125 / 198
魔剣争奪戦編
第117.5話 ガス抜き
しおりを挟む
ムサシは転移したあと、男子病棟で治療を受けた。
治療したシャルルによれば、受けた攻撃は少ないものの、かなりの重傷らしい。
タローの防御貫通が完璧に決まっていたら間違いなく死んでいたというので、ムサシはそれを聞いてゾッとしていた。
後に優勝者のタローもされると、彼はすぐに治療を受けて寝てしまった。
これにて魔剣争奪戦も終了。
激動の一日は幕を閉じたのであった。
***
その夜、ムサシはベッドに腰をかけて窓の外にある月を眺めていた。
使い魔のハザードが横で豪快にイビキをかいて寝ていて、向かい側でアキラもぐっすりと眠っている。
タローも先ほどまでいたのだが、女子たち数人に半分拉致される形でどこかへ連れていかれてしまった。
今ここにいるのはムサシ、ハザード、アキラ、クロス、そして――
「眠らないのですか?」
ムサシに声をかけたのはレオンだった。
切断された腕は完全に治っている。これもシャルルの治療のおかげだ。
ハーブティーを飲みながら話しかけたレオンに、ムサシは小さく呟いた。
「不思議なんだ。
負けたのに、どこかスッキリしていて……心が軽くなってるんだよ」
ムサシは口元に笑みを浮かべながら窓の外を見つめていた。
そんなムサシに「そうですか……」とレオンも穏やかな口調で相槌を打つ。
「負けて悔しいんだけどね。でも、満足してる。
ははは……これでいいのかな?」
初めての感覚に戸惑う。
敗北が己の恥だと思って生きてきたムサシにとって、この感情は新しく、受け入れ難いものであった。
けれど、それでいいのだと、レオンは言う。
「だってこの大会は、Sランクや魔王たちのガス抜きなんですから」
「――ッ」
そう言えばそうだったとムサシは思い出した。
この戦いの発端は、そもそもSランクたちや魔王たちがタローと争わないように提案したものであった。それにはSランク冒険者と魔王が暴れないようにというガス抜きの意味も兼ねている。
そして、それは結果として成功しているのだ。
アリスは食欲以外の恋愛感情を覚えた。
アンブレラはフェニックスとの再戦が叶った。
ランとジードは互いの絆を深め、新たな力と目標を得た。
アキラは自分の目指すべきものをもう一度見直せた。
クロスは一時的にも良い夢を見ることが出来た。
シャルルは新しい友を作れた。
エリスは親友との絆を取り戻せた。
タマコは嫌っていた力を受け入れ、精神的にも成長した。
タローは優勝して100億を貰えた。
ハザードはタローの力に触れ満足した。
そしてムサシは過去を断ち切るのではなく、受け入れることを学んだ。
「君も闇、ちょっとは抜けたんじゃないですか?」
「……あぁ、そうだね」
心を覆っていた闇が少しだけ晴れているのが自分でも分かった。
様々な事情を抱えているSランク冒険者と魔王たち。
それが少しでも軽くなったのなら、この戦いはレオンにとって、最高のエンディングを迎えたと言える。
と、ここでムサシは一つの疑問を抱いた。
「レオンさんは、ガス抜きできたのかい?」
今までの話の中に、レオンは出て来なかった。
もしレオンが自分を犠牲にしてまで他人を優先していたのなら、それはムサシが許さない。
けれど、どうやらそれは杞憂に終わりそうである。
「私のガス抜きは――これからです」
レオンはティーカップに紅茶を注ぐと、それをムサシに手渡した。
「私が満足するまで、夜更かしに付き合ってもらいますよ? ムサシくん」
レオンは今までムサシのわがままに突き合わされてきたのだ。
ならば今回は、自分のわがままに付き合ってもらおうと考えていたのである。
「もちろん。いくらでも」
ティーカップを受け取ると、ムサシはレオンと対面になるように座る。
レオンとムサシはその後、久しぶりに友人として、時間も忘れて語り合ったのであった。
治療したシャルルによれば、受けた攻撃は少ないものの、かなりの重傷らしい。
タローの防御貫通が完璧に決まっていたら間違いなく死んでいたというので、ムサシはそれを聞いてゾッとしていた。
後に優勝者のタローもされると、彼はすぐに治療を受けて寝てしまった。
これにて魔剣争奪戦も終了。
激動の一日は幕を閉じたのであった。
***
その夜、ムサシはベッドに腰をかけて窓の外にある月を眺めていた。
使い魔のハザードが横で豪快にイビキをかいて寝ていて、向かい側でアキラもぐっすりと眠っている。
タローも先ほどまでいたのだが、女子たち数人に半分拉致される形でどこかへ連れていかれてしまった。
今ここにいるのはムサシ、ハザード、アキラ、クロス、そして――
「眠らないのですか?」
ムサシに声をかけたのはレオンだった。
切断された腕は完全に治っている。これもシャルルの治療のおかげだ。
ハーブティーを飲みながら話しかけたレオンに、ムサシは小さく呟いた。
「不思議なんだ。
負けたのに、どこかスッキリしていて……心が軽くなってるんだよ」
ムサシは口元に笑みを浮かべながら窓の外を見つめていた。
そんなムサシに「そうですか……」とレオンも穏やかな口調で相槌を打つ。
「負けて悔しいんだけどね。でも、満足してる。
ははは……これでいいのかな?」
