バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

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魔剣争奪戦編

第113話 始まりの二刀流(後編)

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 狂った父の暴虐に、僕は怒りを抑えられなかった。
 胴に繋がっていない姉の頭部を静かに床に置くと、抜身の刀を手にした。

『殺す……ッ!』

 僕は怒りに身を任せて父に斬りかかった。
 それが僕の記憶の最後だ。


 ・・・


 気が付いた時には僕の身体は傷だらけで、右腕は皮一枚でつながっただけの状態。
 目の前には血だまりの中に倒れる父。
 左足と左腕、そして頭部が切断されていた。
 けど、正直そんなのどうでもよかった。

『姉さん……』

 僕は首だけの姉を抱きしめたまま動けなかった。
 母を失い、父を殺し、姉を守れなかった。
 何故そうなったのだろうか?
 全ては父のせいか? 育った環境のせいか? 運が悪かったからか?
 どれも違う。
 答えなんて最初からわかっている。
 それを認めたくなくても、認めるしかないのだ。

 母が死んだとき、泣くことしか出来なかった。
 でもあのとき、僕がもっと精神的に強かったら、父と姉を支えられていたかもしれない。

 父が狂いだした時、ただ耐えることしか出来なかった。
 でもあのとき、父よりも強ければ、姉が死ぬことはなかったかもしれない。

 その前も、あのときも、あれもこれもそれも全て――

『全部……僕が弱かったからだ』

 事実が僕に伸し掛かった。
 様々な感情が激流のように荒れ狂うと、呼吸もつられて激しくなる。
 僕は姉の首を抱えたまま過呼吸となり、意識を失った。
 だが、意識を失う直前に感じたのだ。

 身体が宙に浮いたような、浮遊感を。


 ・・・


 次に気が付いた時には、僕は病院に運ばれていた。
 聞いた話だと僕は冒険者という職業の者たちに倒れているのを発見されて病院へと運ばれたそうだ。
 異世界だと聞かされたのはその後のことで、驚きはしたが動揺はしなかった。
 父を殺したという事実と姉を守れなかった自分の弱さに、ただ打ちのめされるだけだった。

 ドラムスという男に転移前のことをポツリポツリと話した後、僕は数か月の間ずっと呆然自失となった。
 そして自分の弱さに心底腹が立ったとき、僕は全てを乗り越えるために強くなろうと決めた。
 これが、僕の冒険者になった切っ掛けである。


 ・・・


 冒険者を始めて1か月で、僕は他を圧倒していた。
 ただ宮本武蔵の子孫だからお遊びで二刀流を使用してみたら、それが偶々スキルの発動条件と合致。
 二振りの刀で戦う強い新人がいるとすぐに噂になったようだった。
 血気盛んな冒険者の中には僕の実力を試そうと喧嘩を吹っ掛ける者もいたが、全て返り討ちにした。
 強さに磨きがかかり僕は強くなっていくのを実感する。
 それなのに、僕は自分の弱さにイライラしたままだ。

(足りない……まだ足りない!)

 モンスターを斬って、斬って、斬って斬って斬りまくった。
 全ては未来に進むためだ。
 過去の自分の弱さを超えなければ、僕はいつまで経っても弱いままだ。

 けれど……

 倒せど倒せど、僕の怒りは増していく。

 だからもっと、斬らなければならないんだ!


 ・・・


 転移してから4年。僕が16歳になったころ、ソイツと出会った。

『お前、俺の弟子にならないか?』

 ソイツ――魔王ハザードの開口一番はこれだった。

『お前の怒りなら、俺よりもコイツを使いこなせることが出来るだろう』

 ハザードはそう言うと腰に携えていた二振りの刀を僕に渡した。
 憤怒の魔剣サタンという魔剣らしいが、強くなれるなら何でもいいと思い受け取った。
 最初はじめは乱暴な剣であったが、すぐにコツを掴み使いこなし、ハザードも訓練に付き合ってくれたおかげで僕は更なる強さを手に入れることが出来たのである。

 そうして僕はオリジナルの剣技、"十二侍神じゅうにじしん"を完成させたのだ。

 この頃になると僕に敵はいなくなり、AAAランクの枠に収まらない特別枠としてSランクという新しい階級に配属されることとなった。


 ・・・


 そして現在。
 敵はいなくなり苦戦もしなくなった僕ではあるが、やはり自分への怒りは収まらない。
 最強の冒険者とも呼ばれることもあるが、やり場のない怒りをぶつけることもできない。
 僕の本気を受けられる人物が欲しかった。

 そして現れたのだ、規格外の男が。

 最初は気まぐれであった。同期のアキラを倒したというから興味本位で見ただけだった。
 だが、それはあまりにも強すぎた。
 見た目では感じられない、真の最強を纏っていた。

 この男を倒せば、僕は弱さを断ち切ることができる……っ!

 新たな自分へと昇華できるかもしれないのだ。

 ここまで追い詰められたことは久しい。
 ましてや人間相手に苦戦など転移してからは一度だって無かった。

(君なら、僕の全力を受けられる)

 さぁ、最後の10分間を楽しもう――

二天一竜ニテンイチリュウ――最大解放」
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