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魔剣争奪戦編

第111話 馬鹿だから出来ること

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 ちょっとした好奇心に身を任せてみると後悔してしまうものだ。と、タローは思った。
 別に悪意的なものも感じず、なんかスゴイことでもしてくれるのだと攻撃を受けてみたらこのザマである。

(あー、完っ全に失敗だったなー……)

 安易に攻撃を受け入れた自分が悪い。
 この場にタマコが居れば「なにやっとるんじゃ!」とでも叱ってくれただろうに。
 いつもは聞き流す叱咤が、今は何よりも恋しかった。

(帰ったら怒られようかな)

 怒られるために帰るというのも変な話なのだが、それには条件がある。
 それは、目の前にいる二刀流の怪物を打倒うちたおさなければならないということ。
 で、自分は今すこぶる調子が悪いわけで……。
 正直今の状態でムサシの相手は手に余るのであった。

「防御貫通を大人しく受け入れるなんて、君もバカだねぇ!」高速で刀を振り翳すムサシ。

(いや、ホント俺もそう思うんだわ)

 自分でもバカだと思っていたタローは斬撃を防御しつつ同意した。
 もちろんそんな心情などお構いなしに、ムサシは攻撃の手を緩めることはしない。
 今度は片手に二本の憤怒の魔剣サタンを持ち、力任せに振るった。

十二侍神じゅうにじしん/丑の刻うしのこく!」

 タローは間一髪のところで回避に成功したためダメージは無かった。
 しかし斬撃の軌道の先では大地が深く斬り込まれており、直撃すれば"死"は確実であっただろう。
 躱せるから良いものの、それすら出来なかったら一巻の終わりである。
 そして問題なのがもう一つあった。

(技がうざったいな……)

 十二侍神じゅうにじしんというムサシのオリジナル剣技。
 今までの力任せの戦法が全く通用しなかったのである。
 直撃すればいいが、このままでは永遠に当たらないということはタローが身に染みて感じていた。
 ではどうすればいいのだろうか?
 この無敵とも思われる剣技に対抗できる手段は何なのか?
 相手を強くしすぎて倒す方法に悩むラノベ作家の如き難しい問題であった。
 が、その答えは意外にもタローは思いついていた。
 それは――

「目には目を、技には技を……ってね」

 タローはニヤリと一瞬だけ口角を上げた。



 ***



 止まらぬ剣の連続攻撃の中で、タローは別のことに集中していた。
 大事なのはイメージ。
 頭で深く考えず(そもそも考えるのが苦手なのだが)、見たものを素直にそのまま実行するだけ。
 そして、タローはそれが存外に得意であった。

(あれ、やってみようかな)

 思い返されたのは最初の一戦。
 小柄な体格ながら凄まじい威力の斬撃を放っていた魔王の動き。
 あの技をタローはしっかりと目に焼き付けていた
 あとはそれを、実行するだけである。

十二侍神じゅうにじしん/酉の刻とりのこく!」

 目の前の敵は二段階の斬撃を撃とうとしていた。

(集中しろ、タイミングを合わせろ)

 タローはここ一番の集中力を発揮する。
 まず一撃目の斬撃を受け止めると、上から二本目の魔剣が振り翳された。

「終わりだ!」

 勝利へと手を伸ばしたムサシ。
 だがそれは、いささか尚早であった。

「――こんな感じだったよな!」

 タローはムサシの二撃目の斬撃を回転して避けると、その勢いで魔剣を振り抜いた。
 予想外の奇襲にムサシは対応できず、その一撃は脇腹に深く入り込んだのであった。

「――ぐっ!」

 スキルにより防御力も多少は上がっているとはいえ、タローの一撃はそれを超えていた。
 メキメキと骨がきしむような音と共に、ムサシは横に吹っ飛ばされ遠くの岩へと激突した。

「ぐはっ!」

 身体に衝撃が走り、今度はムサシが吐血する。
 だがそれ以上に、ムサシはタローの使った技に驚いていた。

(あれは確か、魔王ジードの"剣法舞踊"?)

 遠目でしか確認できていないが、今の動きはまさしく魔王ジードの剣術それであった。
 もちろん技としての練度はジードが上だが、それにしても再現度は高く、威力は本家を超えているかもしれなかった。
「おー、できたできた」と喜びながら近くまで歩いてきたタローにムサシは訊いた。

「その技、教わっていたのかい?」
「別に教わっては無いけど。ただ剣術には剣術かなって思ってさ……形から入ってみました」

 相変わらずよくわからないセリフだ。
 だが何となくムサシは理解した。
 ドラムスから聞いた情報ではタローは知力が低い。
 冒険者になるまで戦闘など皆無であったが、持ち前のセンスで他を圧倒する強さを見せた。
 そして今の、"形から入る"という言葉。
 これらの情報から推測するに――

(彼は、のか?)

 少ない情報ゆえに信憑性は薄い。
 が、実際のところはそれが真実であった。
 言わずもがな、タローは知力が低い。所謂バカである。
 ただその分は鋭敏であり、昔から見たものは素直に吸収できた。
 簡単に言うと、タローはなのである。
 完璧にマスターするのであれば時間が必要だが、呆れるほどの攻撃力を誇るタローならば威力面での心配は皆無であった。
 そしてタローにはもう一つ目に焼き付けていた動きがある。

「たしか、こんな感じだったよな?」

 その構えにムサシは目を見張った。
 それが自身の剣技、十二侍神じゅうにじしん/子の刻ねのこくとほぼ同一であったことに。

(いや、彼は二刀流ではない! それに素早さも――)

 ムサシは一瞬の判断で躱せると確信した。
 が、それは少し甘い考えであった。
 なにせこの男、常識というものが一切通じないのである。

「お返しだ」

 短い言葉の後、放たれたのは無数の連撃。
 確かにスピードはムサシの最高速度に劣るものの、それに近い速度で子の刻ねのこくを疑似再現していたのである。
 ムサシは回避に徹しようとするが先ほどの一撃が響き足が動かない。

「ははは……最高だね君は――」

 ムサシはやむを得ず憤怒の魔剣サタンで防御姿勢に入るが、すぐに無数の斬撃に呑まれたのであった。
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