初めての感覚に戸惑う。
敗北が己の恥だと思って生きてきたムサシにとって、この感情は新しく、受け入れ難いものであった。
けれど、それでいいのだと、レオンは言う。
「だってこの大会は、Sランクや魔王たちのガス抜きなんですから」
「――ッ」
そう言えばそうだったとムサシは思い出した。
この戦いの発端は、そもそもSランクたちや魔王たちがタローと争わないように提案したものであった。それにはSランク冒険者と魔王が暴れないようにというガス抜きの意味も兼ねている。
そして、それは結果として成功しているのだ。
アリスは食欲以外の恋愛感情を覚えた。
アンブレラはフェニックスとの再戦が叶った。
ランとジードは互いの絆を深め、新たな力と目標を得た。
アキラは自分の目指すべきものをもう一度見直せた。
クロスは一時的にも良い夢を見ることが出来た。
シャルルは新しい友を作れた。
エリスは親友との絆を取り戻せた。
タマコは嫌っていた力を受け入れ、精神的にも成長した。
タローは優勝して100億を貰えた。
ハザードはタローの力に触れ満足した。
そしてムサシは過去を断ち切るのではなく、受け入れることを学んだ。
「君も闇、ちょっとは抜けたんじゃないですか?」
「……あぁ、そうだね」
心を覆っていた闇が少しだけ晴れているのが自分でも分かった。
様々な事情を抱えているSランク冒険者と魔王たち。
それが少しでも軽くなったのなら、この戦いはレオンにとって、最高のエンディングを迎えたと言える。
と、ここでムサシは一つの疑問を抱いた。
「レオンさんは、ガス抜きできたのかい?」
今までの話の中に、レオンは出て来なかった。
もしレオンが自分を犠牲にしてまで他人を優先していたのなら、それはムサシが許さない。
けれど、どうやらそれは杞憂に終わりそうである。
「私のガス抜きは――これからです」
レオンはティーカップに紅茶を注ぐと、それをムサシに手渡した。
「私が満足するまで、夜更かしに付き合ってもらいますよ? ムサシくん」
レオンは今までムサシのわがままに突き合わされてきたのだ。
ならば今回は、自分のわがままに付き合ってもらおうと考えていたのである。
「もちろん。いくらでも」
ティーカップを受け取ると、ムサシはレオンと対面になるように座る。
レオンとムサシはその後、久しぶりに友人として、時間も忘れて語り合ったのであった。
0
お気に入りに追加
135
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)
荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」
俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」
ハーデス 「では……」
俺 「だが断る!」
ハーデス 「むっ、今何と?」
俺 「断ると言ったんだ」
ハーデス 「なぜだ?」
俺 「……俺のレベルだ」
ハーデス 「……は?」
俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」
ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」
俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」
ハーデス 「……正気……なのか?」
俺 「もちろん」
異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。
たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。
さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。
ヒツキノドカ
ファンタジー
誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。
そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。
しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。
身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。
そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。
姿は美しい白髪の少女に。
伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。
最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。
ーーーーーー
ーーー
閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります!
※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる