勇者としての使命を終えた。
 本人の知らぬところで"勇者の魔王討伐の旅"は幕引きとなったのだ。

「何年も頑張ったんだけどな……」

 遠くにある空を眺めながら言葉は口からこぼれていた。
 ようやく自分にスポットライトが当たるのだと理解したあの日。
 みんなから羨望の眼差しと称賛の声で溢れるのだと興奮したあの日。
 才能に満ち溢れ、日に日に強さを実感したあの日。
 四人の仲間と共に魔王を討伐しようと誓ったあの日。

 どれもこれも転生前ではありえない出来事だ。
 だから辛い修行も頑張れた。この世界の両親と離れることも厭わなかった。この未来さきにある栄光のために努力が出来た。

 だが、その栄光はもう消失した。
 世界が平和になったのなら、それは良いことだ。
 でもそれはそれ、これはこれである。

 誰しも唐突に目標を失えば、心は空虚となりえるのだ。

(魔王はもう脅威ではない。おれの旅は終わったんだ)

 見上げる空はいつもと違う。
 いつもは澄んでいる青空も、なんだか虚空に見える。
 空っぽだ。まるで自分の心と同じように。

「「「「…………」」」」

 仲間もかける言葉が見つからない。
 出会ってから2年。自分たちはその頃に魔王の討伐を決意したが、彼は生まれてからずっと魔王と戦うことを宿命付けられていたのだ。思いの重さはまるで違う。
 4人はただユウシが立ち直るのを待つことしかできなかった。


 ***


 寝ころびながら空虚な空を見上げていたユウシ。
 飛んでいる鳥、地上を照らす陽光。浮かぶ雲。
 空は何も変わらないはずなのに、自分の心ひとつで見えかたは180度違ってくる。

(おれは、これからどうすればいいのだろう?)

 その疑問が真っ先に浮かんだ。
 魔王は討伐していない。だが危険は無くなった。
 自分は何もしていない。だが平和にはなった。

 それを達成したのは1人の転生者ではなく、6人の転移者。

(Sランク冒険者はたしか転移者だったか。転生者おれとはまた違うらしいけど、特別は一人だけじゃないんだな)

 そう何となく考えた瞬間ときだ。

(――ん?)

 ユウシは自分の考えに違和感を覚えた。

(Sランク冒険者は6だ。そして魔王は7
 Sランク6人……ということは!)

 その結論に辿り着いたとき、ユウシの身体には電撃が走った。
 勢いよく飛び起きたユウシに仲間は驚くが、そんなのお構いなしにユウシは歩み寄りキララの肩をガッと掴んだ。

「キララ! Sランクたちのそれぞれの使い魔は誰だ?」

 いきなり掴みかかられ動揺するキララは「えっと! えっと……!」と目を回しながら答える。

「む、ムサシ・ミヤモトが魔王ハザードで、レオン・フェルマーが魔王アルバート。
 アリス・ワンダーランド、魔王アンブレラ。
 ラン・イーシン、魔王リッカ。
 アキラ・アマミヤ、魔王ハンター。
 シャルル・フローラル、魔王リアムです!」

 それを聞いてユウシは確信を得た。

「一柱……まだ一柱残っている……ッ!」

 先ほどの違和感はこれ。Sランク冒険者と魔王の数の不一致だ。
 Sランク冒険者、つまり転移者ならば魔王を従わせたのも納得できる。正直この世界の人間に魔王を使い魔にできるほどの実力はない。よってこの異世界において魔王を従わせられる者は転移者以外いないということになる。
 そしてそれは、まだ一柱の魔王は野放しだということ。
 今キララの情報に名前が挙がらなかったのは――

「魔王タイラント、か」

 そのときユウシの心に再び火がともった。
 失った目標を、名声を、使命を果たせるチャンスが巡ってきたのだ。

(魔王タイラントの居場所はわからないが、他の魔王はSランクと共にいる。
 ならば次に向かうべき場所は――)

「タイタンへ向かうぞ!」

 発した言葉はとても力強いものだった。

 空は何も変わらない。けれど自分の心ひとつで見えかたは180度違ってくる。
 いまユウシの目に映る空は、とても澄んだ青空だった。

 飛んでいる鳥、地上を照らす太陽。そして浮かぶ雲。

 けれどユウシは気付いていない。
 その雲がのちに地上へ雷と雨を落とす、暗い雲の種であることに。――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4層世界の最下層、魔物の森で生き残る~生存率0.1%未満の試練~

TOYA
ファンタジー
~完結済み~ 「この世界のルールはとても残酷だ。10歳の洗礼の試練は避ける事が出来ないんだ」 この世界で大人になるには、10歳で必ず発生する洗礼の試練で生き残らなければならない。 その試練はこの世界の最下層、魔物の巣窟にたった一人で放り出される残酷な内容だった。 生存率は1%未満。大勢の子供たちは成す術も無く魔物に食い殺されて行く中、 生き延び、帰還する為の魔法を覚えなければならない。 だが……魔法には帰還する為の魔法の更に先が存在した。 それに気がついた主人公、ロフルはその先の魔法を習得すべく 帰還せず魔物の巣窟に残り、奮闘する。 いずれ同じこの地獄へと落ちてくる、妹弟を救うために。 ※あらすじは第一章の内容です。 ――― 本作品は小説家になろう様 カクヨム様でも連載しております。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

処理中です...